緋翔にとっては、大野が見せる花瓶を作る工程の全てが魔法であり、まるで夢のようであった。
先ずは千度を超える炉の中に鉄棒を入れ、溶けてマグマのようになった硝子を巻き付け、鉄棒を回しながら形を整えて行く。
鉄棒に巻き付けた硝子は、彼の手により、まるで生き物のように形を変え、美しく整えられて行く。水飴のようであった硝子が、硬く冷える頃には、すっかり花瓶になっていて、緋翔の胸はいつになく高鳴っていた。
「……これはまた、なんと愛らしい器か」
ウインドウに飾ってある花瓶とはまた違う、可憐なその美しさに溜め息が漏れる。しかし店主は、あの花瓶を売るなら数十万と言っていなかったか?
「大野殿。その、これの代金は?」
ちょっと小振りだが、持ち合わせで足りるだろうかと、緋翔は真顔で考えていた。
「へっ?代金なんか要らないよ。神様からお金なんて、そんな罰当たりなこと」
「しかし、それでは……」
緋翔は納得出来ず、もじもじしている。その姿が大野の眼にどう見えているかなど、気付かないのであろう。
「……じゃあ、身体で払ってもらっちゃおうかな?」
なるべく楽しそうに、冗談に見えるような悪戯っぽく、大野は笑顔で口にした。
「身体で?何処か掃除でもすれば良いのか?私に出来る事なら何でも言ってくれ」
「ほっぺにちゅうしてくれる?」
若干大野の頬が紅潮して見えるのは、高温の炉があるからだろうか?
「ちゅう?接吻のことか?そんなことで良いのなら……」
大野の肩に手を掛け、緋翔が頬に唇を寄せる。そっと焼けた頬に押し当てた唇は、数秒そのままで、やがて名残を惜しむように離れて行った。
けれど、緋翔の頬も大野と同じぐらい紅潮していて、その瞳は潤んで揺れている。それに気付いた大野は、思わず彼の細腰を引き寄せ、微かに開いた赤い唇に口付けていた。
「……あっ!」
最初、緋翔は初めての口付けに驚き、逃げ出そうともがいた。けれど、すぐ口の中に潜り込んで来た彼の舌に応え、戸惑いながらも同じように真似てみる。
真っ赤に溶けた硝子が、高温の炉の中で、ゆっくりと回り続けていた。
つづく