映画の話(ミュージカル編2)。 | 上から読んでも下から読んでもナカノカナ。~相模原・町田の女装娘カナの気まぐれ雑記~
前回の話の続き。

前回書けなかった他の作品を紹介しますね~。


巴里のアメリカ人
An American In Paris
'51 / ヴィンセント・ミネリ

ジーン・ケリー
レスリー・キャロン
オスカー・レヴァント
ジョルジュ・ゲタリー

今回は前回紹介しなかった、ジーン・ケリーの作品から。

ジーン・ケリーはアステアと双璧をなすダンサー。ダンスの振付もこなし、本作の劇中の振付も担当している(他に監督業もしたりする)。

当時は洗練されたアステアに対して泥臭いと評されもしたが(エネルギッシュなスタイルでスポーツ選手が踊ってるみたいと言った人がいました)、バレエなどを取り入れダンスの発展に貢献した事は後年評価されました。

パリに住むアメリカ人画家が、知り合った娘と恋に落ちるが、彼女は知り合いの芸人と婚約していて…。

(純粋な意味での)映画オリジナルの作品でも、舞台の映画化でもなく、既存の楽曲を集めて新たに物語を構成する手法は、当時よく用いられた(かの有名な「雨に唄えば」はその最たる例)。

ミュージカル・ナンバーはガーシュウィンの楽曲が用いられ、物語のプロットはプロデューサーのヨーロッパ嗜好が反映されたそうである。

共演のキャロンはパリのバレエ団で踊っていたバレリーナで、本作でケリーにスカウトされデビューした。かのオードリー・ヘップバーンのライバルとも言われた(この頃はまだあまり綺麗ではないけど…)。

レヴァントは本職はピアニストだがミュージカル俳優でもあり、コラムニストなどもしていた今で言うマルチ・タレントであった。劇中でも本職のピアノを披露している。

ゲタリーはフランスのスターで、本作が初のハリウッド出演。出演の際に映画会社の命で整形をしたとか。ちなみにこの作品以降ハリウッド映画には出演していない。

ガーシュウィンの楽曲は近年でもよくCMなどで使われるので、聴いた事のある曲があると思います。

ミュージカル・ナンバーに話を移すと、彼の創意工夫に満ちたダンスが観られる"I Got Rhythm"(この曲、絶対聴いた事あるはず!)。

霧がかかったセーヌ河畔でのケリーとキャロンの"Love Is Here To Stay"。

パリのミュージック・ホールでゲタリーが歌う"I'll Build A Stairway To Paradise"(近年映画「アビエイター」でも使われていたが、アチラとは比べものにならないくらい、ゲタリーの堂々たる歌いっぷり!)。

ラスト約17分に及ぶバレエ・ナンバー、"An American In Paris"は必見!(豪華なセットの中で大掛かりな場面の連続!。場面の構図はそれぞれ、ロートレックやユトリロなどの絵画を参考にしている)。

前回紹介した「パリの恋人」と好対照な作品とも言える。

この年のアカデミー賞を受賞している。


ブリガドーン
Brigadoon
'54 / ヴィンセント・ミネリ

ジーン・ケリー
シド・チャリース
ヴァン・ジョンスン

同名舞台ミュージカルの映画化。楽曲は「マイ・フェア・レディ」のラーナー&ロウ(初のヒット作)。

休暇を利用してスコットランドに狩猟に来たアメリカ人二人が道に迷い、地図に載っていない「ブリガドーン」という村にたどり着く。その内の一人が村の娘と恋仲になるが、その村は100年に一度だけ現れる村で…。

正直言って作品自体はあまり評価かされていない(爆)。

しかしながら美しい楽曲、ケリーの振付など素晴らしく、一見の価値アリかと思われる。

ダンスはバレエが多用されており、彼の得意分野でもある。

スタンダードになったケリーのソロ"Almost Like Being In Love"。

村の青年たちと踊る、風土色溢れる振付にタップの振付が混じる"I'll Go Home With Bonnie Jean"(ダンスの「異文化交流」みたいで面白い)。

他に結婚式の場面での群舞による"Wedding Dance"

中でも結婚式のヒースを摘みに行った丘でのケリーとチャリースの"Heather On The Hill"は特に傑出している。

余談だけれどオリジナルの振付は「オクラホマ!」などを手がけたアグネス・デ・ミルだが、全然雰囲気が違うらしい(詳しくは知らないが、もっと朴訥とした感じみたい)。

この場面が非常にロマンティックで情感に溢れる仕上がりで、本作のハイライトと言える。この場面を観ていると、私はよく泣いてしまいます(照)。


ショウほど素敵な商売はない
There's No Business Like Show Business
'54 / ウォルター・ラング

エセル・マーマン
ドナルド・オコナー
マリリン・モンロー
ダン・デイリー
ミッツィ・ゲイナー

FOXのミュージカル大作。分かる人にしか分からないが(笑)、豪華な顔触れのキャスト。

前述の「巴里の~」同様に楽曲から物語が構成されている。

戦前に活躍した(架空の)ボードビリアン、ドナヒュー一家の物語。

楽曲はアーヴィング・バーリン。

冒頭からいきなり舞台の場面で始まり、全編ショーの場面のオンパレード状態。

主演のマーマンはブロードウェイの女王と言われた舞台女優。タイトル・ナンバーは元々彼女が主演したミュージカル「アニーよ銃をとれ」のナンバー。

相手役のデイリーはFOXのミュージカルでよく主演女優の相手役を務めていた。

オコナーは「雨に唄えば」、ゲイナーは「南太平洋」などで知られている。

レイは"Walking In The Rain"のヒットで知られるシンガーで、後のプレスリーにも影響を与えたと言われる。

そしてこの5人に当時若手スターだったモンローが加わっている。彼女は歌もいけるミュージカル・タレントでもあった。

ドナヒュー一家が歌い踊る"Alexander's Ragtime Band"は、(かつて実在した)今はなきヒポドローム劇場で歌われ、劇場と共に言わば一家にとってのキーワードのように位置付けられている。

他にはマーマンとデイリーの"Play A Simple Melody"(宮川泰の"ザ・ヒットパレード"が似ていると思うのは私だけ?)、レイの"If You Bilieve"などが(もっと沢山あるが)歌われる。

ラストはマーマンの"There's No Business Like Show Business"で締めくくられる。

モンローも"Heat Wave"など数曲披露している。

とにかく豪華絢爛たる作品でした。


オリバー!
Oliver!
'68 / キャロル・リード

マーク・レスター
ジャック・ワイルド
ロン・ムーディ
オリヴァー・リード
シャニ・ウォリス

ロンドンからブロードウェイに進出したミュージカルの映画化。

原作はディケンズの「オリヴァ・ツイスト」

主演は時の名子役マーク・レスター。この後にも「小さな恋のメロディ」などに主演している。近年マイケル・ジャクソンが亡くなった時にも登場して話題になりましたね…。

ひどい扱いを受けていた孤児院を飛び出したオリバーは、ロンドンでスリの少年と出会い、彼の仲間である窃盗団に加わるが…。

その年のアカデミー賞(作品賞・監督賞など)を受賞した作品。この頃よく大作ミュージカルが受賞していたが、比較的地味な作品とも言われる(汗)。

しかしながら、作品は舞台であるロンドンの下町の雰囲気をよく活写しており、またオウナ・ホワイトの振付も冴えており、見応えのある作品だと思う。

オリジナルの舞台よりダンスがより多用されておりミュージカル・ナンバーは見応えがある。

ダンスと言っても、アステアやケリーみたいなダンスらしいダンスではなく、例えば洗濯物を干す主婦、巡回する警官、地ならしをする土方などの日常的な動きなどを元にした振付になっている。

スリの少年が(演じたワイルドは幼く見えるが、当時16歳だった。主演のレスターとはこの後にも「小さな恋の~」で共演)町中を駆け回りながら歌う"Consider Yourself"。

天涯孤独のオリバーが歌う"Where Is Love"。

酒場女のナンシーが歌う"Oom-Pah-Pah"(昔小学校でも歌った「ウンパッパ」の元歌。原曲は「カミさんに隠れて酒を飲む」とか、「この前町に出て来た娘が、今じゃ客引きになってる」など、とても小学校で歌える内容ではない)や、「あの人が私を必要とするなら、どこまでもついて行く」と一途な思いを歌う"As Long As He Needs Me"(名曲!)。

他にナンシーや窃盗団の少年たちが歌う"I'd Do Anything"

朝の広場で売り子たちが歌う"Who Will Buy"

窃盗団のコミカルな"You've Got To Pick A Pocket Or Two"。

窃盗団の頭領(演じたロン・ムーディは後に舞台でも同役を演じた)が胸の内を吐露する"Reviewing The Situation"など。派手さはやや欠けるが、なかなか名曲揃い。


屋根の上のバイオリン弾き
Fiddler On The Roof
'71 / ノーマン・ジュイソン

ハイアム・トポル
ノーマ・クレイン
レナード・フレイ

これも舞台劇の映画化。当時ロングランの記録を作ったヒット作。日本でも故・森繁久彌の舞台が有名。

帝政ロシアのユダヤ人居留地の村アナテフカを舞台に主人公の一家の出来事と迫害されて土地を追われる民族の苦難を描く。

ユダヤ人の悲劇もテーマとなっているが、日本人から観ると家庭内の出来事や近所の人々とのやり取りが共感出来るという意見がある。

亭主関白のようで妻に気を使ってる主人、縁談よりも恋愛結婚を選ぶ娘など、何処の国でも同じだなと観てて思う。

個人的にはある種「サウンド・オブ・ミュージック」に通ずるファミリー・ミュージカルのような印象を受けた。

楽曲も沁み入る曲が多く、結婚式で歌われる、幼かった子供がいつしか成長し結婚するまでになったと、月日の流れを歌う"Sunrise, Sunset"(八代亜紀の「雨の慕情」はこの曲の盗作と言われている)。

長年共に暮らした主人公夫婦が、お互いの愛情を確かめ合う"Do You Love Me"。

家を離れても、遠く離れた恋人を追って行く次女が歌う"Far From The Home I Love"。

迫害され離れる事になった先祖伝来の土地を思い、村の人々が歌う"Anatevka"。

その他にも"Tradition"、"If I Were A Rich Man"など有名な曲がある。

監督のジュイソンはあえて映画的なリアリズムを避け、平面的な構図を心がけたと言う。また色彩の面において画家のシャガールに助言を仰いだと言う。

主演のトポルはロンドン版の舞台で同役で出演していた。所謂スター俳優は出演しておらず、知る人ぞ知る?顔触れになっている。

ちなみに音楽監督は後にスピルバーグの作品を手がける、ジョン・ウィリアムス。劇中のヴァイオリンは国際的な奏者アイザック・スターンが演奏している。


ウィズ
The Wiz
'78 / シドニー・ルメット

ダイアナ・ロス
マイケル・ジャクソン
リチャード・プライヤー

たまには現代的な作品も(笑)。

これも舞台ミュージカルの映画化。

当時あまり評価されなかったらしいが(何となく映画というより、ミュージック・ビデオ風?)、個人的には印象的な作品。

元ネタはかの有名な「オズの魔法使」。舞台を現代に移し、演者はオール黒人キャスト。

ドロシーがダイアナ・ロスで、カカシがマイケル・ジャクソンと言う顔触れ(ちなみにモータウンが制作に参加している)。

他のキャストはブリキ男にニプシー・ラッセル、ライオンにテッド・ロス。ウィズ役にはリチャード・プライヤー。他に舞台女優のセルマ・カーペンター。さらに往年の黒人スター、リナ・ホーンも特別出演している。

ドロシー以外皆特殊メイクなど施し出演している(まさかマイケル・ジャクソンがその後特殊メイクも真っ青な状態になるとは…)。

チャーリー・スモールズのオリジナル・スコアの他、映画化にあたりクインシー・ジョーンズが新曲を書いている。

内容は大分現代的にアレンジされ、音楽はブラック・ミュージックの匂いがプンプンのサウンド。オズの国のセットも大分オリジナルとは違う、まるで現代のニューヨークみたいな造りになっている。

楽曲はテーマ曲とも言えるドロシーの"Home"。

ドロシーら一行が歌う"Ease On Down The Road"(この曲は直後に日本で「欽ちゃんの仮装大賞のテーマ」でパクられた)。

西の悪い魔女イブリーンの"Don't Nobody Bring Me No Bad News"。

ドロシーとグリンダが歌う"If You Bilieve"など。

全体的にやはりノリの良い楽曲が多い。

個人的には終盤近くのリナ・ホーンの登場が嬉しかった。


ヘアー
Hair
'79 / ミロス・フォアマン

ジョン・サヴェージ
トリート・ウィリアムス
ペヴァリー・ダンジェロ

ベトナム戦争時にブロードウェイで上演されたミュージカルの映画化。当時の世相や風俗を反映させた作品。

ベトナム戦争で徴兵される前に、ニューヨークに来た田舎の青年がヒッピーたちと出会い、彼らと行動を共にする…。

映画化された頃には大分時間が経っていたが、舞台より評価は高かったらしい。

楽曲はメッセージ性の強いモノが多い。中には放送禁止用語のオンパレードのような曲もあった。

有名な"Aquarius"や"Good Morning, Starshine"、"Let The Sunshine In"の他、イベントが行われている広場で歌われる"Old Fashioned Melody"、麻薬を吸った主人公の頭の中のイメージの場面での"Hare Krishna"などが印象に残る。

ちなみにラストはオリジナルの舞台とは違う結末になっている。


ビヨンド the シー
~夢見るように歌えば~
Beyond The Sea
2004 / ケヴィン・スペイシー

ケヴィン・スペイシー
ケイト・ボスワース
ジョン・グッドマン

若くして亡くなったエンターテイナー、ボビー・ダーリンの生涯を描く伝記映画。主演のスペイシーが長年構想を温めていた作品で、演出も兼ねており、歌も本人が吹替なしで歌っている。

ブロンクスの貧しい家庭で育ったボビーは少年時代に病で心臓を痛め、長生き出来ないと医者に言われるが、母親の影響でショービジネスに憧れる。成人した彼はプロを志し、やがてヒットに恵まれスターになるが…。

現実と幻想の境目がやや不確かなファンタジックな脚本に、ノスタルジックな雰囲気が良い。

オリジナルのダーリンのサウンドを再現した音楽も雰囲気を出している。

純粋なミュージカル映画ではないが、それ風の演出もあり、ミュージカル好きにも楽しめると思う。

ヒット・ナンバーの"Mack The Knife"を始め"Hello, Young Lovers"や"That's All"、"Simple Song Of Freedom"などが歌われる。

"Lazy River"、"Beyond The Sea"、"As Long As I Singing"の場面ではミュージカル風の演出が観られる。

その他"Charade"、"Change"などの使い方もそれに近いモノがある

無駄のない演出も好感が持てる。変に大作ぶってない所も良い。

個人的に是非観て欲しい作品。


今回はここまで。

次回は恋愛映画を紹介します(多分)。