マサキが居なくなって2度目の春。
翔はいつもの墓地に来ていた。
まだ新しい墓石の上に、
翔の供えた白い花が揺れている。
「……マサキ、また春が来たよ。けど、お前に本当に見せたい花は、持って来られなくてさ」
墓石の上に彫られた名前を指先でなぞると、まだ涙が溢れてしまう。いつまでも女々しいと思うけれど、それはどうしようもない。
「あの、大丈夫ですか?」
不意に背後から声を掛けられ、翔は驚いて振り向き様に回し蹴りを入れた。しかし、相手はそれを軽く避け、楽しそうに笑っている。
「さすが、元警視庁捜査一課」
「誰だ?」
背の高い男だった。短く整えた黒髪にサングラス。ベージュのコートに淡いブルーのデニム。しかし笑っているのに隙が無い。
かなり出来る奴だと翔の勘は告げていた。すると、男がサングラスを外して真っ直ぐ翔を見る。そこで翔は、動けなくなってしまった。
男は翔に歩み寄り、遠慮がちに抱きしめると「ただいま」と囁いた。男は何故かマサキの顔をしていた。
「…………マサキ?本当に?」
しばらくしてから、ようやく翔はこの男がマサキだと納得した。気配や雰囲気で、そのくらいわかる。
「はい。翔さん」
「なんで?どうして?」
矢継ぎ早に問われ、マサキの頬が緩む。1秒でも早く会いたかった。抱きしめて、この涙を拭って、自分が生きている事を教えてあげたいと思っていた。
最新の技術を結集して作られたマサキには、再生機能が備わっていた。しかし破損が大きく、その再生には長い時間を要した。
けれどその時間は、ほとぼりを覚ますのに丁度良かった。世間があの事件を忘れて、今やマサキの事も話題に上らない。と言えるぐらいには。
しかもマサキの再生は、製作者である大野が、離れであるラボを使っていたのだ。それも、マサキの隣では半アンドロイド化をした和也まで再生しながら。
「…………翔さん」
万感の想いを込めて、ずっと呼びたかった名前を呼ぶ。すると、翔はマサキを見上げる。
マサキは翔の潤んだ瞳を見つめながら、少しだけ顔を傾け、待ち侘びる唇に自らの唇を押し当て、柔らかなその表面を唇で喰んだ。
何度となく口付けを交わす2人に、何処からか風の運んで来た桜の花びらがライスシャワーのように降り注いで、再会を色鮮やかに祝福していた。
おかえり、マサキ。
俺の春。
おしまい🌸
