*2024.12.06初稿




《 智 》




「う〜寒いなあ」



最近、この辺りの気温も本格的に下がって来て、益々手荒れの酷くなる季節だなと思った。



『おはようございます。今朝のニュースをお伝えします。今日未明ーーーー』



いつものチャンネルのいつものニュース番組。画面の真ん中でニュースを読み上げるのは、爽やかで知的な今をときめく人気のアナウンサー、櫻井翔だ。



「櫻井君はすっかり東京の人やなあ。こんな田舎出身やなんて、誰も思わんやろなあ」



関西の小さな卸売り市場の片隅の食堂“さくら”。いつもの定食を食べながら、俺が聞いているのは、テレビから聞こえる『彼』の声だけだ。



あいつが昔この近くに住んでいて、バリバリ関西弁を喋っていたなんて、今じゃ夢みたいに思える。



俺は魚屋の3代目、彼はこの食堂の3代目で、あの頃の俺達は、とても仲の良い幼馴染みでもあった。



けれど、俺が彼に抱いていた気持ちは、ただの友情ではなかった。高校生になったある日、突然気付いてしまったのだ。彼のちょっとした仕草や身体を見て、反応してしまう自分の身体に。



気付かれて嫌われるのだけは避けたい。そう思って変な避け方をしてたら、いつの間にか俺達には距離が出来ていて、櫻井は何も言わず東京の大学に行ってしまった。



携帯の中に連絡先はあるのに、嫌われてしまったのだと思っていた俺は、連絡する勇気も無く、数年後にスマートフォンに変えたのを機に、アドレス帳の中の彼の連絡先を消してしまう。



そこで俺達の関係は終わったものと、そう思っていた。どうせ俺の片想いだったし、気まずくなってたし、何なら避けられてたような気もするし。彼が東京の大学に行く事すら知らなかったしな。



最後に過ごした高2のクリスマスに、彼のくれたハンドクリームだけが、勿体無くて使えず、未だに俺の部屋の引き出しの奥に眠っている。すごく高そうな、チューブタイプではなく、蓋を開けて中身を掬い取って使うやつ。



寝る前用らしいが、一度試しに使ってみたけど、勿体なくて使えず10年経とうとしている。いい加減捨てないと、もう劣化してると思うのだが、どうしてもまだ踏ん切りがつかない。







つづく