北朝鮮、ミサイル輸出で「アジアの主役」へ復権図る | すずくるのお国のまもり

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◎北朝鮮、ミサイル輸出で「アジアの主役」へ復権図る 戦争でロシアに販路、中国の間隙縫う

 

 

 北朝鮮がウクライナを侵略したロシアに弾道ミサイルを供与している事実が表面化し、国際社会は北朝鮮が専制主義諸国に弾道ミサイル拡散を活発化させることへの警戒を強めている。北朝鮮の行動は、かつて中東や南アジアに弾道ミサイルを輸出していた同国が、ウクライナ戦争に乗じてアジアのミサイル輸出の「主役」への返り咲きを目指している実態を浮き彫りにするものだ。
「北朝鮮による大量の弾薬やミサイルの供与がロシアを立ち直らせた」
 オースティン米国防長官は今月8日、上院歳出国防小委員会の公聴会でこのように述べ、ロシアがウクライナ戦争を継続できているのは、北朝鮮や中国、イランからの軍事支援に支えられているからだと指摘した。
 北朝鮮のミサイル輸出に対する世界の危機感が強まったのは、米ホワイトハウスが1月4日、北朝鮮製の弾道ミサイルが昨年末と今年1月2日にロシアからウクライナ領内に撃ち込まれたと発表したのが発端だ。
 米政府によると、露軍は現在までに40発以上の北朝鮮製ミサイルをウクライナの民間施設などに向けて発射し、多数の市民らが死傷している。
 北朝鮮がロシアに供与しているのは射程約800~900キロメートルの火星11A(KN23)および火星11B(KN24)短距離弾道ミサイルだ。
 北朝鮮による弾道ミサイルの対露輸出は、第三世界への弾道ミサイル輸出で圧倒的なシェアを占める中国が、ウクライナ戦争で「停戦の仲介役」を自称して直接的な対露軍事支援を自制していることに着目し、ロシアへの販路の拡大に踏み切ったものだ。
 その背景には、中朝のミサイル輸出をめぐる因縁の歴史がある。
 米ミドルベリー国際大学院モントレー校の核専門家、ジェフリー・ルイス氏によると、北朝鮮は1980年代にエジプトから購入したソ連製「スカッド」短距離弾道ミサイルを参考に国産ミサイル開発を推進した。
 そして80~90年代にかけて、米国が中国による弾道ミサイル技術輸出の管理厳格化を図った間隙を縫う形でスカッドBの改良型である火星5号(射程約320キロ)をイランやアラブ首長国連邦(UAE)、シリア、イエメンに輸出した。
 90年代半ばにはスカッドの射程を大幅に伸ばした準中距離弾道ミサイル「ノドン」(同1300キロ)をパキスタンに、2005年には中距離弾道ミサイル「ムスダン」(同3千キロ超)をイランにそれぞれ供与し、獲得した外貨を自国の核兵器開発に活用してきた。
〇兵器の直接供与を手控える中国
 これに対し中国は00年代以降、ミサイル拡散の抑止に向けた国際的取り決めであるミサイル技術管理規制(MTCR)に抵触しない射程300キロメートル未満、弾頭搭載量500キログラム未満の短距離ミサイルや空対艦ミサイルを途上国に積極的に輸出し、国際的なミサイル取引での北朝鮮の存在感を一気に低下させた。
 そして現在、ウクライナ戦争で対露接近を強める中国は、火薬の原料となるニトロセルロースなど軍事転用可能な民生物資の提供を拡大しつつ、兵器の直接供与は手控えており、北朝鮮がミサイル輸出復活の好機と見なしたのは確実だ。
 中国には北朝鮮を武器輸出批判の矢面に立たせることで、自らへの追及を回避する思惑も潜んでいるとみられ、北朝鮮の動きを黙認している。
〇アジアから欧州へミサイル拡散
 北朝鮮がロシアへの弾道ミサイルや弾薬などを輸出するのは、ロシアから得られる見返りが大きいからに他ならない。
 米国家情報長官室(ODNI)の報告によれば北朝鮮はミサイルや弾薬の供与と引き換えに、ロシアから「外交、経済、軍事的な利権」を受け取っているとされる。
 英政策研究機関「王立防衛安全保障研究所」(RUSI)は3月、北朝鮮が国連安全保障理事会の北朝鮮制裁決議で対北輸出が禁止されている原油をロシアから提供されていることが、露極東の港に停泊する北朝鮮の油槽船の衛星画像から確認されたと発表した。
 また、米紙ニューヨーク・タイムズによると、ロシアはミサイルなどの購入代金や食糧支援に加え、対北制裁で凍結した北朝鮮資産約3千万ドル(約46億7千万円)のうち約900万ドルを解除したほか、北朝鮮系企業がロシアの銀行に口座を開設するのを認めるなど安保理決議違反に積極的に加担しているという。
 ウクライナからの報道では、北朝鮮のミサイルがウクライナ国内の標的に命中した確率は10%未満で、精度の低さが指摘される。だが、北朝鮮が一連の実戦データをミサイルの性能向上に活用し、日本などへの直接的な脅威が一層増大する恐れは十分に現実的だ。
 一方、ウクライナとロシアの隣国ポーランドは、ロシアが導入した北朝鮮製ミサイルで自国も攻撃される恐れがあるとして、対抗措置として4月に韓国から多連装ロケット砲システム(MLRS)「チョンム」などを導入することで韓国政府と正式合意した。英国際戦略研究所(IISS)によれば、合意には韓国の短距離ミサイル(射程約290キロ)の供与も盛り込まれたという。
 韓国はまた、ポーランドなどと同様にロシアの脅威にさらされるノルウェーやルーマニアとも防衛協力に関する覚書を交わした。
 ウクライナ戦争は、アジアを発信源とする欧州へのミサイル拡散の促進という想定外の副産物を生み出したといえる。(ロンドン 黒瀬悦成)