それは、高校の入学式でのこと。
俺、大野智と同じ新1年生の中に、一際目を引く見目の、明らかに只者じゃない少年が居た。
「芸能人?かわいい」
「見たことないけど推せる!」
「名前知ってる?」
女子は早速チェックしている。さすが、芸能人も通う学校だけはある。しかし、その少年の周りには、芸能人でもないのに人だかりが出来ていた。
誰より小さな顔に、黒目がちで好奇心旺盛そうな瞳。気持ちに連動しているのか、不意にちょっと突き出す愛らしい唇。
大勢の人に囲まれたからか緊張の為か、彼は時折不安気に辺りを見ては左手で胸を押さえている。
そんな彼を見ていると、側に居てやりたいと思ってしまうのは、どうしてだろう?
真新しい大きめの制服が萌え袖になってて、それがまたよく似合っている。しかし、この学年にこんなに目立つ奴が居たっけ?
心当たりが無くて考え込んでいたら、周りの誰かの会話が耳に飛び込んで来た。
「ええっ!?あれ櫻井なの?」
「嘘だろ?美少年じゃん」
「今のアレならありかも」
櫻井?櫻井なら一人だけ、心当たりがあるにはある。しかし、俺の知る櫻井翔という同級生は、こんなに可愛らしい男ではなかったはず。少なくとも、中学の卒業式までは。
それにしても「あり」って何だよ。櫻井の事、変な目で見んなっつーの。
「おはよう、大野君。久しぶり」
突然その少年が俺の名前を呼んで話しかけて来た。声が本当に櫻井だ。間違いない、中学3年生の時のクラスメイト。
「さ、くらい?なのか?本当に?」
「何その反応。俺なんか変?」
「いやいや、めちゃくちゃ可愛いよ」
「あ、ありがとう。大野君にそう言ってもらえたら、それだけで嬉しいよ」
ふふっと微笑む彼の頬が薄紅に染まる。俺は、今まで彼の何を見ていたのだろう。
よく見ると、眼鏡の下の瞳が澄んで美しい事も、愛らしくて形の綺麗な口元も、ちゃんと知っていたはずなのに。
入学式が終わって体育館を出た途端、櫻井は色んな奴に声を掛けられ、俺から離れて行ってしまった。
知らない奴等の背中で、彼が見えなくなってしまうと思っていた時。こっちに向かって戻って来る彼の顔が見えた。
俺を人気の無い桜の木の下まで連れて行くと、櫻井は真っ直ぐ俺の目を見て口を開いた。
「大野君。俺、大野君のこと好きなんだ。もちろん“恋愛”と言う意味で」
ああ、それ、俺が言いたかったと。
言われてから気付いたなんて、なんて情け無い。
「お前、そんなカッコいいヤツだったの?そんで可愛いってズルくない?」
「え?ごめん」
キョトンと目を丸くする君が愛しいけれど、自分自身戸惑っている、今、気付いたばかりのこの気持ちを、どんな言葉にして伝えよう?
俺はひとつ深呼吸すると、彼に想いを伝える為、唇を開いて言葉を紡ぐ。
生まれたばかりの愛の言葉が、桜の花びらに抱かれて幸せそうに舞い上がり、櫻井の中に消えて行った。
『俺も、櫻井のこと好きだ。
多分、ずっと前から。
伝えるのが後になって、ごめんな』
これから始まる、2人で描いて行く恋物語。
それがどんなものになるかは、想像もつかない。だけど、とびきり甘くて優しい物語になればいいなと思う。
おしまい