ウ軍軽飛行機型ドローン、ロシアの巨大レーダーを狙う | すずくるのお国のまもり

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お国の周りでは陸や海や空のみならず、宇宙やサイバー空間で軍事的動きが繰り広げられています。私たちが平和で豊かな暮らしを送るために政治や経済を知るのと同じように「軍事」について理解を深めることは大切なことです。ブログではそんな「軍事」の動きを追跡します。

◎ウクライナの軽飛行機型ドローン、ロシアに1基しかない巨大レーダーを狙う

 

 

 ウクライナの軽量スポーツ機改造型の自爆ドローン(無人機)が狙っている2番目の目標は、かなりの大物だ。ウクライナの戦線から約600km離れたロシア西部コビルキノに配備され、最大3000kmの探知距離を誇るOTH(超水平線)レーダー「コンテナ」(29B6コンテイネル)だ。
 ウクライナは先週、この巨大レーダーを攻撃するため長距離ドローンを出撃させたが、命中しなかったとされる。そこで17日、再び攻撃を試み、今度は少なくとも、30m以上あるアンテナ塔約145本が立ち並ぶ広大な施設の近くまで到達させた。
 ロシアの民間人によって撮影したとみられる地上からの映像には、アエロプラクトA-22軽量スポーツ機を改造したドローン1機がコンテナの施設に向かって飛行し、その後、爆発現場とみられる地点から煙が立ち上る様子が見える。
 ウクライナ側がコンテナに繰り返しドローンを送り込まざるを得ないことは、ウクライナの戦線から数百km離れ、敷地面積も広いレーダー施設に対する攻撃の難しさを物語っている。コンテナが簡単に撃破されるとは考えないほうがいいだろう。だが、ウクライナがこの唯一無二のレーダーへの攻撃を試み続けることは期待していい。
 現在ロシアに、欧州の空域を監視するために西方向をカバーするOTHレーダーは、1億1000万ドル(約170億円)する新世代のOTHレーダーであるこのコンテナしかない。ロシアのほかのOTHレーダーは北極圏に配備されていて、北方向をカバーしている。
 OTHレーダーは、地球の大気の上層にある電離層に信号を跳ね返すことで、水平線の向こう側まで探知できるレーダーだ。冷戦期には、核兵器に対する早期警戒を目的に核保有国が配備していた。今日では、富裕な国々で、敵の航空機やミサイル、ドローンなどを遠距離から発見・追跡するのにも用いられている。
 OTHレーダーは必ずしも通常のレーダーほど精確ではない。ただ、通常のレーダーの場合、前線から数百km以内に置く必要があり、敵のあらゆる火力にさらされやすい。

 それに対して、探知距離の長いOTHレーダーは、基本的に長射程の攻撃兵器を除けば攻撃を受けずに済む。長射程の攻撃兵器を保有する国は多くない。
 ロシア軍の防空部隊の指揮官たちも、ロシアがウクライナで拡大して2年3カ月近くたつ戦争では、数カ月前まで、自軍で最も遠距離までカバーできるレーダーであるコンテナについては心配する必要がなかった。ウクライナが保有する兵器では、まったく届かない地点にあると考えてよかったからだ。
 だが、ウクライナは外国からの支援も受けつつ、最高のエンジニアと巨額の資金を投じてまったく新しいクラスの長距離攻撃ドローンを開発した。この新型ドローンは今年に入り、ロシア領内に最長1000kmほども侵入し、航空基地や指揮拠点、石油関連施設、その他の戦略産業施設を次々に攻撃してきた。
 今月2日、ロシア西部エラブガの施設を狙った攻撃は、これまでで最も遠距離のものの一つだった。A-22少なくとも1機がウクライナとの国境からおよそ1000km先まで飛行し、イランで設計されたシャヘド自爆ドローンを製造する工場の敷地内に突っ込んだ。工場自体か近くの従業員寮が損傷し、14人が負傷したと伝えられている。
 自律飛行するこのスポーツ機型ドローンは、ウクライナが保有する15種類かそこらの長距離ドローンのなかでも最高の部類に入る。数百kgの爆薬や長距離飛行用の燃料を十分積めるほど大きく、ベースとなるA-22は1機9万ドル(約1400万円)程度なのでコストも低い。
 ウクライナの国産機であるA-22の改造ドローンは、生産を増やしていくことも可能だ。ウクライナの調査分析グループであるコンフリクト・インテリジェンス・チーム(CIT)は、エラブガの攻撃を分析したうえで、シャヘドの工場などを狙った「攻撃は今後も試みられるだろう」と予想していた。
 2週間後、爆薬を積んだA-22改造ドローン少なくとも1機が、今度はコンテナに向けて出撃した。

 17日のドローン攻撃でコンテナに損害を与えたのかどうかや、損害の程度は現時点ではまだ判断できない。仮にアンテナ塔を1基ないし数基倒したとしても、それだけではこのレーダーを永久的に使えなくすることはできないだろう。ウクライナ側が今回の攻撃を賢く計画し、巧みに実行し、また運にも恵まれていれば、コンテナの管制センターを攻撃したかもしれない。ここを破壊すればレーダーは使い物にならなくなる。
 いずれにせよ、1週間で2回も攻撃を仕掛けたということは、ウクライナ側がコンテナを撃破とまではいかなくても抑制することを狙っているのは確かだろう。また、これらの攻撃は大きく見れば、飛来してくる攻撃ドローンに対するロシアの防空の「目潰し」をすると同時に、ウクライナの空域をウクライナ軍機にとってより安全にするという、大きな戦略の一部であることも明らかだ。そのウクライナ軍機には、近く欧州諸国から届くことになっているF-16戦闘機も含まれるはずだ。
 ウクライナのこうした対レーダー戦略が最も劇的な形で成果を収めたのは、今年1月から2月にかけて、ロシア空軍の貴重なベリエフA-50早期警戒管制機2機を長射程の地対空ミサイルで相次いで撃墜したときだった。ウクライナ軍はその後、ロシア南部ロストフ州タガンログにあるA-50の修理・生産工場もドローンで攻撃し、追い打ちをかけている。
 ロシアが戦争拡大前に保有していた9機前後のA-50の大半を実質的に排除したウクライナは、ますます能力を高めているドローンによってロシアの地上レーダーを狙い始めている。