我が家のお隣の家にショウ君という若者がいる。
今日久し振りに会ったのだが実に逞しい青年になっていた。
実は彼は小学校の時、登校拒否児童だったのだ。
何が彼を登校拒否にさせたのかは知らないけれど、5年生頃から急に学校に行かなくなっていた。
こういう場合普通は親は慌てるものである。
とり乱しわめき散らし果ては我が子にあたるのである。
しかしお隣の御両親は違っていた。
「行きたくなったら行くでしょう。」
そう言って特にショウ君を叱るわけでもなく、理由を問いただすわけでもなかった。
学校の先生が時々訪ねて来ていたが、同じ様なことを言っていたように思う。
そうこうしているうちに親の気持ちが通じたのか、彼は時折登校するようになっていった。
そして無事にかどうかは分からないけれど彼は小学校を卒業した。
さて中学校でも彼は登校拒否になってしまったのだ。
しかし親の対応は以前と変わりなかった。
実に優しい眼差しで彼を見ていたのである。
何も手をうたないのは親として失格だという人もいるかもしれない。
しかし果たしてどんな手をうてばいいというのか?
私は彼に会うといつも「おっす!」と言っていた。
普通に「こんにちは」でも良かったのかもしれないが、何となく「おっす!」の方が良いような気がしたからだった。
私が「おっす!」と言うと彼ははにかみながらも小さな声で「おっす!」と返してくれた。
そんなことが何回か続いているうちに、彼は微笑みながら「おっす!」と言ってくれるようになっていったのだった。
私が彼にとって好ましい人間として認知されたのだと思っている。
彼の登校拒否は相変わらず続いていたが、小学校の時と違っていたことがあった。
それは頻繁に友だちが訪ねて来たことである。
何度も登校していない中学校ではあったが、いつの間にか彼の良き理解者が出来ていたようであった。
そんな友だちが彼を救ったように思う。
彼は友だちに促されるようにして登校するようになっていったのだ。
何しろ毎朝迎えに来ていた。
登校しようがしまいが必ず迎えに来ていたのだ。
彼は今度は本当に無事に中学を卒業した。
その後彼は高校へは進学せずに働いている。
正社員として働いているようではないようだが、それでも毎日きちんと仕事に行っている。
そんな彼もいつの間にか20歳になっていた。
そしてかの友だちは相変わらず彼を訪ねて来ている。
夜遅くまで彼の部屋からは話し声が聞こえてくるのだ。
実に楽しそうである。
夜遅くまでいても御両親は全く文句は言わない。
それどころか友だちの帰り際に「ありがとね。また来てね。」そう言っているのを何度も聞いたこと
がある。
とても良い御両親だと思った。
そしてとても良い友だちだとも思った。
彼は良い人たちに囲まれて自分の意思で歩き始めているようだ。
久し振りに会った彼に私は「おっす!」と言ってみた。
彼は微笑みながら「こんにちは。」と言った。
彼は自動車の整備士を目指して頑張っているようである。
俺も負けてはいられないなぁ~
唐突だがそう思うのだった。