*BL小説につき苦手な方はご遠慮下さい。
《 智 》
チャンスって奴は、掴まないと一瞬で消えてしまう。それはまるで、突然現れた初恋の人みたいに。
「俺、ちょっと前から一人暮らし始めたんやけど、うちに泊まるって言うのは?」
目の前の獲物を逃すなと本能が、もう後悔したくないだろうと理性が、全力で知らせて来る。俺が『そう言う意味』をありありと含めて尋ねると、聡明な櫻井は気付いてくれたようだ。
「……智が良いなら」
と、恥じらいに頬を染めて答えてくれる。わ〜めっちゃ可愛い。くそお、人目がなければ、今すぐ抱きしめるのに。
俺の部屋に向かう道すがら、彼に頼んでスーパーに行ってもらい、明日までの食べ物を買って来てもらう事にした。
その間に俺は向かいのドラッグストアで、潤滑剤やゴムなど必要そうな物を買って来ると言う算段だ。先に母に連絡して、明日の休みも了解をもらっている。
勘の良い母は、以前から俺が櫻井を好きで忘れられない事を知っていて、かいつまんで事の成り行きを伝えると、笑って彼を大事にしろと応援された。
でも、さすがに部屋に連れ込んでやるだけってどうなの?と思ってたら、俺の部屋に足を踏み入れた櫻井が、開口一番こう言ったんだ。
「ほんとに引っ越して来たばっかりなんやなあ。時間あるし、荷ほどき手伝うわ」
NOって言いたい。けど、コイツが綺麗好きなのと俺の世話を焼くのが好きなのは、嫌になるほど知ってるんだよなあ。
「翔が言うからするけど、先に……そや、ハンドクリーム!」
俺は慌てて引き出しの奥から例のハンドクリームを取り出し、櫻井のところまで持って来て見せた。
「ほんまに持ってたんや」
「当たり前やろ、お前に嘘なんかつくか」
蓋を開けると、その裏側に張り付いた内蓋を剥がしてみる。そこにはたった一言『好きだ』とマジックで書かれていて、そのシンプルさがやたらと胸に沁みた。
「ごめんな、翔。せっかく勇気出してくれてたのに、気付かんくて。そやけど、ここまで確かめに来てくれてありがとう。俺も翔の事好きやから」
「フラれる覚悟してたのに、まさか両想いだったとか、なんの恋愛ドラマやねん。智も、ちゃんとクリーム使えや。使わんかったら意味ないやろ。それ高かったんやで」
「お前がくれたから、嬉しくて使えんかったんよな。アホやなあ、あの頃の俺」
「ハンドクリームぐらいまた買うたる」
「蓋の内側に好きって書いて?」
「さ、荷ほどきするぞ」
「へいへい」
さすが、一度決めたらやる男。
俺は渋々、投げ出していた引っ越しの段ボール箱に手を掛け、それらを開けて行った。
つづく