朝日新聞「在韓米軍は台湾有事にどう関与するのか」に取材協力 | すずくるのお国のまもり

すずくるのお国のまもり

お国の周りでは陸や海や空のみならず、宇宙やサイバー空間で軍事的動きが繰り広げられています。私たちが平和で豊かな暮らしを送るために政治や経済を知るのと同じように「軍事」について理解を深めることは大切なことです。ブログではそんな「軍事」の動きを追跡します。

d在韓米軍は台湾有事にどう関与するのか 元韓国防衛駐在官の分析

 

 

 日米韓は6月27~29日、海上と空域、サイバー空間にまたがる新たな共同訓練「フリーダム・エッジ」を実施しました。訓練は弾道ミサイル防衛や防空戦闘、対潜水艦戦闘など多岐にわたりました。在韓国の防衛駐在官を務めた鈴来洋志・陸修偕行社現代戦研究会座長は、こうした流れを生かし、少なくとも日韓で物品役務相互提供協定(ACSA)の締結を急ぐべきだと指摘します。
――今回の訓練をどう評価しますか。 

 訓練に具体的な名前をつけるのは、日米韓訓練の定例化を目指す意思の表れだと思います。「フリーダム・エッジ」は、米韓の定例合同軍事演習「フリーダム・シールド」と日米の共同統合指揮所演習「キーン・エッジ」とを組み合わせた名称です。 2023年8月の日米韓首脳会談や、レーダー照射事件の再発防止を確認した今年6月の日韓防衛相会談を受け、3カ国の安全保障協力が新たな段階に入ったと内外に印象付ける狙いがあります。 訓練海域について、公式発表では触れていませんでしたが、ニュースでは「東シナ海」と流れていました。北朝鮮だけではなく、中国も念頭に置きながら、米韓連合軍が設定する作戦区域(KTO)を外した韓国南端の済州島(チェジュド)西方の公海で実施したと思います。

 ――2泊3日で7項目もの訓練を実施しました。

 訓練内容そのものは、過去の日米や米韓、日米韓でも実施した内容が大半でした。ただ、日本は海自のヘリコプター搭載護衛艦「いせ」が参加しました。米軍や韓国軍のヘリの着艦も可能で、将来的に日米韓安全保障協力のプラットホームとして使う意思も示したと思います。 また、米軍は特殊作戦用ヘリコプターMH60が参加していました。夜間戦闘装備もあり、北朝鮮の最高首脳部を殺害するための「斬首作戦」を示唆する狙いがあったのかもしれません。

 ――北朝鮮は「アジア版NATO(北大西洋条約機構)だ」と批判しています。

 北朝鮮は、外務省対外政策室が公報文を発表して、「フリーダム・エッジ」は日米韓が軍事ブロック化したものだと非難しました。そして、これに対抗するため、自衛力と共に、相互協力を一層強化すると主張しました。だれと相互協力するのかは明示していませんが、明らかに新たな軍事条約を結んだロシアを示していると思われます。北朝鮮は「日米韓対朝ロ及び中国」の構造を構築しようとしています。

〇想定される在韓米空軍の偵察飛行、宇宙軍の活用 

――台湾有事の際、米国は韓国にどんな役割を期待するでしょうか。

 米国は、台湾有事の際、北朝鮮が呼応して朝鮮半島で武力攻撃を行う「複合事態」を警戒しています。韓国は朝鮮半島で北朝鮮の脅威を抑止することに専念してほしいと、米国は考えていると思います。 同時に、在韓米軍は、その任務を朝鮮半島防衛に限定せず、有事に他の紛争地域に投入できる「戦略的柔軟性」を持っています。主力の陸軍は対北朝鮮抑止の観点から出動することはないでしょうが、在韓米空軍による偵察飛行などは行うでしょう。 韓国は、在韓米軍の「戦略的柔軟性」を認めつつも「韓国の意思と無関係に北東アジアの紛争に巻き込まれることはない」と主張しています。在韓米軍の台湾有事への関与が、米韓摩擦の材料になる可能性もあります。 また、在韓米軍は22年12月に宇宙軍を創設しています。米軍は陸海空軍と海兵隊、サイバー軍、宇宙軍の情報を共有し相互運用する「統合全領域指揮統制(JADC2)」を開発中です。台湾有事でも、米軍の効率的な運用や情報収集のため、在韓米宇宙軍が活用されるでしょう。

――一方、日韓は6月の防衛相会談で、18年12月に起きたレーダー照射事件の再発防止で合意しました。

 真相を明らかにせずに再発防止で合意しましたが、一人の元自衛官としては釈然としない思いがあります。ただ、北朝鮮の脅威が高まっているなか、韓国との安全保障協力は必要です。未来志向で日韓協力を進めるために乗り越えなければならない課題と思います。

〇日韓に限界残る部隊間交流、ACSA締結を急ぐべき

――海空の自衛隊は共同訓練をしていますが、陸上自衛隊と韓国陸軍との防衛交流は進むでしょうか。

 陸自と韓国陸軍との間では幕僚懇談や幹部学校学生の相互訪問など、人の交流はありますが、部隊交流はほとんど例がありません。陸上自衛隊中央音楽隊が02年などに軍楽祭などの行事で韓国を訪れた実績がある程度です。 今年、日米豪の実動訓練「サザン・ジャッカル」に韓国軍が初めて参観しました。しかし、日韓がそれぞれ自国に相手の部隊を招待することはないでしょう。韓国内で「侵略した日本と軍事的に結託してよいのか」という強い批判が出ることが予想されるからです。 その意味で、日韓で相互訪問などを活発化させるための、部隊間協力円滑化協定(RAA)を締結することは現時点では非常に難しいと思います。

――ACSAはどうでしょうか。

 日韓ACSAは十分可能性があるし、やらなければいけない協力だと思います。朝鮮戦争では日本が国連軍の兵站(へいたん)基地として機能しました。ロシアによるウクライナ侵攻でも武器・弾薬の補充は非常に重要な問題としてクローズアップされました。 日韓では武器・弾薬の相互支援だけでなく、負傷した兵士・隊員の治療、兵器の整備、教育訓練などでも協力できます。日韓関係が良好な現在、ACSAの締結を急ぐべきでしょう。(聞き手・牧愛博)