EA-650を分解する(2)
さて、先週の「EA-650」の続き。
もうちょっと眠い話が続きます…
眠い話が苦手な方は、最後の予告だけでも☆
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今度はPFCで生成したDC200~400Vの電圧を、
DC12VやDC5V、DC3.3Vにする部分、通称「DC-DC」です。
DC-DC部では基本的にトランスを用いた「絶縁型コンバータ」が用いられます。
効率面では非絶縁型の方が有利ですが、
二次側(出力)に何かトラブルがあったときに比較的安全だからです。
DC-DC部はEA-650の場合はフォワード型と呼ばれる降圧回路です。
PFCのメインスイッチと同じヒートシンクに、DC-DC部の主SWが搭載されています。
一次側のメインスイッチはPFCで使われたものと同じとようです。
二次側のダイオードにはSTマイクロ社の「STPS40L45CW」という
パワーショットキーが使われています。
25℃時、VFが0.53Vしかなく、ダイオードの導通ロスはかなり小さいと予想されます。
(導通ロスは、このVFと流れた電流のかけ算です。
それ以外に、オフしたときの反応遅れによるリカバリー電流などがロスになります)
ただしショットキーダイオードは
一般PN接合ダイオード(ファストリカバリーダイオード)と比較すると
逆電流、IRが非常に大きい問題もありまして、
逆電圧=定格の45Vの場合、25℃時にIRmax=0.6mA、125℃時にIRmax=280mAと、
熱くなると桁違いに増えます。
これは効率に直結する話でして、温度が上がるほど悪くなっていくことでしょう。
EA-650の場合、効率を高くキープするなら温度はできるだけ低く抑えるのがコツといえます。
ちなみに制御ICはSTマイクロ社の「UC3845B」。
制御はこの手のDC-DCコンバーターとしては一般的な、
電流フィードバックで制御を行うPWMコントローラーです。
PFCの制御ICが載っていた基板に一緒にいました。
さて、各電圧の生成について書いてみます。
・DC+12V
現在、PSUの中ではもっとも多く使われている+12V。
ご存じ通り、CPU、GPU、ファンやHDDのモーター類の電源です。
+12Vはまず間違いなく、ほぼすべての電源でPFCから直接生成しています。
※本来CPUなどは1Vちょっとの低電圧で動作するものですが、
たとえば消費電力100WのCPUに対して最初から1Vで供給した場合、
電流が100Aという途方もない量になってしまいます。
100Aともなると、AWG18の電線なら+と-で最低でも各10本以上必要になってしまい、
送電ロスも相当大きくなってしまいます。
しかも1Vの電圧を長い電線で引っ張れば、
ノイズも影響もかなり受けやすくなると予想されます。
なのでPSU用としては最高電圧の+12VでCPU直前まで送り、
CPUの直近、M/B上のCPUソケット付近のVRMにて
DC-DC変換をもう一度かけて1Vちょっとを得ています。
・DC+5V
続いて多く使われる+5V。
PentiumIV/Athlon64以降CPUは+12Vにシフトしたものの、
今でも制御系のほぼ全般を司り、特にSSDには必要不可欠です。
+5Vについては各電源でばらつきがあるようです。
主に次の3つに分かれます。
①PFCから直接、+12V系とは完全独立に生成するもの(トランスも別)
②+12Vと同じトランスから、巻線を追加して得るもの
③+12Vから再度DC-DCコンバータを使って生成するもの
コストバランスからすれば②が一番多く考えられるケースで、
実際EA-650も何となく②のような気配です(確証はありません)。
①は各電源電圧の負荷による影響(他電圧の巻線電流の変動やノイズ)を
少なく抑えることができるものの、コストが高くなります。
③は設計がしやすく、小規模なシステムには使いやすい方式ですが、
再々変換を伴うので大電力になると無駄なロスが目立ってきます。
・DC+3.3V
最近はあまり多く使用されないイメージの+3.3V。
mSATA対応の1.8インチHDDやmSATA対応のSSDは+3.3Vを使用しますが、
普通のデスクトップにとっては使用機会が少ないのは確かです。
+3.3VはおそらくPSUの多くが「+5Vからの再変換」で得ているようです。
EA-650もたぶんそうです。
さすがに+3.3VはPFC直接(上述の①)は少ないようです。
よく「5V&3.3V Combine」の表記を見かけることがあると思いますが
これはとどのつまり5Vから3.3Vを作っているためです。
・+5V Stand By(5VSB)
AC入力が確保されている間中、PCの電源にかかわらず
出力をしていなければならない+5V Stand By 。
さすがにこれは直接生成(上述の①)がほとんどです。
大電力対応が不要(3A程度)なので、概ね簡素です。
なお、-12Vについてはごく一部のアンプ類で使用する程度なので、
12V用トランスに適当な巻線を追加し、その先にレギュレータ
(スイッチングせず、差分をロスさせるだけの方法で、簡単・低ノイズだが効率が悪い)
を使う形で用意しているものがほとんどでしょう。
さて、最後に待ち構えるのは出力チョークと出力コンデンサです。
多分、左から+3.3、+5V、+12V用と思われます。
コンデンサはチョークとケーブルに埋もれてよく見えません(苦笑)
そしていよいよ出力配線が基板から伸びていき、
平滑された電圧として出力されていきます。
ちなみに、この電源は「3系統の+12V」を持っていることになるのですが、
ぱっと見た限り、とてもわざわざ3系統それぞれを制御して出力しているようには見えません
(1系統の出力を分岐させているだけのようです)。
これも予想ですが、各ケーブルや基板上の電流バランスを保つため、
書いてある内容にすぎないのだろうと考えます。
さて、ファンのあるふたの内側の一部にはこんなシールが貼られています。
ケースとの絶縁のために用いているものです。
PFC付近は基板の外ぎりぎりまで高電圧区域が広がっているため、
ケースとの絶縁確保のために行われているようです。
これをしなくても済むような設計を行えれば理想ですね~。
すでにEA-650は製品としては出荷完了となり、
EA-650 Green、さらにはEA-650 Platinumとシリーズは進化していますので、
この記事がどこまで役に立つのかは何ともいえません(爆)
ちなみにPC用PSUはPS_ON信号とGNDをショートさせれば起動します。
ショートしている間は運転し続け、ショートを解除すると停止します。
(PCのM/Bは+5VSBの電力で動作するICやカプラを使い、
実際電気的にショートさせることで運転させています)
サイトによっては電源投入時、無負荷はまずいようなことを書いているところもありますが、
ATX規格によれば無負荷でも動作できなければなりませんので、
「ATX」を謳う電源ならどんなに巨大な電源であっても案ずることはありません。
もちろん無負荷時でも電圧精度は保証されています(12V&5Vはそれぞれ±5%)。
無負荷での運用は通常はないケースですが、
無負荷で壊れたり、電圧精度範囲外になるような電源なら交換しましょう。
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さて、今日。
やはり小さい系の製品には目がない当方は
予算度外視で、また相当無理矢理なPCをやるつもりで、
多数のパーツを買い込んでしまいました。
「27台目PC」ということになります。
来週はそのお話ができれば、と考えています。
…半年前に買った25台目PCの出番がまだない~(爆)