◎韓国防衛産業初の海外基地、豪州現地ルポ…4兆1300億ウォンK防衛産業のゆりかご(1)

 

 

 

 先月19日、オーストラリアのメルボルンから南西に60キロメートルほど離れたジーロング市へ向かう道。車窓の風景は果てしなく広がる牧草地がすべてだった。黒い牛の群れと白い羊の群れがのんびりと草を食べる姿が1時間ほど続いたころにハンファエアロスペースのオーストラリア生産工場(H-ACE)が威容を現した。15万平方メートルの広い敷地に3万2000平方メートル規模で作られた生産工場は、韓国の防衛産業企業で初の海外生産基地だ。アジアの防衛産業企業がオーストラリアに進出した初めての事例にも挙げられる。
 ジーロング市はもともとフォードの自動車工場があった地域だったが、2016年にフォードが撤収し地域経済に寒波が押し寄せた。ハンファがここに進出するまでは人口20万人の静かな牧草地の村にすぎなかった。
 だが2021年12月に韓国がオーストラリアとK9自走砲とK10弾薬運搬装甲車の輸出契約を結んだのに続きジーロングが工場用地に決まり状況が急変した。その後昨年12月にオーストラリアへの輸出契約が結ばれたハンファのレッドバック装甲車129台もここで生産することになり、ジーロングは一躍、韓国防衛産業の最前方海外生産基地として生まれ変わることになった。K9とK10、レッドバックの輸出は本契約規模が4兆1300億ウォン(約4713億円)に達する。
 2022年4月に工場建設が始まってから2年ぶりに訪れたジーロング生産工場は内部の仕上げ工事の真っ最中だった。オーストラリア向けK9自走砲「AS9ハンツマン」とオーストラリア向けK10弾薬運搬装甲車「AS10」を生産する工場だ。ハンファエアロスペースでオーストラリア事業を担当するジャクソン・ドチャティ副社長は「オーストラリア向けK9自走砲とK10の生産工場は7月に完工する予定で、11月から本格的な生産に入れるだろう。現地スタッフの採用が進んでおり、内部施設も5月中には完璧に備わるだろう」と説明した。
 彼は「オーストラリア向けK9自走砲の場合、ひとつの作業台で10日ずつ9段階を経て生産され、90日に1台が完成する工程。韓国企業特有の『パリパリ(速く速く)』の文化が効率的に結びついて納期に十分に合わせられると期待している」と話した。続けて「レッドバック装甲車生産工場も近く増築工事に着手し、2026年6月から量産に入る計画」と付け加えた。
 韓国とオーストラリアの防衛産業協力は今後さらに拡大する見通しだ。先月30日には韓国国防部の申源湜(シン・ウォンシク)長官とオーストラリアのマールズ国防相がともにジーロング工場を訪れ工事の仕上げ現場と生産ラインなどを視察した。両国防相はこの日の会合で、一層深まる両国の防衛産業協力をさらに一次元高い段階へと発展させていくためともに努力することにしたと韓国国防部は明らかにした。
◇レッドバック装甲車129台もジーロングで生産…工場の外にはテスト用の巨大な傾斜路
 ジーロング工場の外に出ると広い空き地に作られた巨大な傾斜路が目についた。現地工場関係者は「K9自走砲とレッドバック装甲車が60%の傾斜路に上がった後に停止しそのまま維持できるかテストする装備。国際標準に基づきハンファ昌原(チャンウォン)工場と同一に設計された」と伝えた。
 傾斜路の右側には2つの水タンクが用意されていた。この関係者は「K9などの生産が本格化すれば一定の水深の河川を渡ることができるかテストする水たまりを作る計画」と説明した。これとともに工場周辺には長さ1.5キロメートルの走行トラックと試験場、渡河性能試験場、射撃場、研究開発センターなど各種研究試験施設が入る予定だ。オーストラリアの協力企業の工場も相次いで進出を控えている。

 ジーロング工場があるビクトリア州も、韓国の防衛産業輸出契約にともなうトリクルダウン効果が予想よりはるかに大きいものと期待していた。ビクトリア州政府の国防宇宙航空担当者は「オーストラリア連邦政府がハンファと契約を締結してから現地生産基地を誘致するための州政府間の入札競争がとても熱かった。1970年代に造成された宇宙航空団地をはじめとする防衛産業関連産業が発達しており、オーストラリアの国防研究開発予算の40%がわれわれの州に投資されている点が高い評価を受け誘致に成功した」と誘致競争の裏話を伝えた。
 彼は「オーストラリア向けK9自走砲製作に協力する地域中小企業に1000万豪ドル(約10億円)をすでに投資しており、レッドバック供給と関連する企業にも同水準の規模で金融支援が行われるだろう」と付け加えた。ビクトリア州政府はハンファの工場誘致が地域経済に及ぼす波及効果が57億豪ドルに達すると予想した。現地生産工場の本格稼動で現地スタッフの採用も増え、今後12年間でジーロングだけで1000件以上の雇用が新たに創出されると期待されている。
 地域経済も一層活気を帯びる雰囲気だ。1万3000人ほどの従業員が勤務するANCAグループは動作制御システムと人工呼吸作動器、誘導ミサイル組み立てなどを専門にするメルボルン地域の代表的な中堅企業のひとつだ。この会社は韓国企業とも30年以上取引してきたが、ハンファのオーストラリア進出の知らせを受けCTSという子会社まで設立し防衛産業協力強化に積極的に飛び込んだ。
 CTSのオフィスで会ったニック・ウィリアムス本部長は「レッドバック装甲車の安定した走行のため車体の下輪に14個の関連部品が使われるが、これと関連してハンファとライセンス契約を結ぶなど戦略的パートナーシップを締結した。研究陣が昌原工場に行って関連技術を習得した後にこちらに帰ってきて生産を担当することになるだろう」と話した。
 韓国防衛産業学会のチェ・ウソク会長は「韓国企業が初めて海外生産基地を建てたのは韓国防衛産業の変化した地位を象徴的に見せるもの。現地化に成功してオーストラリアの地域経済に肯定的影響を及ぼせば今後他の防衛産業企業の海外市場進出にも多いに役立つだろう」と話した。
 オーストラリアが国防力強化に出たのも韓国の防衛産業企業には好材料として作用する見通しだ。オーストラリア国防省は先月17日に「2024国家国防戦略」を発表し、今後10年間で国防費支出を既存の計画より500億豪ドル増額すると明らかにした。これはオーストラリアの年間国防予算に匹敵する規模だ。オーストラリアの国防予算は2019~20年390億豪ドルだったが、昨年には過去最高となる526億豪ドルに急増した。
 オーストラリア政府のこうした国防力強化戦略は何より中国を牽制するためのものというのが国際社会の共通した分析だ。オーストラリアは米国、英国との安全保障同盟であるAUKUSのほか、米国、インド、日本との安全保障の枠組みであるクアッドの正式加盟国として活動しており、米中対立局面で米国と足並みをそろえてきた。
 オーストラリアは海軍力強化に重点を置くという方針を立てた状態だ。マラッカ海峡の貿易通商ルート確保などをめぐり対立が激化する中で、海軍力増強を通じて経済的・軍事的利害を強固にするという考えだ。このため2029年までに次期護衛艦11隻を導入することにした。韓国企業もすでに受注戦に参加しているという。西オーストラリア国防科学センターのシェーン・タフィン首席研究官は「現在韓国をはじめ日本、ドイツ、スペインの設計案を検討中」と明らかにした。