*読者の方から言葉を募集して書いた、読み切り作品の『熱視線SHOW TIME!』を元にしています。






『さて、次は『熱視線SHOW TIME!』のコーナーです。櫻井さん、よろしくお願いします』


早朝のテレビから、爽やかなアナウンサーの声が聞こえる、和菓子屋“ひたむき”の工房。ここは、俺、相葉雅紀の自宅であり職場でもある。


「お、始まった!」


「雅紀、手え止めんじゃねえ」


ついテレビを見てしまう俺に喝を入れるのは、先輩職人の大野智さんだ。先輩と言っても、俺より15も年上のベテランだけど。


「承知してますって。ああ、今朝も翔さん麗しい。髪サラサラだし、お肌ツヤツヤだし、恋人居るんだろうなあ。クソ羨ましい」


「雅紀、練り切りが潰れてんぞ」


「えっ?あ、しまった!すみません!」


「勿体ねえから貸せ、味見してやる。……うん。お前、味のセンスだけは間違いないんだよなあ。親方の味だわ。悔しいけど心底美味えよ」


「あざっす!」


「ちゃんとした言葉使え。それこそ、櫻井アナに嫌われんぞ」


「それはやだ!酷いよ、大野さん」


「仕事場では師匠。もう桜の季節か、年々早くなって風情がねえよなあ」


「師匠、新作のミモザ作ってもいいですか?」


「ああ、今日は少し多めに作るか。昨日も昼過ぎには売り切れてただろ」


「よし!頑張って作ります」


俺はこの店の跡継ぎで弟子。まだ職人になって3年目の新米だ。そして、さっきからテレビの中でキリリとニュースを読み上げているのは、アイドル的なルックスで人気の櫻井翔アナウンサー。


「雅紀はまだこの男がいいのか?やめとけやめとけ、どうせこの顔ならモテモテのやりまくりだろ」


「ちょっと大野さん!いくら腕前が良くても、翔さんの事知らないクセに変な事言わないで下さい。失礼過ぎでしょ!」


「俺はお前がおかしな道に行かないように考えてやってんだよ。だいたい、何で男が良いんだ?」


「それを貴方が言えると思ってるんですか?貴方の恋人も男の子じゃありませんでしたっけ?」


「今日は釣り日和だなあ」


「大野さん、まさか今から釣りに出掛けたりしませんよね?さすがに今日は勘弁して下さい。俺一人で店の切り盛りなんて無理ですから」


「仕方ねえなあ。早く育てよ、雅紀坊ちゃん」


「了解です!」


「ほら、スピード上げてくぞ。時間ねえからな」


「ほんとだ。早くしなきゃ……」


「1個ずつ確実に仕上げろ。焦ってもロクな事はねえ」


「はいっ!」


こんな風に俺の毎日は、和菓子と師匠と櫻井アナに始まり、和菓子と師匠と櫻井アナに終わる。


それはとても充実していたけれど、何処か物足りなく退屈で、俺はこの胸の足りなさを埋める、刺激的な物を、無意識に探していたのだと思う。







つづく