ウクライナ軍、クルスク侵攻にチャレンジャー2戦車も投入 | すずくるのお国のまもり

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◎ウクライナ軍、クルスク侵攻にチャレンジャー2戦車も投入 HIMARSなどに損害も

 

 

 ウクライナ空中強襲軍(空挺軍)の希少な英国製チャレンジャー2戦車が、ウクライナ軍がロシア西部クルスク州で行っている軍事作戦に投入されている。ウクライナがロシアの国境地域で進めるこの作戦が一時的な侵入などではなく、長期的な影響をともなう本格侵攻であることをうかがわせる新たな事例と言える。
 重量64t、乗員4人の重装甲戦車であるチャレンジャー2は昨年、英国から14両がウクライナに供与され、ウクライナ軍では空中強襲軍の第82独立空中強襲旅団が唯一の運用部隊となっている。クルスク州への越境攻撃作戦に参加している第82空中強襲旅団が同州でこの戦車も使っていることは11日、うち1両がロシア軍のドローン(無人機)に攻撃される様子を捉えた動画で初めて判明した。
 ロシア軍のドローン部隊「グロム・カスカード」が投稿したこの動画には、侵攻地域の東端近くでチャレンジャー2にランセット徘徊弾薬(自爆ドローン)が突っ込むところが映っている。地上で撮影された写真から、1990年代に開発されたこの戦車が最大で重量12kgほどのランセットに撃破されたことが認められるようだ。
 第82空中強襲旅団のチャレンジャー2の損失が確認されるのは2両目だ。最初の損失はウクライナ軍が2023年夏に南部で行った反転攻勢の際に生じた。今回の損失によって、同旅団の中隊が保有するチャレンジャー2は12両以下になったとみられる。
 精鋭の第82空中強襲旅団はクルスク方面作戦に加わっている少なくとも3個の空中強襲旅団のひとつで、クルスク州内の支配地域を広げるために戦う間に大きな損害を被っている。同州でのウクライナ側の支配地域は現在、数百〜1000平方kmほどとみられる。
 ロシア側は、第82空中強襲旅団の先鋒部隊に対する待ち伏せ攻撃に成功した結果とする凄惨な写真や動画を投稿している。第82空中強襲旅団はチャレンジャー2以外に、歩兵戦闘車として使われる米国製ストライカー装輪装甲車も数両失ったようだ。

 公平を期して言えば、クルスク州方面では双方に大きな損害が出ている。ウクライナ側はロシアの軍人数百人を捕虜にしたほか、 防空兵器でロシア側のヘリコプター数機やSu-34戦闘爆撃機1機を撃墜した。ウクライナ軍はこの作戦で、FPVドローンを初めて本格的な空対空任務にも使用している。
 ロシア側はクルスク州と接するウクライナ北部スーミ州で、侵攻部隊の防御にあたっていたウクライナ軍の希少なポーランド製S-125地対空ミサイルシステムを撃破した。また、ウクライナ軍の希少な米国製高機動ロケット砲システム(HIMARS)1基も今週、クルスク方面とみられる場所で被弾している。
 最も貴重な西側製兵器を危険にさらすのをいとわない姿勢は、この作戦にかけるウクライナ軍参謀本部の決意を示している。ウクライナ軍の将軍たちはクルスク州内のかなりの部分を制圧・保持する考えなのだろう。
 では、ウクライナはなぜそうしようとしているのか。フィンランドのアナリスト、ヨニ・アスコラは「ウクライナの高官の発言や最近の進軍を見ると、ウクライナは、将来の交渉で有利な材料にもなり得る緩衝地帯の設置をめざしているようにますます思える」と述べている。
 とはいえ、この緩衝地帯をどこまで広げられるかには厳しい制約がある。当然、ロシア側が関与する。ロシア軍がクルスク州で大規模な反転攻勢を組織し、ウクライナ軍の進撃を抑え込む可能性は依然としてある。
 また、ウクライナ軍の兵站も制約要因のひとつだ。第82空中強襲旅団をはじめとするウクライナ軍部隊がクルスク州に深く侵入するほど、糧食や燃料、弾薬などの補給を続けるのは難しくなる。
 第82空中強襲旅団はクルスク州で30km強前進した可能性がある。補給線を引き伸ばしすぎたり、格段に大きな損害を出したりせずに進めるのはこれくらいが限界かもしれない。アスコラは「ウクライナは過剰な拡張は避けるべきだ」と戒めている。