区の図書館からの帰り、
自転車に乗った櫻井に出会った。


「よお、櫻井」


「大野君!図書館帰り?」


このクソ暑いのに、彼の周りだけ爽やかなミントの香りが漂ってる気がする。顔の良いヤツって得だなあ。


「おお、たまには勉強でもするかなって。けど、気が付いたら全然違う本見てた」


「わかる、やっちゃうよな」


「お陰で思ったより遅くなっちまった。んじゃ急ぐから、またな」


「送ろうか?」


「えっ?でもいいのか?」


「もう暗いし、ちょっとくらいなら大丈夫だろ」


「乗れよ」と自転車の後ろに視線を送り、
櫻井が俺を待つ。俺は櫻井の後ろに跨がり、遠慮なく彼の腰を両手で掴んだ。


すると、櫻井がビクッと反応したのがわかった。脇腹が弱いのか?面白い。


しかし、櫻井は特に何も言わず、思い切りペダルを漕ぎ、あっと言う間にうちの近くの路地裏に到着する。


「ありがとな。助かった」


そっと細い腰から手を離すと、櫻井は安心したように見えた。もう一度、後ろから抱きしめると、櫻井が身を硬くする。


「大野?何だよ?」


「細いな〜って思って」


「太い方が良いのか?俺は太らんぞ」


「うん。今の櫻井が可愛いよ」


「何言ってんだ?熱でも……」 


「無いけど、俺、お前が好きみたいだ」


「みたいって、何だそれ?テキトーな告白してんじゃねえよ」


「本気ならいいのか?」


詰め寄ると、揺れる瞳が俺を唆る。櫻井は答えず、ギリギリのところで耐えているようにも、待っているようにも見えた。


「冗談でこんな事言うかよ。ーーーー好きだ」


櫻井が、息を呑んだのがわかる。俺は彼の前に立ち、彼からの返事を待った。


5.4.3.2.1.0
花弁みたいな唇が、楚々と開く。


「大野、俺ーーーー」






おしまい