◎海上自衛隊ヘリコプターの墜落事故について
 令和6年4月20日(土)夜中に発生した海上自衛隊のヘリコプター墜落事故における4月24日(水)以降の捜索状況についてお知らせします。
1 現在、海上自衛隊の護衛艦等約10隻及び航空機約5機をはじめとして、自衛隊及び海上保安庁等が現場海域にて捜索を実施中です。
2 27日以降、海洋観測艦「しょうなん」が現場海域に到着次第、捜索活動に参加します。
3 現場付近で捜索中の、海上自衛隊艦艇が、墜落したSH-60Kの機体の一部と思われる物件(アンテナカバー、機体上部の一部(推定))を発見、回収しました。

(おしらせ) (mod.go.jp)

 

◎海自ヘリの墜落事故が起きた「対潜水艦戦」訓練とは?過酷でも今の日本の安全にさらなる訓練が不可欠な背景
勝股秀通( 日本大学危機管理学部特任教授)

 

 

 海上自衛隊のSH60K哨戒ヘリコプター2機(乗員8人)が、夜間訓練中に墜落した事故は、現場となった伊豆諸島東方沖の太平洋が深さ5000メートルを超す深海域でもあり、行方不明者の捜索活動は難航している。事故は海中に潜む潜水艦を探知するという「対潜水艦戦」の最中に発生した。2機は空中衝突した可能性が高いとみられ、海自には一刻も早い原因の究明と再発防止策が求められている。
 と同時に、四面環海の日本に生きる私たちは、この痛ましい事故を機に、改めて過酷な訓練が必要な厳しい安全保障環境に置かれている現実を認識しなければならない。
〇8年前の日米演習(キーンソード)で何が起きていたのか
 日本が置かれた厳しい安全保障環境――。それは8年近く前の2016年11月、日米共同統合演習「キーンソード」で露呈したと言ってもいい。キーンソードは米軍と自衛隊のすべての軍種が参加する日米最大規模の実働演習で、自衛隊にとっては、演習直前の16年3月に施行された安全保障関連法に基づいて行動する初めての訓練でもあった。
 訓練は朝鮮半島有事など日本への武力攻撃に至る恐れがある重要影響事態を想定した内容で、海上自衛隊のヘリ搭載護衛艦「ひゅうが」が、陸上自衛隊の西方普通科連隊(現在の水陸機動団)を乗せ、米領グアムなどで米海兵隊と上陸作戦を行ったほか、沖縄近海の浮原島沖では、米軍機のパイロットを救助する訓練も実施された。さらに、こうした日米の作戦即応力を高めるため、西太平洋には米海軍の原子力空母「ロナルド・レーガン」の機動部隊が展開していた。
 日米の緊密な連携に対して、まず動き出したのはロシアだった。太平洋艦隊の原子力潜水艦が北方領土方面から進出、太平洋を経由して鹿児島の奄美大島周辺海域まで到達するが、この間、原潜を探知した日米は、音波を発するアクティブソナーを使って、ロシア艦に対して探知していることを認識させ続けた。
 防衛省幹部は当時、「ロシアの原潜が日米演習を探りにきたのは、ソ連が崩壊して以来ではないか」と話していたが、その直後、今度は東シナ海から西太平洋に進出しようとする中国海軍の2隻のキロ級潜水艦が現れ、日米は共同で探知、追尾に追われることになる。この演習を境に、日本周辺海域では中露の潜水艦行動が活発化し、とりわけ中国海軍の潜水艦の行動は激しさを増していくことになるのである。

〇常態化した日本周辺における中国潜水艦の活動
 同省が『防衛白書』に記載しているだけでも、18年1月に中国海軍の商級原子力潜水艦が潜没したまま沖縄・尖閣諸島の接続水域内を航行したほか、20年6月と21年9月には奄美大島周辺の接続水域内を元級とみられる通常型潜水艦の潜没航行が確認されている。このほか白書に記載はしていないが、キーンソードが始まる前の16年2月にも、中国潜水艦は長崎・対馬の周辺海域を潜没航行し、東京・硫黄島の近海にまで進出してきていたことが確認されている。
 当時、政府は領海外の接続水域であっても、潜水艦の潜没航行は「一方的に緊張を高める悪質な行為」として中国に厳しく抗議していた。しかし「中国は海自にどこでどうやって探知されたのかといった海自の探知能力を把握することが狙い」との指摘があり、それ以降、防衛省は潜水艦を探知しても一切公表していない。だが、16年から21年の状況からわかるように、日本周辺における中国潜水艦の活動は常態化していると考えなければならない。
 元自衛隊幹部は「公表しないのが当たり前。しかし、尖閣など日本の領海内を潜没航行された場合には、国際法違反としてきちんと対処しなければならない。そのためにも、海自にとって中国潜水艦の探知は、極めて重要な任務となっている」と話す。
 だが、年を追うごとに探知は難しくなっているという。2010年ごろまでの中国海軍の潜水艦は「スクリュー音が大きく、3000ヤード離れていても探知できた」(元海自幹部)というが、ロシアの技術に加え、自前の宋級、元級と建造が進むにつれ、「静粛性が増し、海自の潜水艦が水中で探知しようとすれば、互いに気づくのが遅れ、水中衝突という不測の事態を招きかねない」と打ち明ける。裏を返せば、だからこそ哨戒ヘリが潜水艦を探知する必要性が増しているということでもある。
〇訓練の抜本的な見直しも必要
 こうした状況下で起きたのが、今回の哨戒ヘリの事故だ。水中にいる潜水艦の位置を探り当てるには、三角測量の技法が使われる。今回も訓練には3機の哨戒ヘリが参加し、各機は吊り下げ式のソナー(音波探知機)を海中に投入、ソナーから音波を発信し、水中の潜水艦に当たって反射してきた音を観測したり、潜水艦が発する微弱な音を収集感知したりすることを繰り返す極めて難易度の高い訓練だ。
 事故後、対潜水艦戦に詳しい海自のOBらからは、慢性的な隊員不足に加え、尖閣諸島対応や北朝鮮のミサイル発射に備えるなど実任務で出動する機会が増え、「隊員は訓練が思うようにできていないのでは……」といった意見が聞こえてくる。
 また、中国潜水艦の静粛性が増しているため、訓練では同様に静粛性に優れた海自の潜水艦を標的艦として訓練するが、遠方からでは探知が難しく、ヘリ同士が標的に近づき、結果として空中衝突する危険性も増しているのではないだろうか。

 事故ではフライトデータレコーダーが回収されており、いずれ事故の直接的な要因は解明されるだろう。だが事故の背景に、隊員の訓練環境や人員不足、潜水艦の静粛性、船体のステルス性の向上といったさまざまな要因があるとすれば、海自にとって重要かつ主要な任務であるからこそ、対潜水艦戦を抜本的に見直すことも必要だろう。
〇中国に対し“力の空白”を作ってはならない
 事故後、海自は同型ヘリによる対潜水艦戦の訓練飛行を中止している。だがその一方で、虎視眈々と中国は、東シナ海から西太平洋に進出する潜水艦の新たなルートを探索し続けている。過去、沖縄本島と宮古島間の宮古海峡を潜水艦が通過しようとすると、海自に探知されるケースが多かったからだ。
 中国は21年11月以降、海軍の測量艦を頻繁に鹿児島の屋久島や口之島周辺の日本領海内に進出させ、海盆の位置など海底地形の測量を実施している。国際法違反の行為だが、測量回数はすでに10回以上にも及んでおり、今後は屋久島南方の「トカラ海峡」を通過して潜水艦が日本周辺海域に進出してくることは確実だろう。
 四方を海に囲まれた日本にとって、周辺海域の安定は何よりも重要であり、そのための警戒監視は自衛隊に与えられた最優先の任務といっていい。海洋進出を図り、現状変更を目論む中国を抑止するには、対潜水艦戦をはじめ警戒監視能力が低下する事態、換言すれば“力の空白”を作ってはならない。痛ましい事故ではあるが、事故を教訓に、新たに強化された警戒監視活動が始まることを期待したい。