商標が類似とされた例 | SIPO

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審決例(商標):類否150

 

<審決の要旨>

『(1)結合商標の類否判断について

 複数の構成部分を組み合わせた結合商標については、その構成部分全体によって他人の商標と識別されるから、その構成部分の一部を抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは原則として許されないが、取引の実際においては、商標の各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められない商標は、必ずしも常に構成部分全体によって称呼、観念されるとは限らず、その構成部分の一部だけによって称呼、観念されることがあることに鑑みると、商標の構成部分の一部が需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や、それ以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる場合などには、商標の構成部分の一部を要部として取り出し、これと他人の商標とを比較して商標そのものの類否を判断することも、許されると解するのが相当である(最高裁昭和37年(オ)第953号同38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁、最高裁平成3年(行ツ)第103号同5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁、最高裁平成19年(行ヒ)第223号同20年9月8日第二小法廷判決・裁判集民事228号561頁参照)。

(2)本願商標について

 本願商標は、「SHINANO TENT」の欧文字を標準文字で表してなるところ、本願商標は、その構成中、「SHINANO」及び「TENT」の各文字部分が、一文字分の間隔を空けて配置されていることから、視覚上、分離して看取、把握され得るものであり、外観上、各文字部分が、それらを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合している事情は見いだせない。

 また、本願商標の構成中、「SHINANO」の欧文字は、辞書等に載録のないものであって、特定の意味合いを認識させるものではない。そして、既成の語ではない欧文字にあっては、我が国において親しまれている英語又はローマ字の発音に倣って称呼するのが一般的であるから、その構成文字に相応して、「シナノ」の称呼が生じるものである。

 他方、その構成中、「TENT」の欧文字は、「テント」(「ジーニアス英和辞典 第5版」株式会社大修館書店)の意味を有する、我が国において広く一般に親しまれた語である。そして、この欧文字は、本願の指定商品中、第22類「登山用又はキャンプ用のテント,テント,キャンプ用スワッグテント」との関係において、需要者に、商品の普通名称又は品質を表したものと認識させることから、当該部分は自他商品の識別標識としての機能を有しないか、極めて弱いものというのが相当であり、これより、自他商品の識別標識としての称呼及び観念は生じないというのが相当である。

 さらに、「SHINANO」の文字部分は、特定の観念を生じないものであるから、「SHINANO」及び「TENT」の各文字部分の間に、観念的にも密接な関連性を見いだすことはできない。

 そうすると、本願商標は、その構成中の「SHINANO」の文字部分が、独立して需要者に対し商品の出所識別標識としての機能を果たし得るものといえる。

 以上から、本願商標からは、その構成中、「SHIANO」の文字部分を要部として抽出し、この部分(以下「本願要部」という。)を他人の商標と比較して商標の類否を判断することが許されるというべきである。

 してみれば、本願商標からは、「シナノテント」の一連の称呼のほか、本願要部に相応して、「シナノ」の称呼が生じ、特定の観念は生じないものである。

(3)引用商標について

 ア 引用商標1は、「SINANO」の欧文字を標準文字で表してなるところ、この欧文字は、辞書等に載録のないものであって、特定の意味合いを認識させるものではない。

 そして、既成の語ではない欧文字にあっては、我が国において親しまれている英語又はローマ字の発音に倣って称呼するのが一般的であるから、引用商標1からは、その構成文字に相応して、「シナノ」の称呼が生じ、特定の観念は生じないものである。

 イ 引用商標2は、左側に、内部に白抜きで二つの「!」(エクスクラメーションマーク)を表した、赤色に塗りつぶされた楕円型図形を配し、その右側に、同色で「SINANO」の欧文字を横書きしてなるものであり、その構成中、左側の図形部分は、直ちに特定の事物を想起させないから、これよりは特定の称呼及び観念は生じない。また、右側の「SINANO」の欧文字は、辞書等に載録のないものであって、特定の意味合いを認識させるものではない。

 そして、引用商標2の構成中の、図形部分と文字部分とは、これらを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものとはいい難く、さらに、図形部分と文字部分は、ともに、特定の意味合いを認識させるものではなく、図形部分と文字部分との間に、観念的にも密接な関連性を見いだすことはできないから、図形部分と文字部分とは、それぞれが独立した要部として、自他商品の識別標識としての機能を果たし得るものとみるのが相当である。

 そうすると、引用商標2からは、その要部である「SINANO」の欧文字に相応して、「シナノ」の称呼が生じ、特定の観念は生じないものである。

(4)本願商標と引用商標の類否について

 ア 本願商標と引用商標1を比較すると、外観について、全体の構成との比較においては相違するものの、本願要部と、引用商標1との比較においては、「H」の欧文字の有無に差異があるとしても、他の文字はすべて同じつづりからなるものであり、かつ、書体も同一であることからすれば、両者は外観上、近似した印象を与えるというのが相当である。

 そして、称呼においては、「シナノ」の称呼を共通にするものである。

 また、観念においては、いずれも特定の観念が生じないから比較することができない。

 したがって、本願要部と引用商標1とは、観念において比較できないとしても、「シナノ」の称呼を共通にし、外観上近似した印象を与えるものであるから、これらの外観、称呼及び観念によって需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して考察すれば、本願商標と引用商標は、相紛れるおそれのある類似の商標というのが相当である。

 イ 本願商標と引用商標2を比較すると、外観について、全体の構成との比較においては相違するものの、本願要部と、引用商標2の文字部分との比較においては、「H」の欧文字の有無に差異があるとしても、他の文字はすべて同じつづりからなるものであり、かつ、両者の書体はいずれも一般に用いられるものであることからすれば、両者は外観上、近似した印象を与えるというのが相当である。

 そして、称呼においては、本願要部と引用商標の要部とは「シナノ」の称呼を共通にするものである。

 また、観念においては、いずれも特定の観念が生じないから比較することができない。

 したがって、本願要部と引用商標2とは、観念において比較できないとしても、「シナノ」の称呼を共通にし、外観上近似した印象を与えるものであるから、これらの外観、称呼及び観念によって需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して考察すれば、本願商標と引用商標は、相紛れるおそれのある類似の商標というのが相当である。(下線・着色は筆者)』(不服2024-446)。

 

<所感>

本件に関し請求人は、本願商標を構成する「SHINANO」及び「TENT」の各文字部分は著しく分離しているものではなく、また、本願商標の構成中、「SHINANO」の文字から、信州の旧国名である「信濃」を認識するとする場合、この語は商品の産地・販売地を表す、品質等を表示する語となり、「SHINANO」の文字部分も、出所識別標識として、需要者に強く支配的な印象を与える部分とはいえないから、本願商標は、「SHINANO TENT」全体で一連一体の商標であり、その構成中、「SHINANO」の文字部分が単独で要部として抽出され、この部分をもって商標の類否を判断されることはないと主張した。しかし、審決も言及しているように本願商標の各文字部分は、外観上、分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合している事情は見いだせず、また、各文字部分の間には、観念的にも密接な関連性を見いだすことはできないことが大きい。しかも願商標の構成中、「TENT」の欧文字が、本願の指定商品中、第22類「テント」等の指定商品の普通名称又は品質を表すものであり、自他商品の識別標識としての機能がないか、極めて弱いものであることも考慮すればその主張は難しいのではないだろうか。