米軍が「レーザー兵器」を配備し中東でドローン破壊 | すずくるのお国のまもり

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◎米軍が「レーザー兵器」を配備し中東でドローン破壊 イスラエルも本格導入へ

 

 

 米国の軍隊は、これまで半世紀以上にわたり、レーザー兵器などの指向性エネルギー兵器の研究開発に数百億ドルを投じてきた。そして今、その兵器を実際に戦場に投入している。
 米陸軍は中東で敵の無人機を撃ち落とすためにレーザー兵器を使用したと、陸軍の買収部門の責任者のダグ・ブッシュは最近フォーブスに語った。米国防総省がこのような兵器を戦闘に使用したことを認めたのはこれが初めてだ。
「これらの兵器は、適切な条件下においては特定の脅威に対して非常に効果的だ」と彼は語っている。
 ブッシュは、使用された兵器の詳細については明言を避けたが、その1つは「P-HEL」と呼ばれるものと考えられる。P-HELは防衛テクノロジー企業BlueHalo(ブルーハロ)のローカストレーザーをベースにしたもので、Xboxのゲームコントローラーで操作する「箱型のパレットマウント装置」とされている。この兵器は、比較的低出力の20キロワットのレーザービームでドローンの急所を数秒で溶かし、空から叩き落とすように設計されている。
 BlueHaloによると、米陸軍は2022年11月に海外で最初のP-HELの使用を開始し、今年2基目が配備された。同社のジョナサン・マネーメーカーCEOはこの兵器が、米軍が運用を開始した「最初の主要なレーザー兵器システム」だとフォーブスに述べたが、これまで戦闘での使用は確認されていなかった。
 この兵器の導入は、無人機との空中戦のコストに頭を悩ませている米国防総省にとって大きなマイルストーンと言える。米軍の防空ミサイルの価格は、攻撃用ミサイルの約2倍もするが、そのような高価なミサイルを使って、中東やロシアとウクライナの戦争で広く使われるようになった小型ドローンを撃ち落とすのは、経済的に考えて非効率だ。例えば紅海でイエメンのフーシ派武装勢力による攻撃から貨物船を守る米国の軍艦は、200万ドルのミサイルを使って2000ドルのドローンを撃ち落としている。
 レーザーや高出力のマイクロ波を用いる指向性エネルギー兵器は、電磁放射を使って標的の電気部品を焼くもので、ミサイルよりもはるかに安価で、1発あたりのコストは、1ドルから10ドル程度とされている。

 レーザー兵器のもう1つの利点は、ステルス性だ。レーザービームは通常、目に見えず無音だ。空軍の特殊作戦用攻撃機のAC-130にレーザーを搭載する取り組みの支持者たちは、敵に気づかれることなく車両のエンジンや通信機器を破壊できるという見通しを宣伝していた(しかし、この計画は長年の遅延の末、今春中止された)。
〇莫大な開発費用
 しかし、レーザー兵器システムの製造にはコストがかかる。最初のP-HELの試作品のコストは、1基あたり800万ドル(約12億4000万円)だったと陸軍はフォーブスに語った。また、DE-M-SHORADと呼ばれる、より強力な50KWのレーザーを搭載した車両搭載システムのプロトタイプには7300万ドルが投じられたとされており、米国防総省の8250億ドル(約128兆円)の年間予算を競う防衛システムは他にも数多く存在することを考えると、これは高価な投資と言える。
 さらにレーザー兵器は、砂嵐や雨、霧、煙などの影響を受けやすく、晴れた日でも、乱気流がレーザーの焦点をずらし、威力を弱めることがある。しかし、擁護派は、このような兵器はすべての条件で機能する必要はないと主張する。
 2018年から2020年まで、米国防総省の指向性エネルギーの研究を行うオフィスの初代ディレクターを務めたトーマス・カーは、悪天候は敵の兵器にとってもオペレーションの障害になると指摘する。「敵のドローンも砂嵐の中ではうまく飛べないのです」
 一方、軍の買収担当のブッシュは、レーザー兵器は、米軍の多層的な防空システムの一部に過ぎないと主張する。「レーザー兵器によって、迎撃ミサイルの使用を10%から20%削減できるとしたら、それは非常に良い投資と言えます」
「スター・ウォーズ」計画の挫折
 指向性エネルギーのポテンシャルは、1960年代から米国防総省を魅了してきたが、レーガン政権時代の宇宙防衛構想のような過大なプロジェクトによって、数十年にわたって阻止されてきた。「スター・ウォーズ」と呼ばれて揶揄されたこの計画は、宇宙ベースのレーザーなどでソ連の大陸間弾道ミサイル(ICBM)を撃墜しようとしていたが、約300億ドルが費やされた後の1993年に中止されていた。
 ICBMを爆破するためのもう1つの著名な失敗した試みの空中レーザー計画にも、50億ドルが投じられたが、2012年に打ち切られた。
 しかし、それでもなお米国防総省は2020年以降に、指向性エネルギー研究に年間およそ10億ドルを費やしている。同省の指向性エネルギー担当主席ディレクターのフランク・ピーターキンは、「現状で20数基のシステムが実地試験のために軍部隊に配備され、使用可能になっている」と述べている。
 その中には、ストライカー装甲兵員輸送車に搭載されたRTX社製レーザーを用いた4台のDE M-SHORADが含まれている。これらの兵器は今春、実戦テストのためにイラクに配備された。
〇紅海での実戦配備は遅延
 また、2019年以降に海軍はODINと呼ばれる低出力レーザー「ダズラー」を8隻の駆逐艦に搭載し、敵の無人機のセンサーを破壊しようとしている。さらに、2022年に海軍はロッキード・マーティン製のHELIOSと呼ばれる60KWのレーザーを別の駆逐艦に搭載した。

 しかし、これらの兵器はフーシ派の攻撃からの防御に有効であるにも関わらず、紅海での戦闘にはほとんど使われていないと海軍水上部隊のトップのブレンダン・マクレーン副提督は1月に語った。レーザー兵器の実戦配備が遅々として進まないことは、「もどかしい」と彼は述べていた。
 一方、高出力のマイクロ波兵器は、射程距離が短いという欠点もあるが天候に左右されない点がメリットだ。南カリフォルニアのスタートアップEpirus(エピラス)は、陸軍との6600万ドルの契約で受注したレオニダスと呼ばれる防御システムのうちの、最後の2つを間もなく納入予定だ。このシステムは基地の周囲から数百ヤード離れた場所にエネルギーの「壁」を作り、ドローンによる攻撃を防ぐことが可能で、平均的な飛行場の防御には、このシステムが6台必要だとエピラスは述べている。
 米国防総省は、ロッキード・マーティンやゼネラル・アトミックス、エヌライトなどの企業の、300キロワットレベルのより強力なレーザーの研究にも資金を提供している。

〇イスラエルのレーザー兵器に資金援助
 米国はまた、イスラエルの取り組みにも投資を行っており、先月議会が可決したイスラエルへの軍事援助パッケージには、Iron Beam(アイアンビーム)と呼ばれる指向性エネルギー兵器の開発資金として12億ドルが含まれていた。このプロジェクトは、イスラエルの防衛請負会社Rafael(ラファエル)が開発した100キロワットのレーザーを、ロケットや無人機を打ち負かすために使用するものだ。
 イスラエルは、このレーザー兵器を来年末までに実用化することを望んでおり、米国防総省は開発中のシステムの代替案としてこれに関心を持つ可能性があると、ブッシュは昨年記者団に語っていた。
 一方、米国防総省が現在のレーザープロトタイプのいずれかを大規模に実戦配備することを決定した場合でも、大量生産にこぎつけるまでには時間がかかる可能性がある。防衛分野のシンクタンク「エマージング・テクノロジー・インスティテュート(ETI)」は今年1月、この分野の光学部品などの主要部品を製造している企業は、限られており、需要の急増に対応できないと警告した。ETIは、米国防総省が産業界に準備のための投資を求める「明確なシグナル」を送らなかったことを非難した。
 ブッシュはまた、限られた予算と、議会での差し迫った優先事項の多さも障害になると述べている。「言わば、すべてが他のなにかと競合しているような状況だ。しかし、事態を前に進める可能性があるのは、脅威が深刻だということだ。中東で我々が直面している現在の脅威に対して、これらの軍事システムが機能することを明確に示せれば、米国防総省との会話が前に進むかもしれない」とブッシュは語った。