炎の修学旅行⑤
初日のすったもんだで、すっかり疲れ切ってしまった一行。
トラブル発生の夕食を何とか乗り越え、一旦部屋へと戻りました。
タコ部屋に無理矢理押し込まれた僕らは、こぞって不満を言い合います。
「あんな緊張したら、味も何もわからんぜ!」
「組長(例の柔道教師のセカンドネーム)、なんか機嫌悪かったよね?」
「いっつもじゃねーか!」
みんなそれぞれ、組長(柔道)の横暴な扱いに憤りを隠せない様子。
ちなみに組長というあだ名の由来は、実は教師は隠れみので、真の姿は広域指定暴力団幹部との噂によるもの。
背中に銃創がるとか、 自宅にロシア製の銀玉鉄砲があるとか、数々の疑惑にまみれた危険人物だったのです。
そうこうしていると、風呂へ行く時間になってしまったので、みんな急いで用意を済ませ、大浴場へと向かいました。
僕らが現場へ到着すると、すでに他の部屋の生徒が大勢集まっていて、入り口前で整列させられている最中でした。
僕らもすぐさま列に並び、指示を待ちます。
しばらくすると、列の前に柔道の子分的存在である若手体育教師が現れ、生徒らに叫びました。
体育「いいかぁ!貴様ら!浴場はお前らが入った後に一般の方々も使用されるから、迷惑かけるような事はするなよ!」
風呂でどうやって迷惑かけられるのかは謎ですが、大人しく入れという事なんでしょう。
すると・・・
体育「それから!風呂場のシャンプー・リンスは使用禁止!」
!?`;:゙;`(;゚;ж;゚; )
ざわめく子供たち。
何でも、備え付けのシャンプー・リンスはあくまでも一般客用であって、
僕らは支給された石鹸で頭も体も洗えとの事。
まさに、昭和初期テイスト('A`)
今の僕らにとっては、メ○ットさえも100年早い物なのでしょう・・・。 _| ̄|○
しかも、いつのまにか入浴時間が20分に設定されており、
体育の号令とともに時計でカウントしだす始末。
なんせ、脱衣所に入ってからのカウントなので、みんな急ぐ急ぐ・・・。 ((((*゚Д゚;))))
ゆっくり大きな湯船を満喫するヒマもなく、作業的な入浴を済ませる子供たち。
その間、体を洗わずに湯船に入ってしまった生徒数名が、僕らが立ち入り禁止になっている露天風呂ゾーンに連行され、
ガラスの向こうでシバかれているのを目撃しました。 (T∀T )
~それからそれから~
困難な入浴を終え、再びタコ部屋の9名であります。
疲れを取りに行ったはずなのに、みんなさらに疲労しているのは気のせいでしょうか?
特別やる事も無く、無言でうなだれています。
当然、部屋に置いてある有料テレビも使用禁止措置が施され、電源はONにはなりません。
UNOやトランプと言った遊具の持ち込みは禁止でしたので室内はシーンと静まり返っています。
学校側からは、旅のしおりの復習などという訳のわからない指示を受けていましたが、当然誰もやるはずもありません。
僕は他にする事も無いので、自身の最高傑作であるしおりの『万○座』の表紙
をボーッと眺めていました。
すると、一人の班員が小声で妙な事を言い出しました。
「あのさぁ、お前らアレ持って来た?」
そう言って意味あり気な表情を浮かべるのは、日ごろ『自称元ヤンキー』を言い張っているO君でした。
O君曰く、この学校へ入学する前の中学校では、
『三中の狼』と地元で恐れられていたらしく、傘下に50名ほどの舎弟を抱えていたのだそうです。
どこの三中かは知りませんが、彼のかもし出す異質さは群を抜いていました。
ちなみにO君、チビです。(´・ω・`)
その香ばしいO君、注目するみんなを尻目に、一瞬ニヤリと不敵な笑みを浮かべると、何やら自分の旅行バッグをゴソゴソとあさり始めました。
そんな彼の様子に、沖縄の暑さでやられたのかとみんな心配していると、O君は目当ての物が見つかったのか、アッと声を挙げて、箱の様な物を取り出しました。
すみの方でゴロ寝していたヤツも物珍しそうにO君の元へ寄って来ます。
よく見ると、それは弁当箱でした。
O君「すごいやろ!?これ持って来るの苦労したんだぜ!」
満面の笑みでそう答えるO君にみんな神妙な面持ち。
確かに、今回の修学旅行への持ち物検査はハンパな厳しさじゃなく、あめ玉一つでさえも持ち込むのは困難をようするはずです。
しかし・・・
なんでお弁当なんでしょう?(´Д`lll)
修学旅行に弁当を持って来るなんて話は聞いた事ありません。
行く先々でちゃんと食事は用意されていますし、
意味がわかりません。
すると、それを見ていた班員の一人が優しく一言。
間違えたのか?
あまりの絶妙のタイミングだったので、思わず吹いてしまいそうになりましたが、O君はどこ吹く風と言ったご様子。
O君はバカだなぁ~と言いながら、ゆっくり弁当箱を開けました。
すると・・・
そこには、まだ封を開けていない真新しいセブンスター(タバコ)と『ニューラッキー』と刻印された100円ライターがスッポリ収まっていました。
驚く一同。(((( ;゚д゚)))アワワワワ
O君「やっぱ基本でしょ?」
そう言って得意げな顔でセブンスターの封を開け1本取り出すと、ライターを空回ししながら点けるマネを繰り返しています。 ('A`)
何と命知らずな野朗なのでしょう。
そこまでして見栄を張りたいかと、みんな一様に呆れて物も言えません。
みんなの考えている事はすぐに分かりました。
O君の持ち込み技術に感心している者などいるはずもありません。
巻き添えの恐怖に震え上がっていたのです。(゚д゚lll)
たった2泊3日の短い期間なのに、あえて喫煙のリスクを犯すO君の神経はブッ飛んでいるとしか思えません。
そんな周りの心配をよそに、O君がタバコに火を点けようとしたので、慌てて誰かが止めに入ります。
「バカ!!こんなとこで吸ったら匂いでバレるやろうが!!」
怒るというより、あせった表情の彼の叫びに、渋々窓際へ身を起こすO君。
しつこく一緒に吸わないかとみんなを誘ってきましたが、誰も相手にしません。
O君はやっと諦めたのか、窓を大きく開けると、おもむろにタバコの先に火を灯し、大げさに煙を外へと吐き出しています。
O君「いやぁ~~、この一服がたまらんのよねぇ~( ´ー`)フゥー」
この抑制された旅で、すでにヤニが切れてイライラしている数名は面白くないのか、あからさまにふて腐れています。 ( ゚д゚)、ペッ
ふと窓から望む夜空に目をやると、無数の星たちがタバコの煙でぼやけて見えました。
南国の美しい夜空を背景に、
タバコの煙に巻かれ静かにたたずむ一人のチビ。
JTのCMかと見まがうその光景に、目を奪われていたその矢先、事件は起こったのです。
ドンドンドン!ドンドンドン!
突然鳴り響く荒々しいノックの音。
みんな心臓が止まるほどの驚きで、一斉にドアへ視線を向けます。
激しくドアを叩く音に、誰かの叫び声がかすかに聞こえます。
ドンドンドン!ドンドンドン!
「開けんかコラァァァァ!!!!」
柔道です。ガ━━(゚Д゚;)━━━ン!!
恐らく、喫煙がバレたか。
異常事態発生に変わりません。
お前はCIAかと思うほどの嗅覚です。
しかし、まだバレたと決まったわけじゃありません。
とにかく早くドアを開けなければ、ますます怪しまれてしまいます。
O君はすでに白い灰となって腰を抜かしていました。
早くタバコを隠さねば!!!((((;゚Д゚)))
班員の誰かが、抜け殻となったO君の手からとっさにタバコとライターを奪い取り、勢い良くトイレに投げ込み扉を閉めました!
それを見計らって、入り口ドアが開け放たれます!!
柔道「何ですぐ開けんか!!コラァァ!!」
切れまくっている柔道を、
なぜか、みんな正座でお出迎え。
氷のような戦慄が実内を満たしてゆきます。
柔道は怪訝そうな表情で正座する9名の周りをゆっくり歩き回っています。
そして窓際まで来ると、急に立ち止まって言いました。
柔道「・・・誰が窓開けた?」
一斉に引きつる一同。
「いや・・・暑かったんで・・・。」
そうポツリと漏らす誰かの声は、恐怖で震えていました。
柔道はそれっきり、しばらく黙っています。
喫煙はバレているのでしょうか!?
それとも、ただの巡回か・・・?
一瞬たりとも予断を許さない状況に、足のしびれも忘れていました。
すると、突然最悪な状況が舞い込んできたのです。
柔道「コレ・・・何や?」
恐る恐る振り返ると、柔道の手にあったのは、
何とO君がタバコを入れていた弁当箱じゃありませんか!?
(((( ;゚д゚)))
柔道「これ、誰の持ち物や?」
O君は今にも泣き出しそうな表情で、手を挙げています。
柔道「何でここに弁当があるとや?」
当然の疑問でしょう。
果たして、O君は何と答えるのか!?
その瞬間、僕らは奇跡の発言を目の当たりにしたのです!
O君「お・・お母さんが食べなさいって・・・。」
これには柔道も予期しない答だったのか、ハトが豆鉄砲食らったような顔をしてます。
柔道は意外にも、「ふーん」といった様子で、弁当箱の存在をスルー。
O君、偉大な仕事っぷりでした。
と思ったのも束の間、柔道はなんと今度はトイレに向かうではありませんか!
(゚▽゚|||)
トイレには、さきほど誰かが投げ入れたタバコとライターが散乱しているはずです!!
柔道が、そのheaven's doorを開けた時、
地球は滅亡します。
もはや人類の存亡を賭けた事態・・・。
負けられない戦いがそこにはある。
しかし、柔道は真っ直ぐトイレへと向かい、今にもドアに手をかけようとしています・・・!
終わった・・・。
みんながそう諦めた時でした。
O君「う・・・う○こしたい!!((((*゚Д゚;))))」
まるで雄叫びのようなO君の神発言。
O君はそう叫ぶと、柔道を押しのけて無理矢理トイレに駆け込んでしまいました。(゚▽゚|||)
時が止まる室内。
O君の明らかにおかしなタイミングで便意を訴えたにもかかわらず、勢いとテンションだけで押し切った見事な技に、なんてベタなんだとみんな泣きそうになっていると、またまた奇跡が起きたのです。
柔道「・・・お前ら、消灯まで騒ぐなよ!」
なんと、トイレに立てこもるO君に構う事無く、柔道はそう言って退散していくではありませんか!!
( ;゚д゚)
世界は核の恐怖を脱したのです。
現実では計り知れない出来事。
神々しい力が介在したとしか考えられません。
かくしてタコ部屋一同の戦慄の事件は、歓喜の内に収拾する運びとなったのでした。 (ノ´∀`*)
P.S
翌日、みんなに迷惑をかけたO君は、朝イチで沖縄名物『ちんすこう』を奢らされるハメとなったのは言うまでもありません。
つづく