文前大統領が回顧録出版 | すずくるのお国のまもり

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お国の周りでは陸や海や空のみならず、宇宙やサイバー空間で軍事的動きが繰り広げられています。私たちが平和で豊かな暮らしを送るために政治や経済を知るのと同じように「軍事」について理解を深めることは大切なことです。ブログではそんな「軍事」の動きを追跡します。

<文前大統領回顧録出版>「米国、連合訓練中断を明文化すべきだった」(1)

 

 

 

 文在寅(ムン・ジェイン)前大統領が17日に公開した外交安保回顧録『辺境から中心へ』で、2018年のシンガポール朝米首脳会談の結果に、交渉期間中、北朝鮮の核・長距離ミサイル試験猶予に対する措置として韓米連合訓練の中断を明文化するべきだったと主張した。これを相互間の「レッドライン」(越えてはならない臨界点)に比喩しながらだ。
 この回顧録は、文政権で青瓦台(チョンワデ、大統領府)秘書官、外交部第1次官などを務めた崔鍾建(チェ・ジョンゴン)延世大教授が質問をして文氏が答える対談集形式で、655ページ分量。文氏は2018年の6・12シンガポール朝米首脳会談について「史上初めて朝米首脳を向き合って座らせるのに成功した」とし、仲裁者としての役割を浮き彫りにした。しかし「我々としてはテーブルを整えたが、十分に反映されなかったのが残念だった」と振り返った。
 特に韓米連合訓練を戦略的カードとして活用した状況を紹介した。シンガポール首脳会談前に朝米間で大規模韓米連合訓練中断に関する「口頭の合意があった」ということだ。非核化交渉中、北朝鮮は核と大陸間弾道ミサイル(ICBM)実験をせず、米国も大規模な連合訓練を中断するというのが骨子であり、文氏は「(朝米が)言葉だけで約束し、共同宣言文には明示せず、後に連合訓練がずっと問題になった」と伝えた。さらに「それを宣言文に盛り込んでいれば、北が核実験をしたりICBMを発射したりすればレッドラインを越えることになるように、米国側も大規模な連合訓練をすればレッドラインを越えることになるため、互いに合意違反の責任を負ったはず」と主張した。
 しかしこれは事実上、以前から朝中ロが要求してきた「双中断(北朝鮮の核ミサイル実験と韓米連合訓練の同時中断)」を事実上受け入れるとものとみられる。合法的で防御的な性格の韓米連合訓練を北朝鮮の不法な挑発と同じレッドラインに比喩しながら対等交換するという側面でも、批判を受ける可能性がある。
 文氏は2019年2・29ハノイ第2回朝米首脳会談の「ノーディール」についても「トランプ大統領と米国の交渉チームは北の提案内容さえも正しく理解できなかった」と指摘した。「(寧辺廃棄)約束を私が平壌(ピョンヤン)南北首脳会談(2018年9月18、19日)で受けたため(米国が)相応の措置さえ講じれば立派なディールになるはずだったが、(米国が)これを拒否するとは全く考えていなかった」ということだ。
 文氏は2018年9・19南北首脳会談を控え、金正恩(キム・ジョンウン)委員長が先に「寧辺(ヨンビョン)核施設廃棄」を提案したとも伝えた。また「北の寧辺施設は非核化ロードマップで必ず通らなければいけない点」とし「寧辺は唯一のプルトニウム生産施設であり、トリチウム設備も唯一備えている」と指摘した。別の地域で高濃縮ウラン施設を稼働することはあるが、寧辺を廃棄すれば小型核弾頭を作ることが不可能になるとも主張した。
 金委員長がトランプ大統領に送った親書(2018年9月6日)で「核兵器研究所と衛星打ち上げ区域の完全な中断および寧辺核物質生産施設の不可逆的閉鎖」を提案したことにも意味を付与した。「『核兵器研究所』は北核の頭脳またはコントロールタワーであり、これは『未来の核』を放棄するという意味」と説明した。また寧辺廃棄過程で米国側の常駐人員が北朝鮮を出入りすれば、北朝鮮に臨時大使館の役割をする米側の連絡事務所が開設されるという見方も示した。
 ただ、寧辺核施設については「北朝鮮の核力量の80%」という主張と「50%未満にすぎない」という評価が国際社会でもある。文氏は朝米非核化交渉過程で自身がトランプ大統領と歩調をうまく合わせたと自評した。「私には同盟外交のパートナーとしてとてもよく合っていた。率直でよかった」としながらだ。しかし米国の対北朝鮮交渉態度には露骨に不満を表した。米国が非核化に対する金委員長の誠意を理解できなかったという趣旨だ。
 当時、金委員長の不満を込めた発言も伝えたという。「米国が核リストと終戦宣言を交換しようと言ったが、我々に爆撃のターゲットを先に出せということではないのか」「信頼できる関係でもないのに始まる前に爆撃ターゲットから出せというのが話にならない」などだ。「米国が下賜品にでもなるかのように終戦宣言をするから核申告リストを出せと言った」という発言も伝えた。また、2018年5月の豊渓里(プンゲリ)核実験場廃棄についても「北朝鮮は価値を低く見ているとして不満を表した」と明らかにした。

 特に最初の朝米首脳会談を控えて米国が北朝鮮に「リビア式非核化モデル」を言及したことについては「会談相手(北朝鮮)に対する配慮がなかったというか、強大国の傲慢のようなものがあった」と表現した。2018年4-5月に当時のジョン・ボルトン大統領補佐官(国家安全保障担当)とマイク・ペンス副大統領らトランプ参謀陣が北核廃棄方式として言及した「リビアモデル」は「先に非核化-後に補償」を骨格とするが、その後「アラブの春」市民蜂起で独裁者ムアマル・カダフィが凄惨な最期を迎えたため、北朝鮮はこれを政権崩壊と同一視してきた。
 これに関し文氏は「北からすれば『これが交渉しようという態度か、米国の提案をどう信頼するのか』という疑問を抱く側面がある」と指摘した。また2018年5月の訪米当時、トランプ大統領にリビアモデルはいけないという趣旨で話して「全面的共感と同意」を得たが、参謀の行動は違ったという主張を続けた。
 北朝鮮が当時これに反発して激しい言葉で首脳会談の見直しに言及すると、トランプ大統領は直ちに会談を中止するという書簡を金委員長に送った。これについて文氏は訪米後の帰途に中止の発表が出てきたとし、「我々も非常に怒りを感じ、あきれた。中止するにしても少なくとも我々にあらかじめ知らせるべきであり、そのタイミングでそのような形で発表してはいけない」と指摘した。「とんでもないことであり、米国の一方的な形態に強い怒りを抱いた」としながらだ。文氏は朝米首脳会談場所も米国が北朝鮮の要求を最後まで受け入れず「米国の寛大な態度が足りなかった」と主張した。
 回顧録に主観的な評価を入れるのはよくあることだ。ただ、この回顧録はわずか2年前に退任した前大統領が同盟国に向けてやや感情的に不満を表すものと受け止められるおそれがる。朝米首脳会談決裂の責任を主に米国に転嫁するような印象を与えたりもする。このため国益にならないという批判も出ている。
 文氏が一貫して推進した終戦宣言に関連し、当時の政府が「韓国が抜けた朝米終戦宣言でもかまわない」という立場を米国側に伝えた事実も公開された。これは韓半島での戦争を終える議論で自らを除くものであり、主客転倒の盲目的な終戦宣言の推進だったという批判が提起されかねない。
 文氏はシンガポール首脳会談の前日の2018年6月11日、トランプ大統領との電話で「朝米首脳会談がうまくいく場合、望むなら会談後に私がその場に合流することもできる」と話したという。「望むなら3カ国間で終戦宣言をしたり終戦宣言を議論することもできる」と述べたということだ。また「望むならいつでも行けるよう、その日の日程を空けて待つと伝えた」とし「実際に日程を空けて見守ったが、米国からはいかなる返答もなかった」と明らかにした。対談者の崔教授は「会談直前に安保室が米国に最後に送ったメッセージは、米国と北だけで終戦宣言をしてもかまわないというものだった」と紹介した。
 南北は2018年4・27板門店(パンムンジョム)宣言で年内の終戦宣言に合意したが、実質的な進展はなく国内外的な論議を呼んだ。終戦宣言の法的拘束力や重量感などをめぐる賛否も分かれた。北朝鮮の非核化措置のない終戦宣言は北朝鮮に在韓米軍撤収主張の口実を与えるという懸念も強かった。

 

◎正恩氏「済州島の漢拏山に行きたい」 文在寅氏が回顧録で明らかに

 

 

 韓国の文在寅(ムン・ジェイン)前大統領が今月発売の回顧録で、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党総書記と2018年9月に平壌で会談した際、正恩氏が韓国・済州島(チェジュド)にある「漢拏(ハルラ)山」(標高1947メートル)に行きたいと述べたと明らかにした。
 正恩氏の母方の祖父は済州島出身。祖父は第二次世界大戦前、大阪に移住し、正恩氏の母の高英姫(コ・ヨンヒ)氏は大阪で生まれた。一家は戦後、北朝鮮に渡り、正恩氏は金正日(キム・ジョンイル)氏と高氏の間に生まれた。
 両首脳は18年の会談で、同年中の正恩氏の訪韓で合意。この際、北朝鮮で革命の聖地とされる「白頭(ペクトゥ)山」に共に登った。両首脳による韓国最高峰・漢拏山への登山が実現していれば、南北の和解を象徴する出来事となるはずだった。だが、19年2月のトランプ米大統領(当時)と正恩氏との米朝首脳会談が合意なしに終わったことで南北関係も悪化し、訪韓は実現しなかった。
 回顧録によると、文政権は18年の会談後、正恩氏を漢拏山に迎えるために準備を進めていたという。文氏は「(正恩氏の)体力のため、漢拏山の登山は不可能だ」と考えたと回想した。山頂近くにヘリコプターを着陸させるため、臨時ヘリポートの建設も検討したという。
 また正恩氏は18年の南北首脳会談で「いつか延坪島(ヨンピョンド)を訪問し、砲撃で被災した住民を慰めたい」とも述べたという。同島では10年11月、北朝鮮軍による砲撃があり、韓国人4人が死亡した。【ソウル福岡静哉】

 

◎「安倍元首相が足引っ張った」 韓国・文在寅氏が回顧録
 

 

【ソウル=甲原潤之介】韓国の文在寅(ムン・ジェイン)前大統領は17日公開した回顧録で、安倍晋三元首相とのやりとりを明かした。北朝鮮との非核化交渉で安倍氏が廃棄対象に短距離弾道ミサイルや生物化学兵器を含めるよう要求し「足を引っ張る主張を続けた」と記述した。
 文氏は米朝交渉で朝鮮戦争の終戦宣言の阻止に動いた当時のボルトン米大統領補佐官(国家安全保障担当)について「事実上、安倍首相の主張をそのまま代弁

 

◎「娘の世代にまで核を…」 金総書記の本音?“弱気”も… 韓国・文在寅前大統領が「回顧録」で暴露

 

 

 今も素顔は謎に包まれている、北朝鮮の金正恩総書記。その金総書記と首脳会談で交わした会話を、韓国の文在寅前大統領が「回顧録」で明らかにしました。
 暴露された発言をたどると、金総書記の弱気な一面も見えてきました。
 21日、韓国・ソウルの書店に並んでいたのは、発売直後にオンラインで売り上げ1位となった、文在寅(ムンジェイン)前大統領の回顧録です。
そこには…
【文在寅氏 回顧録より】
 金正恩(キムジョンウン)氏
「核を使うつもりは全くない」
 北朝鮮の金正恩総書記の発言の数々が明らかにされています。
 文氏と言えば、南北対話を進め、北朝鮮の金正恩総書記と3回にわたり、首脳会談を行った人物です。
北朝鮮・金正恩委員長(2018年「南北首脳会談」当時)
「こんにちは」
韓国・文在寅大統領(当時)
「ようこそ」
北朝鮮・金正恩委員長(当時)
「お会いできて、うれしいです」
 2018年4月の南北首脳会談で2人きりになった時には、こんな発言があったといいます。
【文在寅氏 回顧録より】
金正恩氏(当時)
「私にも娘がいるのに、娘の世代にまで、核を頭にのせて暮らさせたくはない」
 当時、北朝鮮が公にしていなかった、娘の存在に言及──。
 さらに…
【文在寅氏 回顧録より】
金正恩氏
「核は、徹底的に、自分たちの安全を保障するためだ。使うつもりは全くない」
 このように、非核化への思いを吐露したというのです。
 回顧録で注目されているのが、金正恩氏の“等身大の姿”。
 会談後、共同会見に臨む金総書記について、文氏はこう振り返っています。
【文在寅氏 回顧録より】
文在寅氏
「金氏は、(会見を)一度もやったことがないので、どうやったらよいか、どんな内容を盛り込めば良いかを聞いてきました」
「会見後も、自分がよくやったのかを聞いてきました」
 2018年6月当時のアメリカ・トランプ大統領との初の米朝首脳会談では、しっかりと握手し、自信満々に見えますが…この2か月前、文氏には、自身の外交経験の浅さを心配していたといいます。
【文在寅氏 回顧録より】
文在寅氏
「(金氏は)アメリカと初めて首脳会談をするにあたり、何の経験もないことへの心配も話しました。(アメリカへ)どのようにアプローチしたらよいかの質問が多かったです」
 こうした、金総書記の“弱気”ともとれる、発言の数々──。
 専門家は、演出の可能性もあるとしながら、文氏への“信頼感”のあらわれではないか、と指摘します。
 北朝鮮政治が専門 慶応義塾大学 礒﨑敦仁教授
「(金正恩政権は)いわゆる、恐怖政治ですよね。部下たちが具体的に、思い切った進言ができるような状況ではない。(金総書記が)米朝関係のような機微な問題を、相談できるような部下というのはいないわけです。そうすると、対外的に、これまで一貫して対話を訴えてきた文在寅(前)大統領を一定程度、信頼した」
 しかし、その文氏も──。
礒﨑敦仁教授
「結局、(文氏は)北朝鮮に大きく譲歩することはなく、アメリカと合同演習も続け、国防予算を増やし続けた。これが、北朝鮮に不信感を生んでしまった結果になるわけですよね」
 さらに、金正恩氏が今回の回顧録で、“暴露された”と思い、“不信感”を増す結果になったのでは、と指摘しました。
 一方、文氏は回顧録で、安倍元首相にも言及。北朝鮮との軍事的緊張が高まった2017年、「日米韓首脳会談」の場で、安倍元首相が有事に備え、在韓邦人の退避訓練を提案したと主張し…
【文在寅氏 回顧録より】
文在寅氏(安倍元首相について)
「(戦争の)不安をあおる態度でした。緊張緩和のために苦慮する私たちの立場を、全く配慮していませんでした。南北関係が良くなることを日本は望んでいないのかと思うほどでした」
 今回の回顧録で、金正恩氏について「非常に礼儀正しかった」などと、好意的に表現した文氏。
“北朝鮮寄り”との指摘が出ていて、韓国の現政権も、金総書記の言葉を全面的に信頼するのは危険と、文氏を批判しています。

 

◎「北を称賛」と物議を醸した平壌演説巡り文在寅前大統領「民族の自尊心・不屈の勇気という表現は私が入れた」

 

 

 

〈李河遠の外交プリズム〉
文在寅・前大統領の回顧録、2018年9月の「北朝鮮称賛」論争演説の件も蒸し返す
「平壌の発展に驚いて…民族の自尊心を守る不屈の勇気を示した」と演説
「保守層が不満に感じるかもしれないが、言うべきだと思って押し切って言った」
 5月17日に出版された文在寅(ムン・ジェイン)前大統領の回顧録『辺境から中心へ』に対する批判世論が強まっています。「韓国大統領が北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)政権の精神的捕虜になったのではないか」という指摘が出るほどに、全655ページにわたって、北朝鮮に傾倒した見方を示した-という批判が多いです。回顧録の基調は「米国に対する不満と北朝鮮の非核化意思代弁」です。文・前大統領は同書で「米国や韓国の極右勢力は、北朝鮮の非核化ではなく北朝鮮を崩壊させることが究極の目標なので、制裁緩和が話し合われること自体を嫌った」と書きました。「私は反対に、後悔している」「制裁解除についてわれわれがもう少し積極的に説得し、努力すべきだったのではないか」とも述べました。(128ページ)
 文・前大統領は、金正恩総書記の立場を代弁しようと努力しています。「金委員長はしばしばそのような表現を使った。核は徹底して自分たちの安全を保障するためのものだ。使用する考えは全くない。われわれが核がなくても生きていけるなら、どうして多くの制裁を受けてまで、苦労して核を頭に乗せて生きるだろうか。娘の世代まで、核を頭に乗せて生きることはできないではないか。そのように、非核化の意思を、委員長なりに切実に説明した」(191ページ)
■北朝鮮の体制を称賛するかのような2018年の平壌演説
 文・前大統領の回顧録においては、これだけでなく、2018年9月19日の綾羅島5・1競技場演説に関する部分も注目してみる必要があります。文・前大統領は当時、「南側の大統領」と自己紹介し、まるで北朝鮮の体制を認めて「称賛」しているかのような演説を行って物議を醸しました。これについても5ページにわたって言及していました。
 文・前大統領はまず「南側大統領として金正恩国務委員長の紹介で皆さんにあいさつをすることになり、その感激を言葉で表現できなかった」と言っています。「圧倒的な群衆で、圧倒的な歓声だった」「動員された人々だとしても、大変な歓迎を受けたのだ。その多くの平壌市民と初めて対面することで、胸がいっぱいだった」と述べました。(300ページ)
 今回、文・前大統領の回顧録で再び登場した5・1競技場演説において、最も大きな論争になっていた部分は、次の四つの文章です。「今回の訪問で私は平壌の驚くべき発展の様子を見ました。金委員長と北の同胞たちがどんな国をつくっていこうとしているのか、胸を熱くして見ました。どれほど民族和解と平和を渇望しているか、切実に感じました。困難な時節にも民族の自尊心を守り、ついには自ら立ち上がろうとする不屈の勇気を見ました」
 この演説に対して、北朝鮮において生活水準が並外れて高い平壌でも餓死者が出ている実情から目を背け、金日成(キム・イルソン)一家全体主義社会を称賛した、という指摘が出ました。同族を殺害する6・25南侵や各種のミサイル実験と核武装で挑発してきた北朝鮮を被害者と認識し、北朝鮮の体制を褒めたたえる発言を、どうして大韓民国の大統領ができるのか、というわけです。『南側大統領だなんて』というタイトルの本を出版した金栄宇(キム・ヨンウ)元議員は「北朝鮮は2021年1月の第8次党大会のときに改正した党規約に(中略)最終目的は人民の理想が完全に実現された共産主義社会を建設することにある」「文在寅大統領は、北朝鮮がつくっていこうとする社会主義と最終目的である共産主義社会建設に同意でもしているのか」と批判しました。

■経済制裁を受けている北朝鮮を激励したかったという文・前大統領
 文・前大統領はこれについて「北朝鮮が経済制裁を経験する中で直面しているさまざまな困難と、それに打ち勝つための努力を激励したかった」とし「だから『困難な時節』『民族の自尊心』『不屈の勇気』といった表現を、私が直接入れた」と書きました。また「われわれのメッセージは非核化、核のない韓半島であって、平壌市民に感性的にアプローチしたかった。感性的な表現の中で、平壌市民の困難を韓国側がよく理解していると激励する部分は、韓国の保守層は不満に感じるかもしれないが、私は当然言うべきだと思って、押し切って言った」と述べました。
 文・前大統領が回顧録で「押し切って言った」と表現したのは、青瓦台(当時の韓国大統領府)の一部でも5・1競技場演説文の問題点を認識して反対したけれど、文・前大統領が強行したことを示唆しています。その結果、金正恩が平壌住民15万人を集めた場所で「戦略的歓待」の雰囲気に酔い、大韓民国大統領が金正恩全体主義を称賛したと読める演説を行ってしまったのです。北朝鮮で十分に食べることもできず、人間として基本的な生活すらできず、体制の変化を渇望している住民は、文・前大統領の演説を伝え聞いて何を思ったでしょうか。
 当時の文大統領はこのように心を込めましたが、金正恩との雪解けの日々は長くは続きませんでした。北朝鮮は、韓半島情勢が自分たちの思い通りに進展しないことから、文大統領を強く批判しだします。その中でも圧巻は2020年6月、平壌・玉流館厨房(ちゅうぼう)長を登場させて露骨に非難したことです。文大統領は2018年9月の北朝鮮訪問当時、玉流館での歓迎昼食会の際、平壌冷麵を食べました。金正恩は同年4月、彼の最初の南北首脳会談場に玉流館の平壌冷麵を持ってきていました。これを覚えていて、北朝鮮はその玉流館厨房長を登場させて「平壌に来て玉流館のククスを食べるときは、何か大きなことでもやるかのように怪しげに振る舞って、戻ってからは今まで全く何もしてない」と主張しました。韓国大統領を、一介の料理人を登場させて非難したんですね。

■北朝鮮はハノイ決裂後、露骨に文大統領を非難
 同じころ、北朝鮮外務省は「南朝鮮は、間抜けが水を飲んでげっぷをするように、非核化という出まかせは放り出してしまえ」と言っています。張金哲(チャン・グムチョル)統一戦線部長は「青瓦台が危機を免れようとして頭をひねっているが、信頼は木っ端みじんになった。(文在寅政権が)無力で無能だったから、北南関係がこの様相、このありさまになったのだ。これから流れる時間は、南朝鮮当局において本当に悔いが残り、辛いものになる」と主張しました。
 その後も北朝鮮の金正恩政権は、自分たちを忠実に代弁してきた文大統領を「ゆでた牛の頭」などの表現を用いて非難してきました。2020年に金正恩の妹・金与正(キム・ヨジョン)が行った非難は最も強硬です。「鉄面皮の口車」「厚かましさと醜悪さ」「正義のふり、ありとあらゆる良さそうなふりをしながら平和の使徒であるかのように振る舞い、むしずが走って見ていられない」と言いました。
 国家安保戦略研究院の劉性玉(ユ・ソンオク)理事長は、北朝鮮が態度を180度変えて文・前大統領を非難している背景をこのように分析しました。「(文・前大統領は)北朝鮮に過度の期待を抱かせた。文在寅政権の人々は、私的な席で『われわれは米国の顔色をうかがわない。わが民族同士でやる。金剛山観光・開城工業団地を再開するつもり』と(北朝鮮側に)豪語したが、現実的には不可能だった。ハノイ会談前、国家情報院(韓国の情報機関)の実力者A氏が北朝鮮側の関係者と会って『寧辺の核施設さえ閉鎖すれば制裁が解ける』と言質を与えた。首脳会談でその条件を提示したら、トランプは交渉を蹴ってしまった。金正恩は文政権のほらで詐欺に遭ったと思っているのだ」
 金正恩は文・前大統領から詐欺に遭ったと思い、その後は露骨な非難をして「相手にするつもりはない」という意志をはっきりさせましたが、今回の回顧録が起こした波紋を見ると、文・前大統領はまだそんな金正恩政権にかなり未練があるようです。
李河遠(イ・ハウォン)外交担当エディター