商標が非類似とされた例 | SIPO

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審決例(商標):類否138

 

<審決の要旨>

『(1)本願商標について

 本願商標は、「クララクリニック」の文字を標準文字で表してなるところ、構成各文字は、同じ書体及び大きさをもって間隔なく表されており、全体として外観上まとまりよく一体的に表されており、その構成中「クララ」の片仮名は、「イタリアの聖女」(「広辞苑  第七版」株式会社岩波書店)の意味を有するものの、この文字は、我が国で一般に親しまれた語ではなく、本願の指定役務との関係において直ちに何らかの意味合いを理解させるものではないことから、これよりは、特定の意味合いが生じないものといえる。

 また、本願商標の構成中「クリニック」の文字は、「診療所」(前掲書)の意味を有する、親しまれた語であり、当該文字は、「○○クリニック」のように、前の語と組み合わされて、固有の診療所の名称を表すものとして把握されることが多いというのが自然である。

 してみると、本願商標は、構成文字全体として診療所の名称を表したものと理解されるといえるものの、具体的な意味合いを認識させるとまではいい難いものである。

 また、本願商標全体より生じる「クララクリニック」の称呼も、格別冗長なものでなく、無理なく一連に称呼し得るものであることからすると、まとまりよく一体的に表された本願商標の構成においては、本願商標に接する需要者は、殊更、「クリニック」の文字を捨象し、「クララ」の文字のみに着目するとはいい難い。

 そうすると、本願商標に接する需要者は、本願商標を一体不可分のものと認識、理解するとみるのが相当であるから、本願商標からは、その構成文字に相応して「クララクリニック」の称呼が生じ、特定の観念を生じないものである。

(2)引用商標について

 引用商標は、「くらら」の平仮名を標準文字で表してなるところ、該文字は、「マメ科の多年草」(前掲書)の意味を有するものの、我が国において直ちに特定の意味合いを理解させる語として広く親しまれているとはいえないものであるから、これよりは、その構成文字に相応して「クララ」の称呼が生じ、特定の観念を生じないものである。

(3)本願商標と引用商標の類否について

 本願商標と引用商標を比較するに、外観においては、両商標は、上記(1)及び(2)のとおり、片仮名と平仮名とで文字種が異なり、全体の構成文字数も明らかに相違するから、明確に区別できるものである。また、称呼においては、本願商標から生じる「クララクリニック」の称呼と、引用商標から生じる「クララ」の称呼は、構成音及び音数に明らかな差異があるため、両商標は、明瞭に聴別できるものである。そして、観念においては、いずれも特定の観念は生じないため、比較することができない。

 そうすると、本願商標と引用商標とは、観念において比較できないとしても、外観及び称呼において明確に区別及び明瞭に聴別できるものであるから、これらを総合して判断すれば、両商標は、相紛れるおそれのない非類似の商標というのが相当である。(下線・着色は筆者)』(不服2023-19132)。

 

<所感>

 過去には本願商標と似たようなケースにおいて指定商品又は指定役務の関係でクリニックのように識別力の弱い部分がある場合には一体把握ではなくクリニックを除く部分(クララ)を要部とするような審決もあった。例え同じ本願商標のように片仮名だけの文字種で一体化していてもである。しかし本審決では否定している。事案が異なるということなのであろうか。近年の審決には外観を称呼や観念より優先し、全体の類似の範囲を狭くしてなるべく多くの商標の保護を図る運用がなされているように思わざるを得ない。