スウェーデン、ウクライナに2千億円の軍事支援 | すずくるのお国のまもり

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お国の周りでは陸や海や空のみならず、宇宙やサイバー空間で軍事的動きが繰り広げられています。私たちが平和で豊かな暮らしを送るために政治や経済を知るのと同じように「軍事」について理解を深めることは大切なことです。ブログではそんな「軍事」の動きを追跡します。

◎スウェーデン、ウクライナに2千億円の軍事支援 早期警戒管制機も

 

 

 スウェーデン政府は29日、ウクライナに133億スウェーデンクローナ(約2千億円)規模の軍事支援をすると発表した。2022年2月にロシアによる全面侵攻が始まって以来、スウェーデンとして最大の支援となる。
 発表によると、今回の支援には「早期警戒管制機」が含まれる。同機がウクライナ軍に導入されることで、空中と海上の双方で遠距離の脅威を識別し、交戦する能力が向上するという。
 スウェーデンは支援によって「自国の防衛能力が一時的に低下することになる」と認めつつ、別の機体を調達することで補うとしている。また、「保有するすべての」装甲兵員輸送車(PBV302)や、155ミリ砲弾もウクライナに送るという。
 ウクライナに供与される兵器をめぐっては、ロシア領内での使用を認めるかについて、欧米諸国の間で見解が分かれている。ただ、スウェーデンメディアによると、ヨンソン国防相は26日、「ウクライナは違法な侵略戦争にさらされており、自国を防衛する権利がある」として、ロシア領内での使用を認めると回答したという。(ロンドン=藤原学思)

 

◎スウェーデン大決心!「戦闘機数十機ぶんの価値」希少な高性能機 ウクライナへ複数プレゼント

 

 

〇F-16とセットで使えば相乗効果も
 スウェーデン政府は2024年5月29日、ウクライナに対して総額133億クローナ(約1960億円)にものぼる軍事支援を新たに行うと発表しました。
 なかでも注目すべきが、早期警戒管制機の複数供与です。これまでウクライナ軍にはこの種の航空機はなく、要撃を含む航空管制は地上に設置されたレーダーのみで行われていました。
 しかし、スウェーデンは、ウクライナの長距離防空能力を強化することを目的に、早期警戒管制機を供与することを決めたとのこと。なお、この支援パッケージには、要員訓練や技術支援、運用サポートなども含まれるそうで、これによりウクライナの領空監視と指揮統制能力は大幅に向上するほか、今後ウクライナがF-16の運用を始めた場合、その能力を増強する役割も果たすとしています。
 供与されるのは「ASC890」です。同機はスウェーデンの航空機メーカー、サーブが生産していた中型のプロペラ旅客機サーブ340をベースに所要の改良を施したもので、胴体上部に板状のレーダーアンテナを搭載しているのが特徴です。
 供与数は2機。これらは中古機で、現在スウェーデン空軍で運用されているのを供与に回すそうです。
 スウェーデン空軍は、ASC890の後継機として2022年6月に、ブラジル・ボンバルディア製の大型ビジネスジェット「グローバル6000」ベースの新たな早期警戒管制機「グローバルアイ」を発注済みです。
 スウェーデン政府はASC890を2機すべてウクライナに供与してしまうため、その補完分として新たに「グローバルアイ」を1機追加調達するとともに、2年前に発注済みの2機については引き渡しまでのスケジュール前倒しを求めていくそうです。
 ほかにもスウェーデン政府は、ウクライナに対して高性能な中射程空対空ミサイル「アムラーム」や155mm砲弾などを供与するほか、予備保管していたpbv302装甲兵員輸送車もストックしている全数を引き渡すとしています。【了】

 

◎スウェーデン、ウクライナに早期警戒機をサプライズ供与 運用は要工夫

 

 

 スウェーデンは29日、ウクライナへの新たな軍事支援を発表した。それにはサプライズの要素があった。供与される兵器に2機のサーブ340早期警戒機(AEW)が含まれていたのだ。
「これを予想していた人は少なかったと思います」。ノルウェー王立空軍士官学校のクヌート・オーラ・ナースタ・ストレム准教授もX(旧ツイッター)にそう書き込んでいる。
 スウェーデンのポール・ヨンソン国防相は、上部にレーダーを搭載し、高高度を飛行するサーブ340AEWについて、ウクライナに「空中と海上両方の目標に対する新たな能力」を与えるものになると述べ、ウクライナの「遠距離の目標を識別する能力が強化されるだろう」と続けている。
 サーブ340AEWは北大西洋条約機構(NATO)のデータリンク規格「リンク16」にも対応しており、ウクライナ空軍に配備されるF-16戦闘機と安全にデータをやり取りすることもできる。
 一方で、早期警戒機は非常に狙われやすい機体でもある。ロシア側では今年初め、全面侵攻の開始時点で8〜9機しか運用されていなかった貴重なA-50早期警戒管制機のうち、2機がウクライナ軍のミサイル攻撃で撃墜された。ウクライナ側はさらにA-50の製造・修理工場も攻撃している。
 サーブ340AEWはA-50以上に攻撃を受けやすいかもしれない。ジェットエンジンを4基搭載するA-50が最高速度900km/h、実用上昇限度1万2000mであるのに対し、ターボプロップエンジン2基のサーブ340AEWは最高速度480km/h、実用上昇限度7620mにとどまる。
 A-50の搭乗員はウクライナ軍のミサイルをかわすのに苦労した。サーブ340AEWの搭乗員はもっと苦労するかもしれない。ウクライナ側にとってさらに悪いことに、ロシア空軍はこの戦争で最も強力な空対空ミサイルである射程320kmのR-37Mを配備している。
 両国の国境付近を飛ぶロシア空軍のMiG-31BM迎撃戦闘機は、R-37Mでウクライナのほぼすべての空域を脅かすことができる。英王立防衛安全保障研究所(RUSI)のジャスティン・ブロンク研究員らは「R-37Mは射程の長さに、MiG-31BMの非常に高い性 能と高い運用高度も相まって、ウクライナ軍機を脅かす大きな自由を得ている」と解説している。

 R-37Mで武装したロシア軍機がいるために、ウクライナ軍の戦闘機のパイロットが任務を断念し、退避したことは何度もある。注意すべきなのは、鈍重なサーブ340AEWは回避行動もとりにくいという点だ。
 早期警戒機はそもそも隠れることができない。早期警戒機は基本的にレーダーのプラットフォームだからだ。レーダーを切っているときは、本来の役目を果たしていないということになる。しかしレーダーを照射している間は、探知しているだけでなく、自機が探知されることにもなる。サーブ340AEWが飛び立つときは常に、ロシア側に捕捉されていると考えるべきだろう。
 米空軍が早期警戒任務を早期警戒機から衛星に移しつつあるのも、理由のないことではないのだ。
 早期警戒機が狙われやすいからといって、ウクライナ空軍がその無償供与を断るはずもない。とはいえ、ウクライナはサーブ340AEWをすぐに失うのを避けるために、ロシア軍のミサイル攻撃に遭うリスクを軽減する方法を考え出す必要があるだろう。
 考えられるのは、たとえば▽あまり頻繁には飛行させず、予測がつかないような運用をする▽レーダーの起動をできるだけ遅くする▽飛行エリアを最も安全なウクライナ西部のポーランドとの国境付近に限定する──といった方法だ。
 ウクライナはポーランドを説得して、ポーランドの空域でサーブ340AEWを飛行させてもらうという手もあるかもしれない。その場合、ロシアは攻撃をためらうとみられるからだ。実際、NATOの偵察機は毎日、国境のポーランド側を飛行してロシア軍に関する情報を収集し、ウクライナ側に伝えている。
 ポーランド空軍もサーブ340AEWを運用しているので、ウクライナ空軍はポーランドに保守整備の面でも支援を期待できるかもしれない。

 

◎「戦闘機よりいいもの提供するから戦闘機はお預け」スウェーデンの真意は? ウクライナめぐる“空の争奪戦”勃発か

 

 

 スウェーデンがウクライナへ、戦闘機の何十機ぶんもする高価な早期警戒管制機の供与を決断。しかし、当の戦闘機の供与はお預けとなりました。その真意はどこにあるのでしょうか。実は他国も同じことを考えているかもしれません。
「早期警戒管制機」供与する! スウェーデン決断 でも戦闘機は?
 スウェーデン政府は2024年5月29日、ウクライナに対して総額133億スウェーデンクローナ(約1960億円)にものぼる軍事支援を新たに行うことを発表。その中に、現在スウェーデン空軍が運用しているS-100D「アーガス」2機が含まれていることを明らかにしました。
 S-100Dはサーブが生産していたターボプロップ旅客機「340」に、現在はサーブの一事業部門となっているエリクソン・マイクロウェーブが開発した「エリアイ」レーダーを組み合わせたAEW&C(早期警戒管制機)です。
 スウェーデン政府はS-100Dの引き渡し時期を明言していませんが、同国政府は2022年にS-100Dの後継機としてサーブに、カナダのボンバルディアが開発したビジネスジェット「グローバル6000」に、エリアイレーダーに能力強化型「エリアイ-ER」を組み合わせた新たなAEW&C「グローバルアイ」を2機発注(その後1機を追加発注)しています。スウェーデン政府はサーブに対してグローバルアイの納入前倒しを求める方針を明らかにしていることから、S-100Dの引き渡しはそう遠くない時期に行われるものと思われます。
 これまでウクライナはNATO(北大西洋上条約機構)軍のAWACS(早期警戒管制機)であるE-3「セントリー」の支援を受けて、ロシアの航空機やミサイルなどの経空脅威に対処してきましたが、S-100Dの供与により自前のAEW&Cを持つことで、ウクライナの経空脅威への早期警戒・対処能力は大幅に向上するものと考えられます。
 しかしその一方でスウェーデン政府は、JAS39「グリペン」戦闘機を軍事支援パッケージに含めず、供与計画をいったん停止することも明らかにしています。

〇数が集まる「F-16」 それで十分なのか?
 ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は2023年8月19日にスウェーデンを訪問し、同国のウルフ・クリステション首相と首脳会談を実施。会談終了後にウクライナ軍人がグリペンの運用評価を開始していたことを明らかにしました。ゼレンスキー大統領はこの会談でクリステルソン首相にグリペンの供与も求めていたようです。
 クリステション首相は「将来のことは何も排除しない」と述べ、ウクライナへのグリペンの供与に含みを持たせていますが、スウェーデン政府はウクライナ軍人が運用評価を行っていることは認めたものの、グリペンの供与については否定していました。しかしこの話はその後もくすぶり続けており、一部の海外メディアはまもなくウクライナにグリペンが供与されるのではないかとの見方を示していました。
 しかし今回、スウェーデン政府が供与計画の一旦停止を明言したことで、ウクライナへ早期にグリペンが供与される可能性は消滅したと言えます。
 5月30日付のニューズウィークは、スウェーデンがグリペンの供与計画を一旦停止したのは、F-16戦闘機の供与を円滑に進めるためであるという、スウェーデン政府関係者の話を紹介しています。
 NATO加盟国であるオランダとデンマーク、ノルウェーは2023年に、F-35戦闘機の導入によって余剰となったF-16のウクライナへの供与を決定。2024年の夏にはウクライナ空軍で運用が開始されると見られています。
 同じNATO加盟国であるベルギーも、やはりF-35の導入により余剰となったF-16をウクライナへ供与を決定しており、4か国によるF-16の供与機数は合計85機となります。

〇もう一つの「空の戦い」 スウェーデンもフランスも狙っている?
 ウクライナ空軍司令部のセルヒー・ホルブツォウ航空部長は2022年に、戦線の一区域でウクライナ側が航空優勢を確保するには、F-16戦闘機の作戦飛行隊が4個必要だとの認識を示しています。
 85機という機数は4個飛行隊を十分充足できますが、4か国から供与されたF-16はいずれも1980年代前半に製造された機体のため、それほど長期間運用できるとは考えられないですし、実戦環境で運用されるため、戦闘や事故による損耗も視野に入れなければなりません。
 老朽化した機体や戦闘により損耗した機体は、程度の良い中古機のF-16か、新造機のF-16で更新するのが合理的なのですが、新造機の製造能力を持ち、また程度の良い中古の供給能力も備えるのがアメリカです。しかしアメリカは、ロシアとのエスカレーションを避けるため、ウクライナからの再三再四の求めにもかかわらずF-16の直接供与を拒否しており、ウクライナがこれ以上F-16を入手するのは困難と言えます。
 ロシアとの戦いがいつまで続くのかはわかりませんが、長い目で見ればウクライナがF-16を後継する戦闘機を必要とすることは明白で、スウェーデンはグリぺンの早期供与ではなく、「ポストF-16」の座に狙いを替えたのかもしれません。
 なお。フランスのエマニュエル・マクロン大統領は6月7日、ウクライナに対してダッソー「ミラージュ2000」戦闘機を供与する方針を明らかにしています。
 ミラージュ2000の供与には、ウクライナへ「ポストF-16」としてラファール、さらにはドイツ、スペインと共同開発計画を進めている新戦闘機「FCAS」を売り込みたいというフランスの思惑が垣間見えます。ここから、もう一つの空の戦い、すなわちポストF-16の座をめぐる戦いは、もう始まっているとの見方ができます。【了】