アルメニアがフランスからカエサル自走榴弾砲を取得へ | すずくるのお国のまもり

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アルメニアがフランスからカエサル自走榴弾砲を取得へ 軍装備でも脱ロシア依存進める

 

 

 フランス陸軍のカエサル155mm自走榴弾砲。2019年6月、ポーランド・ケントシン(Karolis Kavolelis / Shutterstock.com)
 アルメニアは兵器調達先の多角化や軍の再構築を進める取り組みの一環で、フランスにカエサル自走榴弾砲を発注した。アゼルバイジャンとロシアは非難している。
 フランスのセバスチャン・ルコルニュ軍事相がX(旧ツイッター)への投稿でこの契約を発表し、アルメニアとの「防衛関係」で「新たな重要なマイルストーン」になったとたたえた。
 アゼルバイジャンとロシアはさっそく反発した。アゼルバイジャン国防省は声明で、アルメニアへのカエサル売却はこの地域での「フランスの挑発的な行動のさらなる証拠」だと主張した。ロシア外務省のマリア・ザハロワ報道官も、フランスは「南コーカサスで新たな武力衝突をあおっている」と非難した。
 アルメニアにとって、2020年代はすでに厳しい試練の10年になっている。2020年、アゼルバイジャンが、自国の国境線内にあり、アルメニア系住民が多数を占めていたナゴルノ・カラバフ地域の奪還をめざす攻撃作戦を始め、6週間の戦いでアルメニア軍に決定的な軍事的打撃を与えた。死者は双方の合計でおよそ6000人にのぼった。さらに2023年9月、アゼルバイジャンは24時間の電撃的な作戦でナゴルノ・カラバフ全域を手中に収め、住民12万人がアルメニアに逃れることになった。
 アルメニアは、伝統的な支援国で防衛協定も結んでいるロシアについて、もはや信頼できない、それどころか、あからさまに二枚舌を使っていると結論づけざるを得なくなった。アルメニアは今月、ロシア主導の軍事同盟、集団安全保障条約機構(CSTO)から脱退する方針を明らかにした。また、軍の装備に関しても、ロシアへの高い依存度を徐々に下げていこうとしている。
 後者は時間がかかりそうだ。2011〜20年、アルメニアは主要兵器の94%をロシアから輸入していた。ロシアからの兵器購入では割引価格を受けられることも多かった。アルメニアは2019年、ロシアからSu-30SM戦闘機4機も取得している。Su-30SMはアルメニア軍運用する航空機としてはこれまでで最も高度なものである。

 アルメニアによる兵器調達先の多角化に向けた取り組みは、2020年にひっそりと始まった。新たな調達先はインドで、スワーティ移動式対砲兵レーダー4基を発注した。その後、アゼルバイジャンとの同年の戦争や2021年5月以降の国境衝突を受けて、アルメニアはインドとフランスからの兵器調達を強化した。
 2023年、アルメニアは、前年にインドに発注していたピナーカ多連装ロケット発射機を受領したと報じられた。このときもアゼルバイジャンは非難している。
 アルメニア軍は2020年の戦争で、アゼルバイジャン軍のイスラエル製とトルコ製のドローン(無人機)によって戦車を少なくとも241両破壊された。イスラエル製のハロップ徘徊弾薬(自爆ドローン)では、アルメニア本土内に配備していた旧ソ連製の複数のS-300地対空ミサイルシステムも攻撃されている。こうした大きな損害を踏まえれば、アルメニアが以来、フランス製やインド製のシステムの導入による防空能力の強化に動いたのは当然だろう。
 アゼルバイジャンがナゴルノ・カラバフ全域を掌握してからわずか数週間後の2023年10月、フランスはグラウンド・マスター200(GM200)レーダー3基、さらに将来的にミストラル短距離対空ミサイルをアルメニアに売却すると表明した。ルコルニュは当時、「防空は絶対的に重要なものだ」と発言している。
 同年には、アルメニアがインドに、ゼン対ドローンシステムとアカシュ中距離地対空ミサイルシステムを発注したという報道もあった。
 アルメニアはさらに、アカシュの新世代型であるアカシュNG、インドとイスラエルが共同開発したバラク8(MR-SAM)地対空ミサイルの調達も検討しているもようだ。バラク8はアゼルバイジャンがすでに運用しており、2020年の戦争ではそれを用いてアルメニア軍のロシア製イスカンデル短距離弾道ミサイルを撃墜したと報じられている。アルメニアはバラク8によって、アゼルバイジャン軍のイスラエル製LORA準弾道ミサイルに対抗しようという考えなのかもしれない。

 とはいえ、これらの兵器はおそらくどれも2国間のパワーバランスを変えるほどのものではなく、当面はアゼルバイジャンの優位が続く可能性が高い。フランスが昨年10月、アルメニアへの兵器売却を「防衛的な性格のもの」と説明した際、アゼルバイジャンは偽善だと批判したが、実際のところアルメニアがフランス製兵器をアゼルバイジャンに対する攻撃作戦で使うとは考えにくい。
 というのも、アルメニアは兵器調達先の多角化に取り組むかたわら、アゼルバイジャンとの包括的な和平協定の交渉や、アゼルバイジャンおよびその最大の後ろ盾であるトルコとの関係正常化も進めているからだ。5月下旬、アルメニアは国境画定プロセスの一環で国境の4つの無人の村をアゼルバイジャンに返還し、国内で現政権に対する抗議行動を招いた。両国の間にはほかにも懸案があるものの、これらの村の平和的な引き渡しは両国の和平や関係正常化に向けて大きな一歩になる可能性がある。
 アルメニアによる最近の兵器調達は軍の長期的な再構築の一環であり、この軍改革は、西側と経済、軍事、政治の各面で関係を緊密化し、長年続けてきたロシア依存を軽減していくというアルメニアの目標と連動して進められている。アゼルバイジャンとの国境画定は、両国の積年の敵対関係と緊張の終結に向けた大きな一歩となるものであり、西側との関係強化、ロシア依存からの脱却という目標の実現を早めることにも寄与するだろう。これらが進展すれば、アルメニアにとって2020年代後半は前半よりは明るいものになるかもしれない。