櫻井翔、28歳。
この総合病院勤務の看護師である。
そして、同僚と言っても連絡先すら知らない男に片想い中。そんな苦しい胸の内を綴っていた手帳を、最近失くしてしまった。
多分屋上庭園だと思うのだが、いくら探しても手帳は見つからず、落とし物の届けも出ていないようだった。
あれには自分の名前も相手の名前も書いてはいない。が、よく読めば俺の字だとわかるヤツにはわかるだろう。
ましてや、ONが誰かが読み解かれてしまったら、俺が同僚の大野に想いを寄せている事がバレてしまう。出来ればそれだけは避けたい。
もう一度だけ、屋上庭園に探しに行ってみよう。早出の朝、俺は早目に出勤して屋上庭園内をあちこち見て回っていた。すると、突然大野が庭園に現れたのだ。
「おはようございます。櫻井翔さん、ですよね?」
爽やかに微笑まれ、一瞬たじろぐ。何故ここに大野さんが来るんだ?
「そうですけど、何でしょう?」
「これ、櫻井さんのですよね?」
あろうことか、俺の探していた手帳が、大野さんの手の中にあった。
「……そうです。あの、もしかして」
まさか読んだのか?
「すみません。持ち主が分からなかったので、中を読んでしまいました」
「ですよね」
だろうな、俺だって同じことをするだろう。仕方ないよな、わかってる。多分、よくある事だと思う。だけど恥ずかしくて泣きそう。
男なんてお断りだ!とか何とか言われてバイバイかな。さよなら、俺のセカンドラブ。今夜はヤケ酒決定だ。
「なので、櫻井君。俺達付き合いましょう」
「はあ?」
こうして、何故か俺と大野は付き合う事になってしまった。(謎でしかない)