ウクライナが韓国製「玄武」ミサイルを利用の可能性? | すずくるのお国のまもり

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◎ウクライナが韓国製弾道ミサイル「玄武-2B」をロシア軍基地に叩き込む日

 

 

 ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は6月19日、空路、平壌を24年ぶりに訪問し、北朝鮮の独裁者である金正恩と新たな条約を結んだ。
 金はプーチンの訪朝中、両国は「熱烈な友情」で結ばれているなどと語った。この条約によって、両権威主義国家間の産業・軍事関係が緊密化するとみられている。この関係は、ロシアがウクライナで拡大し、膨大な損害を被っている戦争を支援し、さらに長引かせる可能性がある。
 韓国政府の反応は早かった。張虎鎮(チャン・ホジン)国家安保室長は6月20日の記者会見で、ロ朝の新条約に「深い憂慮」を示し、強く非難した。そのうえで「ウクライナへの武器支援について再検討する方針だ」と述べ、ウクライナに殺傷兵器は供与しないとしてきた従来の方針を改める可能性を示唆した。
 韓国はウクライナとの関係を緊密化するとまでは表明していない。だが、もしそうなれば、ウクライナ側は韓国側に、ロシアが北朝鮮から受け取っているものと同種類の兵器の供与を求めるかもしれない。
 具体的に言えば、短距離弾道ミサイルである。ロシアは昨年末、北朝鮮から強力なKN-23短距離弾道ミサイルを入手し、ウクライナに対して用いて大きな損害を与えた。
 韓国はKN-23よりもさらに強力な国産の玄武(ヒョンム)-2B短距離弾道ミサイルを保有する。米カリフォルニア州にあるミドルベリー国際大学院モントレー校(MIIS)で東アジア不拡散プログラムの責任者を務めるジェフリー・ルイスは、「北朝鮮がロシアにKN-23を売却できるのなら、韓国は玄武シリーズをウクライナに売却できるだろう」と述べている。
 重量約3400kg、固体燃料式のKN-23は、通常型は500kgの弾頭で射程450km程度とされ、より軽量な弾頭なら射程が600km以上に伸びるようだ。一方、重量約5400kgの玄武-2Bは、搭載可能な最大の約1tの弾頭で射程500km、より小型の500kg弾頭なら射程は800kmに達するという。命中精度はおそらく韓国製ミサイルのほうが上だろう。
 仮にウクライナが玄武-2Bを取得できたとしても、それをどう使うかはまた別の問題になる。米国は射程300kmのATACMS弾道ミサイルをウクライナに供与しているが、使用に制限を設けている。

 ウクライナはATACMSでウクライナ領内のロシア占領地域を攻撃することは認められているが、ロシア本土に対する攻撃に使用することは禁じられている。そのため、前線から比較的近いロシア領内に、破壊的な兵器である滑空爆弾を搭載するスホーイ戦闘爆撃機が多数配備されている航空基地があるにもかかわらず、駐機中のスホーイを狙ってそこをATACMSで叩くことは現状かなわない。
 ウクライナはたとえば、自国で開発した長距離攻撃ドローン(無人機)でならこうした基地を攻撃できる。しかし、国境から150kmほどのロシア南部のボロネジ・マリシェボ航空基地などに駐機しているスホーイ群を一網打尽にするには、軽量級のドローンでは火力が足りない。
 ウクライナの調査分析グループ、フロンテリジェンス・インサイトは、ATACMSなどの弾道ミサイルを狙いすまして数発撃ち込めば、ボロネジ・マリシェボ航空基地に配備されている爆撃用の「作戦機全体を無力化できるかもしれない」と言及している。ただし、それは「こうした攻撃が許可された場合」に限られる。
 ウクライナはもし韓国から弾道ミサイルを入手できても、米国の場合と同様にロシア領内に対する攻撃は認められないかもしれない。それでも、韓国製ミサイルを有効に活用できるだろう。ウクライナ領内にもロシア軍の貴重な目標は多数あり、それらは格好のターゲットになるはずだからだ。
 あらためて確認しておけば、韓国はウクライナとの間で北朝鮮とロシアのような「同盟」関係を結んではいない。現時点で、韓国からウクライナへの玄武-2Bの供与はあくまで可能性の話にとどまる。
 とはいえ、北朝鮮からロシアへの銃弾や砲弾、ミサイルの譲渡や売却が増えるほど、韓国がウクライナに玄武-2Bを供与する可能性は高まるだろう。ノルウェーのオスロ大学の核問題研究プログラム「オスロ核プロジェクト」(ONP)の研究員、ファビアン・ホフマンは、玄武-2Bは「北朝鮮の性悪ないとこがウクライナに出ていっているのに、なぜ自分は家にいなくてはいけないのかと不公平に感じている」のではと投稿している。