イタリアのトリノはトリノ冬季五輪で荒川静香が日本女子初の金メダルを獲得した験のいい場所。
しかし2018年韓国平昌冬季五輪で優勝した羽生は、その年のグランプリファイナルのジャンプ練習中に足首を負傷、代わって優勝したのがネイサン・チェンだった。その後のチェンの活躍は完全に羽生を脅かす存在になった。
ショートプログラムでも唯一100点を超える110.3を出し、羽生の97.4を13点リードリードした。フリーでチェンに大きなミスがなければ到底逆転は無理と考えた羽生は4種類の4回転ジャンプ5本という、かなり無理のある構成を入れた。序盤のジャンプは成功したものの、最後の方のコンビネーションジャンプで着氷が乱れ、回転不足が重なり大きく減点された。最後のラストポーズさえ乱れるほどの疲労が全てを物語っていた。
それに対し、最終演技者として登場したチェンは最初から非常に落ち着いていた。最初の4回転ジャンプをいつものように完璧に成功させると最後まで軸がぶれることなく完璧な4回転ジャンプを余裕で成功させた。解説者の織田氏が言うには、高いジャンプと同時に回転が始まり着氷のときの回転不足はないくらい完璧なものだった、と。羽生の場合、やや軸が偏ってジャンプしてしまって着氷が乱れることが見受けられたが、チェンは終始軸が安定していたのが成功の最大の要因だろうと思う。
結果は羽生の合計点291.43に対してチェンは335.30。今年のグランプリファイナルは44点差でチェンの圧勝に終わった。この日が誕生日だという羽生、優勝で最高の誕生日とならなかったのは残念だった。誰よりも負けん気の強い羽生はこのままでは終わらない、と早くも闘志を燃やしていたのが頼もしい。これだけ安定性のあるジャンプを見せて完全優勝したチェンは平昌五輪では17位と全く振るわなかった。逆にそれがバネとなり基礎からやり直す結果となったのだろう。それがこの信じられないほどの安定感、それは10歳まで続けていた体操経験で身に着けたジャンプのときの空間認識能力ではないかという見方がある。それが軸のぶれない回転を生み出し、ジャンプやスピンに生かされているとみている。羽生が再度チェンを上回る世界最高得点をたたいだすにはやはり軸のぶれないジャンプの安定感が欠かせないだろう。羽生の負けん気に期待したい。