弁護士の資格を得て三年。

俺は男の会社の弁護士として働いていた。しかも、翔には会わないと言う約束を律儀に守り、近くに居るのに会えないでいる。



級友だった松本の知り合いの医師が男の屋敷に出入りしていたので、時折様子を見て教えてもらう事だけが、唯一の翔を知る手立てであり、楽しみで慰めであった。



聞いた話をまとめると、あれから翔は使用人として働いていて、旦那様は新しい金糸雀に御執心のようだ。翔は勉学も続けさせてもらい、今では高等学校の知識も学び、新聞を読むことが楽しそうだとも聞いた。



三年間翔に会わず旦那様の下で働く。



それは三年半前のあの夜、「翔君を引き取らせて頂きたい」と申し出た俺に、旦那様が出した条件だった。しかも、かなりの安月給で、およそ弁護士とは思えない扱いだ。



この男が本当に口約束を守るのかわからない。地位も財も無い俺との約束事など、知らぬと一蹴されれば、どうしようもないのだ。



それでも俺は、条件を飲むしかなかった。

翔は物では無いし女郎でも無い。金銭以外に俺の差し出せるものと言えば、労働ぐらいしか思いつかなかったのだ。



旦那様には既に頭の切れる弁護士が付いていたが、その弁護士を手伝うと言う名目で、俺はお茶汲みや雑用から叩き込まれ、弁護士の仕事を覚えて行った。



恋しい人に会いたいと、胸の痛む夜や身体の渇きを感じて眠れない夜もあった。そんな時には、彼が身に付けていた脚飾りを握りしめ、口付けながら自らを慰め、騙し騙し眠りに就く。



それでも仕事に打ち込めば、時間は速く過ぎて行く気がする。翔に見限られていないだろうかと、不安が過ぎる事もあったが、俺には翔と運命と、旦那様の僅かな良心を信じる他なかった。





爽やかな五月晴れの今日、漸く俺は翔と会うことを許された。



久しぶりに旦那様の屋敷の門を潜ると、広い庭を横切り玄関に向かう。すると、白薔薇の向こうから翔が現れ、俺に勢い良く飛びついて来た。



「智さん!おかえりなさい!」



「しょ、うわっ!!」



あまりの勢いに支え切れず、俺は翔を抱きしめたまま尻餅をついて座り込む。大きくなったなあ、俺の方が背が低いかもしれない。さっき視線の位置が変わらなかったぞ。



「いててて」



「ごめんなさい」



「ああ、ただいま。翔はすっかり大人っぽくなったのに、中身は変わらないな」



薔薇の精かと思うほど、成長した翔は瑞々しく鮮やかで麗しかった。けれど本来持っていた真っ直ぐなところは、変わらぬようだ。



微笑みを交わす俺達を、色とりどりの薔薇が優しく見守ってくれている。目の前の愛おしくてたまらない人が、同じ想いで俺を眩しそうに見つめている。それだけで、この年月が無駄ではなかったのだと思えた。






つづく