東日本大震災の女性の記録
日本茶専門店の店長さんとの会話 ―自分らしく生きて-
インタビュー時 50代
2018年10月11日
聞き手 千葉直美
―店内は日本茶の香りに満ちている。たくさんの種類の茶箱が並ぶ日本茶専門店である。店の奥へ足を進めると、なぜか心が落ち着いてきた。外の世界とは違う、静かな空間。Aさんは、日本茶アドバイザーの資格を持つ店長である。窓際のテーブルに案内され、出された一服のお茶に、ほっとする。
「ここも津波で被害を受け、プレハブの仮店舗で営業していましたが震災から3年目の2014年4月に店を新しく建てることができました。もうお店はできないと諦めていたのですが、お客様が“待っているよ”と温かい言葉をかけてくださったことが励みになりました。3月11日から一か月後、葬儀のためのお茶の注文が入ってきました。その時から“やらなきゃ”って思い始めたのです。地元の人達、全国の人達、みんなに助けられました。これまでの人との繋がりが支えてくれて、全国のみんなが心配してくれていることがわかったご縁って大切ですね。」
―ふんわりとした笑顔で話してくれる。
「動いていると元気になるんですね。考えてばかりいると暗い気持ちになって、良くない。私は、前もって物事をちゃんと計画できない性格で、その時々で対応して、必死に取り組むしかないんです。店の仕事は、結婚する前の、会社員だったころの会計の経験が役にたっています。人生で何も無駄なことはありません。震災後に、30代の女性ボランティアとしゃべっているとエネルギーをもらいました。お茶のパッケージのデザインやお店の写真の撮り方とか、アイデアをいただけました。
人を大切にしていくことも学びました。苦しいけれど笑顔でいると、周りのみんなも笑顔になって、私自身も働きやすくなります。もっと進まないといけないと思う時もありますが、でも少しづつ進んでいるなぁとも思います。小さな喜びも増えました。小さな幸せを大切にしたいです。あの震災を経験した今は、何が起きるかわからないということ、やはり家族を大切にしたいという気持ちが強いです。幸せは一人ひとり違います。それに、人それぞれが違っているから面白いのですよね。人に会うというのは、自分にないものを持っているから、その人に会わせてもらっていると考えるようにしています。お店をやっているけど、自分は能動的でも積極的でもない人間なんです。ただ、自分らしく生きて役に立ちたいとは思うんですよ。人って、言った言葉が記憶に残っていていつか思い出すもので、言葉は大切にしたいです。
ご葬儀での仕事をさせていただく時、ご遺族の悲しみの中に入ってはいけないと心がけています。家族や親族だけで悲しみたい時、邪魔しないように。今後もいろいろなお仕事をしてお手伝いをさせていただき、関わりあいたいです。
娘が、若い考えで助けてくれるようになりました。地元で栽培される緑茶から紅茶を作るという新しい事業も始まりました。」
―店の外で見送ってくれたAさんは、そこだけお茶畑のさわやかな澄んだ空気が漂っているようだった。