◎米国製ドローン、ウクライナ戦況を変えられず
米シリコンバレーに本社を置くスカイディオは、ロシアと戦うウクライナを支援するため、同社の最先端ドローン(無人機)数百機を送った。だが、物事はうまく運ばなかった。
スカイディオのドローンはロシアが仕掛ける電子戦の餌食となり、軌道を外れ行方不明になった。同社は新たなドローンを作るため、一からやり直すことになった。
米国のスタートアップ企業が生産した小型ドローンの大半は戦場で性能を発揮できていない。戦闘での性能が証明されれば売り上げが増加し、注目も高まるという期待は打ち砕かれた。大量の小型ドローンを確保したい米国防総省の思惑も外れた。
小型ドローンの役割が目立つようになった初めての戦争において、米企業はいまだに存在感を示せていない。米国製ドローンは全体的に高価で故障が多く、修理が難しい。こう指摘するのは、ドローン企業の幹部、ウクライナの軍人、ウクライナ政府関係者、元米国防省関係者らだ。
ウクライナはドローンを確保するため、安価な中国製に頼っている。
スカイディオのアダム・ブライ最高経営責任者(CEO)は「どのような種類の米国ドローンもウクライナでは他のシステムほどうまく機能しないというのが一般的な評判だ」とし、自社のドローンについても「前線であまり成功したシステムではない」と述べた。
人工知能(AI)を搭載した小型航空機を製造しようとするスタートアップ企業に対しては、米政府への売り込みを期待してベンチャーキャピタル(VC)が積極的に資金を提供してきた。スタートアップ企業が注力するのは、既存の防衛企業が手掛ける大型の軍用ドローンよりも短期間に低コストで製造できる商用ドローンだ。調査会社ピッチブックによると、米国を拠点とするドローン技術関連企業約300社が過去2年間にベンチャーキャピタルから調達した資金は総額で約25億ドル(約3800億円)に上る。
米国製ドローンは壊れやすく、ロシアの電波妨害やGPS(衛星利用測位システム)遮断技術に対応できないということをウクライナ当局者らは認識している。こうしたドローンは離陸や任務完了、帰還ができないこともあった。また、飛行距離が企業の宣伝文句よりも短く、必要な積載量に届かないことも多い。
ウクライナの慈善団体「カムバック・アライブ」のシニアアナリスト、ミコラ・ビリエスコフ氏は、戦場で使う米国の小型ドローンは「十分な開発水準に達していない」との見方を示す。同団体は軍に3万機余りのドローンを供給してきた。
米ドローン会社の幹部らが口にするのは、ウクライナでの電子戦は想定していなかったということだ。スカイディオの場合、同社のドローンは2019年に米軍の通信規格を満たすよう設計された。スタートアップ企業の幹部からは、ドローンの部品やテストに関する米国の規制によって、製造できるものやスピードが制限されているとの声が聞かれる。
ウクライナのデジタル転換省で副大臣を務めるゲオルギー・ドゥビンスキー氏は、ドローンを用いた戦いでは日々のアップデートやアップグレードが必要になることもあり、こうした規制は明らかに問題になっているとの認識を示した。
同氏は「今日飛行しているものも、明日は飛べなくなるかもしれない」とし、 「われわれは新たなテクノロジーに素早く適応する必要がある。この戦争における技術革新のサイクルは非常に短い」と語った。
〇中国製ドローンを使用
ウクライナは中国から数万機のドローンやドローン部品を入手する方法を見つけた。軍が利用するのは一般に出回っている中国製ドローンで、大半はSZ・DJIテクノロジーが製造したものだ。
ウクライナはまた、中国の部品を柱にして国内ドローン産業を発展させてきた。工場では爆弾を搭載できる小型で安価なドローンを数十万機規模で生産している。敵地の奥深くを攻撃したり、黒海のロシア船舶を狙ったりすることができる比較的大型のドローンも製造する。
ドゥビンスキー氏によると、ウクライナはこれまでより多くの米国製ドローンをテストし、使用する考えだという。同氏は「とはいえ、費用対効果の高い解決策を探している」と述べた。
ウクライナ軍が失うドローンは月に約1万機に上り、高価な米国製を購入する余裕はない。米国の商用ドローンの多くは1機当たりのコストが中国製を数万ドル上回る。
2022年にロシアがウクライナへの侵攻を開始して1カ月もたたないうちに、米国防総省はバージニア州が本社のエアロバイロンメントが製造するドローン「スイッチブレード300」の供与を決めた。スイッチブレードが最初に直面した問題はロシアが仕掛ける電子戦だったと、ウクライナでスイッチブレード運用に携わった元米兵は語る。
〇米政府 新たな軍事支援を表明 ウクライナに約440億円相当
エアロバイロンメントの広報担当者は、誰もがロシアによる電波妨害の影響を受けたとし、対応のために同社のドローンはアップデートされていると述べた。
米国とギリシャに拠点を置くスタートアップ企業、ベロス・ローターズは双発ヘリコプター型ドローン「V3」を製造する。広報担当者によると、昨年12月にウクライナの首都キーウ(キエフ)近郊で行ったデモ飛行では不備が見つかった。ウクライナ軍はV3を使用しており、同社は米政府からの受注があれば年内に出荷を拡大する予定だという。
ウクライナ向けのドローンを巡り米国防総省と契約を交わした米ドローンメーカーはエアロバイロンメントを含め一握りしかない。ノースカロライナ州が本社のサイバーラックスもその1社で、映画製作で使われるドローンを、爆弾を搭載できるよう改造した。
サイバーラックスは株主宛ての書面で、こうしたドローンの生産と納品の目標を達成できなかったと説明した。マーク・シュミットCEOは、最大7900万ドルに上る国防総省との契約には違反していないと述べた。
成功例もある。ウクライナの検事総長室によると、スカイディオのドローンが撮影した映像は、民間人や核施設への攻撃などロシアによる戦争犯罪疑惑に対するウクライナの捜査に役立っている。
シアトルに本社を置くスタートアップ企業、ブリンクが製造した約60機のドローンはウクライナで捜索や救助のほか、建物内のロシア人の偵察などに使われている。ただ、ビジネスで戦争と関わることについて、同社のブレーク・レズニックCEOは「これは一般的に米国のドローン企業にとって大きなチャンスなのだろうか?」とし、「自分にはわからない」と述べた。
〇国としてやらないわけにはいかない
中国のDJIはウクライナ軍にとって頼りになるドローンブランドとなっている。DJIの立場は、戦争でのドローン使用を制限しようとしているものの、購入後のドローンの使用方法はコントロールできないというものだ。声明では「DJIは世界のどこであれ危害を加えるために自社製品が使用されることを心から遺憾に思い、非難する」としている。
米国はDJIを中国の軍事関連企業であり中国政府の監視ツールであると主張しているが、DJIはこれを否定している。米国防総省は米軍でのDJI製ドローンの使用を禁止しており、議会は米国内でDJIの新製品を使用することを禁じようとしている。
DJIは声明で、米議会による規制案は政治的な動機によるものであり、競争を排除しようとする米ドローン企業のロビー活動に後押しされているとの見解を示した。
米ドローンメーカーが苦戦しているのは、米政府の中国に対する政策対応の結果でもあると、業界幹部や元国防当局者は指摘する。ドローンメーカーに対して国防総省は中国製部品の使用禁止を含む厳しい要件を課しているため、小型ドローンの製造は高コストで困難になりがちだという。
国防総省の報道官は、ドローンが安全なサプライチェーン(供給網)を確保し、軍の基準を満たしていることが重要だと強調した。
国防総省がスタートアップ企業による米軍へのドローン販売を支援するために2020年に立ち上げたプログラムでは、ドローンメーカーが政府の承認なしにソフトウエアをアップデートすることができない。この要件があるために、米国の規制に従って製造されたドローンは新たなタイプのサイバー攻撃や電子戦に対して脆弱(ぜいじゃく)になる可能性がある。
スカイディオなどドローン関連のスタートアップ企業を対象とする同プログラムはシリコンバレーに拠点を置く同省出先機関の国防イノベーションユニット(DIU)が運営する。DIUの報道官はドローンのソフトウエア変更はセキュリティーの観点から精査されなければならないとの認識を示した。ソフトウエア変更を承認するプロセスの時間短縮に向け改善を試みているという。
スカイディオのブライCEOよると、同社の従業員がフィードバックを得るためにウクライナに戻った回数は17回に上る。新たなドローンを作る上では、戦場の現実から乖離(かいり)することもある米国防総省の要件よりも、ウクライナの軍事的ニーズや公安機関などのフィードバックを重視しているという。
ウクライナは「スカイディオX10」数千機の供与を求めている。この新型機は電波妨害に遭うとすぐに自力で周波数を切り替えることができる無線機を備えている。ナビゲーション機能も向上し、GPSなしで高高度を飛行できるという。
ブライCEOは「ウクライナの戦場でX10を大きく成功させることは、スカイディオにとって、そして米国のドローン業界全体にとって非常に重要なことだ」とブライ氏は語った。 「別のやり方はない。国として、これをやらないわけにはいかない」