《 智 》
緋翔の欠片で作った蜻蛉玉をネックレスにして、毎日身に付けるようになってから、俺の周りで不思議な事が起こるようになった。
例えば、日本中の赤い花が咲かないニュースが話題になった頃。何故か俺が触ると赤い花が開くようになったのだ。
気のせいかと思っていたが、何度も試して気のせいでない事は確かめた。しばらくしてから、もしかしたらこの蜻蛉玉を身につけているからかもしれないと思った。
緋翔は自分の事を「赤い花を司る神」だと言っていた。だとしたら、蜻蛉玉の中にある彼の欠片に花が反応しているのかもしれない。
それは、例え会えなくても、彼と俺が何らかの目に見えない物で繋がっている証(あかし)に思えた。
赤い花が綺麗に咲かなくなって一年が過ぎた頃。なんの前触れもなく、また赤い花が咲き始めたと言うニュースが日本中を駆け巡った。
街中で、公園で、家々の庭で、赤い花が一際美しく花弁を広げて輝いている。
その時になって初めて、俺は緋翔の具合が酷く悪く病に臥せっていて、花達が咲かなかったのではないかと思いついた。
(俺のせいだ…………)
あの日、カラカラに渇いた花弁になり、粉々になってしまった彼は、一年も苦しんでいたのではないだろうか。
蜻蛉玉を失くして、二度と彼に会えないかもしれないと絶望していたが、あの欠片は彼にとって必要な物で、それが彼の元に戻った事で、彼は完全に復活したのかもしれない。
だとしたら、彼は必ず俺に会いに来る。
あの時、彼は花瓶の礼にと、自らその清らかな身を差し出そうとしていた。その途中で消えてしまったから、花瓶の礼はもらっていない事になる。
何となくだが、彼はそう言う事を気にするタイプのような気がした。神様にしては、やけに人間臭くて、人間から物を貰う事を当たり前だと考えない。そんなところがまた、可愛らしいなと思ってしまう。
赤い花を見ては彼を思い出し、「可愛いね」「大好きだよ、緋翔様」などと小さく声を掛ける日々は、前よりもずっと楽しく、俺は作品作りにも一段と精を出していた。
つづく