<正論>古川勝久氏「北朝鮮と露に積極的妨害工作を」 | すずくるのお国のまもり

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<正論>北朝鮮と露に積極的妨害工作を 
 国際問題アナリスト、元国連専門家パネル委員・古川勝久

 

 

〇北朝鮮ミサイルの弱点
 今年1月2日、ロシア軍がウクライナ北東部の都市ハルキウをミサイル攻撃した。日本では能登半島地震があった翌日のことだ。ウクライナ当局が被災現場から短距離弾道ミサイルの残骸を回収したところ、ロシアのイスカンデルに似た短距離弾道ミサイルだったが、外形が微妙に違った。後にこれは、ロシア軍が不正調達した北朝鮮製ミサイル・火星砲11Aまたは11Bと断定された。
 英国のNGO「紛争兵器研究所(CAR)」は、世界各地の紛争で使用された武器の出所を追跡調査する。欧州連合とウクライナ当局の協力の下、CARがミサイル残骸を精査すると、290点以上の外国製部品や部材が見つかった。これらの75・5%が米国企業のブランドで、ドイツ企業(11・9%)、日本企業(3・1%)等と続いた。北朝鮮は欧米の厳しい輸出管理を突破して禁輸品を不正調達していた。
 朝日新聞の記事(5月5日付)によると、記者が今年4月、ウクライナの現地でこの残骸を取材した際、ミサイル本体の下部に取り付けられたベアリングに「JAPAN」の文字が刻印されていた。
 日本の大手製造企業A社の名前と製品の型番も刻印されていた。ただこれは民生品であり、軍用仕様ではない。
 記者がA社に確認すると、A社はこれを「偽物」と断言した。2010年代以来、先進諸国のベアリング業界では偽造品対策が深刻な課題であり、A社の偽造品も世界各地に大量に流通し、深刻な経営問題だ。同社は自社のサイトで、偽造品は正規品に似せているが、粗悪なものが多く重大事故につながる恐れがある、と警告する。この北朝鮮製ミサイルには、他にも欧米企業ブランドの電子部品の偽造品が少なくとも複数点、確認されたという。
 ウクライナ検察当局は、ロシア軍が発射した北朝鮮製ミサイル約50発のうち約半数が飛行中に爆発し、標的命中率は約2割で「品質が非常に低い」と評価する。なるほど偽造品を使用すれば、まともな性能のミサイルは作れまい。
〇外国製品に依存
 ただCARの調査によると、北朝鮮製ミサイルに使用される外国製品の大半は正規品で、多くは21~23年に製造されており、このミサイルは23年に製造されたと考えられる。北朝鮮は国連制裁やコロナ禍にもかかわらず、海外から様々な禁輸品を不正調達し続けていたわけだ。
 米政府や国連専門家パネル最終報告書によると、北朝鮮は中国やロシア国内に拠点を構えて、核・ミサイル目的で外国製品の大規模な不正調達を何度も繰り返していた。例えば18~23年の間、複数の国連制裁対象団体(北朝鮮軍需工業部や第二自然科学院等)が、中露国内に北朝鮮外交官や現地企業に籍を置く要員を配置し、現地企業と共謀して、核・ミサイル用の外国製品(ベアリングや特殊合金、通信機器、電子機器等)をたびたび不正調達していたという。
 北朝鮮は長年の間、様々な精密工作機械や関連技術を海外から不正調達して国内製造能力を高め、今や一部の核・ミサイル用製品の国内製造は可能とみられる。だが今後も外国製品に依存せざるを得ないとの見方が多い。ミサイルの命中精度の向上や大量配備のために、信頼性の高いジャイロスコープや加速度センサー、電子部品や誘導装置等が大量に必要なはずだ。
 ミサイルの固体燃料の寿命は約10年とも指摘され、特殊鋼材や強化アルミニウム合金、炭素繊維、固体燃料推進剤等も大量に必要なはずだ。国内製造能力の限界を考えれば、北朝鮮は今後も信頼性の高い海外製品を継続的に調達し続けなければならないだろう。
〇新たな対抗措置展開せよ
 近年の世界情勢の変化を受け、重要部品(特に半導体等の電子部品やベアリング等)の価格が年々高騰している。北朝鮮にとり、高品質の製品の調達は財政的にますます厳しいはずだ。ゆえに、北朝鮮は図らずも外国製品の安価な偽造品をつかまされたのではないか。ここに北朝鮮の弱点がある。
 北朝鮮の密輸ネットワークは強靱(きょうじん)だ。北朝鮮はロシアとの結託を深め、軍事目的の不正調達をより大胆に展開しよう。
 ならば日米韓は対抗措置として、制裁強化に加えて、積極的な妨害工作も展開すべきだ。朝中露の密輸ネットワークを根絶できないならば、それを逆手にとり、外国製品の欠陥偽造品を計画的かつ大量に密輸ネットワークに流し込むべきである。北朝鮮に「不良ミサイル」を大量生産させれば、実質的にその戦力の大幅削減となる。事実、16~17年頃の間、米国は同盟国と協力して北朝鮮にこの妨害工作を行い、中距離弾道ミサイル、ムスダンの開発を中止に追い込んだ前例がある。これをさらに大規模に展開するべきだ。
 朝中露が国連制裁網のさらなる弱体化を画策する以上、今や日米韓も新たな対抗措置を本格的に展開すべき段階に入っている。(ふるかわ かつひさ)