《 智 》



夜になって櫻井からメールが届いた。



《今から電話してもいいですか?》



すぐに電話をかけると櫻井が出て、開口一番こんな事を言われた。



『植物園のスタッフと、凄く仲が良いんですね』



「あれ?見てたのか?」



『たまたまです』



見合い中なのに?

何処から見ていたのやら。



「顔を知ってる程度だよ。名前も覚えてなかったぐらいだし」



『ふうん……』



怒ってるのか単に不機嫌なのか、よく分からない。どうしたものか……まいったな。



「それより、また会いたいんだけど、時間作れるかな?いや、作って欲しい」



『どうして?』



「どうしてって、俺達恋人だろ?」



そうじゃなくても好きあってるよな?



『付き合ってませんけど?』 



確かに。付き合ってくれとはまだ言ってなかった。なんて事だ、迂闊だった。



『ごめんなさい、冗談です。先生が俺の知らない人と談笑してたから、妬いただけです』



「お前こそ、お見合いしてたのに」



『お見合い相手は、子供の頃から知ってる遠い親戚で、あのスタッフと付き合ってるそうです。彼女とは男友達みたいな感じで、お見合いは彼女から断ってくれる事になりました』



「そうか、良かった……」



『智さんがいるのに、結婚なんてしませんよ』



「そんな事聞くと、今すぐ会いたくなるだろ。これでもめちゃくちゃ我慢してるのに」



『そんな風に見えないんですけど』



「そりゃあ、カッコ悪いとこ見せて嫌われたくないからな。ところでさっきの続き。来週時間作れないか?少しでもいいから」



『……火曜の夜なら大丈夫です』



「やった!ありがとう!すげえ楽しみにしてる!あ、時間とか細かい事は後でメールする。行き先は内緒だけど、カジュアルな服でいいから。また連絡するな!おやすみ、愛してるよ、翔ちゃん!」



バタバタと電話を切ってから、子供みたいだなと思ったが、もう仕方ない。それより、火曜日までに俺にはやる事があった。








つづく