20250725
今日は仕事が休みで、かと言って何処かに出掛けるほどの気力も無くて。一日中ベッドの中で、夢と現実の狭間をゆらゆらと海月みたいに漂っていた。
午後になって、さすがに起きなきゃと思い、温いシャワーを浴びて目を覚ます。
ずっとほったらかしにしていたスマートフォンを見ると、数件の着信とメッセージが届いている。
必要なものにだけ手短に返信して、最後に残ったのは、今は恋人の大野からの着信だった。
留守番電話が入っている。何か大事な用があったのだろうか?恐々再生してみる。
『えと、今夜8時前に電話するから、寝室のベランダに居て下さい』
寝室のベランダ?
寝室のベランダからは大きな川が見えて、花火大会が良く見える絶好の位置なのだ。
だけど、今日は花火大会でもないし、何も無かったはず。
『了解♡』
了解だけだとあまりにも愛想が無いので、ちょっとは恋人らしくなるかと♡を付けて返信しておく。
たかだか「了解」の返信に悩むなんて、この間までの自分達からは考えられない。
ん?スマートフォンが鳴った。
『♡』
甘い。甘過ぎるぞ、大野。
さすがにこれには返信出来ず、俺は時間だけを確かめると、そわそわとわくわくを繰り返しながら、大野に指定された8時を待った。
7時55分。
俺はスマートフォンを手にベランダに出ていた。そろそろ大野から電話がかかって来るはずなのだが、それより先にメッセージが送られて来た。
『川の方見てて』
川の方?
もうすっかり暗くなった街の真ん中を、緩やかに蛇行する大きな河川。この景色が気に入って、2人で住むことを決めたこの部屋。
まだ暮らし始めて半年ぐらいだが、前から一緒だったみたいに俺達は馴染んで、その居心地の良さには驚く事も多い。
もう8時になる。
俺がベランダの手摺りに凭れ掛かり、川面に目を向けた時、何かが破裂したような音が鼓膜を揺らした。
ーーーーパン!
その直後、空に広がる青い大輪の花。
今日は花火大会じゃないのに。
青い大輪の花と金色の花が、交互に夜空を彩り、気付いたらしい人がベランダから撮影したりしている。
何発の花火が、夜空に散っただろう?
そろそろ終わるかと思っていたところで、それは夜空に現れた。
Let's get married!
夜空一面に広がる金色の「結婚しよう」のセリフに、俺の頭が思考が停止する。「して下さい」じゃなくて「しよう」なんだ。
俺のスマートフォンが鳴り、俺はスマートフォンを耳に当てて微笑む。
『花火、見てくれた?』
子どもみたいな大野の第一声。
「答えなら“YES”しかないのに、こんなにお金かけて何してんだよ」
『青い花火を添えてプロポーズって、綺麗だろうなと思ってさ。嫌だった?』
「……嫌なわけ無いだろ、ばか」
めちゃくちゃ嬉しかった。
『翔ちゃんの“照ればか”最高だね』
「智さんて意外にロマンチストだよね。俺、そのうち砂糖漬けみたいに甘くなっちゃうかもーーーー!?」
突然背後から強く引っ張られると、俺は部屋の中に連れ込まれていた。
「さと、んっ!」
いつの間に帰って来たのか、大野が俺を抱き寄せ、口づけを繰り返す。
「翔ちゃんは、いつも甘いな」
そう言って笑った彼が、誰より甘い表情(かお)をしているんだけど、それは、俺だけの胸にしまっておこうと思う。
おしまい