ウクライナ軍、ATACMSでクリミアのS-400防空システムを破壊 | すずくるのお国のまもり

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◎ウクライナ軍、ATACMSでクリミアのS-400防空システムをまた破壊 F-16投入の準備か

 

 

 ウクライナ軍は5月中旬、ロシア占領下クリミアのセバストポリ近郊のベルベク航空基地に向けて米国製のATACMS弾道ミサイルを10発撃ち込んだ。
 そして、ウクライナ側の作戦立案者が現実的に期待できる限り最大の損害をロシア側に加えた。地上で撮影された写真から、重量1.5t前後のATACMSから各数百個ばらまかれた擲弾サイズの子弾は、S-400地対空ミサイルシステムのレーダー1基と発射機2基を撃破したことが確認されている。さらに駐機中の戦闘機4機にも損害を与えたもようだ。
 ベルベクとセバストポリにはロシア空軍とロシア海軍黒海艦隊の残存艦艇にとって重要な基地があるので、ロシア側が射程400kmのS-400の破壊された装備をただちに補充したのは当然だ。
 だが、ベルベクの基地周辺のS-400は11〜12日の夜に再びウクライナ軍によって攻撃された。使われた兵器が何だったのかは現時点で不明だが、おそらく5月の攻撃と同じ射程300kmのATACMS「M39A1型」だろう。
 ウクライナ国防省は、ベルベクとセバストポリ近辺のS-400計2基とベルベク近辺のより射程の短いS-300地対空ミサイルシステム1基が攻撃されたと報告し、S-400とS-300のレーダーが1基ずつ撃破されたと主張している。さらに「3基目のレーダーについて情報を確認中」だという。3基が配備されていた3カ所すべてで「弾薬の爆発音が記録されている」とも付言している。
 ウクライナのシンクタンク、防衛戦略センター(CDS)は11日と12日の作戦状況評価で「攻撃には少なくとも10発のATACMSミサイルが使用され、ロシア側の防空システムは1発も迎撃できなかった」と述べている(編集注:ただ、攻撃されたのは「ジャンコイ近辺のレーダー基地とS-400ミサイルの備蓄、チョルノモルシケとイェウパトリヤ付近のS-300ミサイルシステム2基」としており、別の攻撃の可能性もある。ベルベクとセバストポリはクリミアの南東部、ジャンコイは北部、チョルノモルシケとイェウパトリヤは北東部に位置する)。

 ベルベク近辺でロシア空軍の誇る最高の防空システムは消耗の罠にはまりつつある。S-400はロシア軍が投入するのとほぼ同じペースでウクライナ軍に破壊されている。オランダのOSINT(オープンソース・インテリジェンス)分析サイト「オリックス(Oryx)」によると、ロシア軍は11日より前の時点でS-400の指揮所車両2両、レーダー2基、発射機16基を撃破されていた。
 今回の攻撃でS-400の装備の撃破数はさらに増えた可能性がある。システム4〜5基の一部装備が失われたのかもしれない。ミサイルの迎撃システムがミサイルにやられているというのは皮肉だ。S-400は周囲の友軍部隊を守れていないばかりか、みずからも守れていない。
 S-400はロシア軍に50基あまりあるようなので、すぐに枯渇することはないだろう。それでも、ウクライナ軍のミサイル攻撃で生き延びられないのなら、ウクライナでのロシアの戦争努力には役に立たないということになる。ロシア側はS-40をウクライナに配備すればするほど、さらに多く失う結果になりそうだ。
 ロシアの観測筋のなかには、この先にもっとひどい攻撃が待っているのではないかと懸念する向きもある。ウクライナ軍が米軍の攻撃ドクトリンに従っているのだとすれば、まず最初に防空システムを攻撃し、続いて「F-16戦闘機を中心とする航空機が、翼の下にさまざまな弾薬を搭載して登場することになる」。ロシアのある軍事ブロガーは、エストニアのアナリスト、War Translatedが引用・翻訳している投稿でそう書いている。
 ウクライナ空軍は欧州諸国からF-16を85機受け取ることになっており、F-16戦闘機が戦闘に用いるレーダーホーミング・ミサイルや精密滑空爆弾はすでに取得している。
 デンマークから供与された第1陣のF-16は間もなくウクライナに到着するはずだ。この機敏な戦闘機がいきなりクリミアのロシア軍基地を攻撃し始めても驚かないようにしよう。ATACMSによるたび重なる攻撃によって、基地の防空は着実に弱体化している。

えぐれた滑走路に見る、ロシア空軍基地の被害規模...ウクライナがドローン「少なくとも70機」で集中攻撃【衛星画像】|ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト (newsweekjapan.jp)