ウクライナ軍、砲弾発射数3倍に回復 | すずくるのお国のまもり

すずくるのお国のまもり

お国の周りでは陸や海や空のみならず、宇宙やサイバー空間で軍事的動きが繰り広げられています。私たちが平和で豊かな暮らしを送るために政治や経済を知るのと同じように「軍事」について理解を深めることは大切なことです。ブログではそんな「軍事」の動きを追跡します。

◎砲弾発射数3倍に回復するウクライナ軍、ロシア軍の損耗加速へ戦術練る

 

 

 チェコ国防省の国防政策・戦略部門を統括するヤン・イレシュは2月18日、ミュンヘン安全保障会議で「非西側諸国」で砲弾80万発の在庫を見つけたと明らかにし、聴衆を驚かせた。「非西側諸国」には韓国などが含まれる可能性がある。
 15億ドル(約2300億円)の財源を確保できれば、チェコがこれらの砲弾を購入し、砲弾の枯渇するウクライナに送ることができるとされていた。破滅的な事態につながりかねないウクライナ軍の砲弾不足は、米議会のロシアに融和的な共和党議員たちが昨年10月、米国によるウクライナへの追加援助を妨害し始めたことに起因する。
 ミュンヘンでの会議から3週間後の3月8日、チェコのペトル・パベル大統領は、砲弾調達の財源を18カ国からの資金拠出で確保したと発表した。あらためて指摘しておけば、18カ国に米国は含まれない。
 朗報はさらに続いた。チェコ当局が先に示唆し、今週、米紙ウォールストリート・ジャーナルが報道で裏づけしたとおり、チェコは砲弾を追加で70万発発見した。18億ドル(約2700億円)とされる調達資金についても、支援諸国が提供を申し出ている。
 ウクライナ軍の幹部らはすでに、これらの砲弾をどう配分・配備するか計画を練っている。その1人である著名な砲兵将校、コールサイン「アーティ・グリーン」は、ウクライナ軍の砲兵は新たに届く砲弾を用いて、ロシア軍が北朝鮮から供与されている砲弾で達成する以上の戦果をあげると見込んでいる。ロシアが北朝鮮から調達している砲弾の数は、ウクライナが今回、チェコのイニシアチブで入手する分よりも多いとみられるにもにもかかわらず、だ。
「わたしたちは大砲を(ロシア側)より効果的に運用できる」とグリーンは最近のインタビューで語っている。グリーンによれば、ウクライナ側の榴弾砲が狙いすまして発射する砲弾1発あたりのロシア兵殺害数は、ロシア側が無差別に発射する砲弾1発あたりのウクライナ兵殺害数よりも多いという。
 チェコ主導の砲弾確保の取り組みによる効果は、ロシアがウクライナで拡大して25カ月たつ戦争のおよそ1000kmにおよぶ戦線で早くも表れ始めている。2月、ウクライナ軍の砲弾不足が最も深刻だった時期には、ウクライナ軍の砲兵部隊が1日に発射する砲弾数はわずか2000発ほどと、ロシア側の5分の1まで減っていた。

 ウクライナ東部アウジーウカの守備隊が2月中旬、ついに撤退に追い込まれたのも、こうした砲弾発射数の差が一因だった。アウジーウカ制圧はこの冬、ロシアにとって戦場で唯一の大きな勝利になった。
 だが、ここへきて砲弾発射数の差は縮小しつつある。ウクライナ軍は戦線全体で防御線を維持しつつ、攻撃してくるロシア軍部隊に対して持ちこたえられないほど大きな損害を与えている。ロシア軍は最近、1日に人員を1000人、装甲車両を数十両失うことも珍しくない。
 チェコが手配した砲弾の第1弾がウクライナに到着するのは6月になる見通しと報じられているが、ウクライナ軍の砲兵たちは新たな砲弾が近く届くと知って、緊急用に残していた最後の砲弾の備蓄に手をつけるのを以前よりもためらわなくなっているようだ。
 ウクライナの高官の口から、久しく消えていた「攻勢」という言葉が再び聞かれるようになったのも、当面の砲弾確保のメドがたったことと無関係ではないだろう。
 もっとも、ウクライナが年内に、大規模な攻勢をかけられるほどの新たな兵力を動員できるとは考えにくい。それにはおそらく数十万人規模の新兵が必要になる。それでも、攻勢への言及は、米国の援助が共和党によってなお阻まれながらも、ウクライナ軍の砲弾危機がひとまず終息しつつあること、また、ウクライナ首脳部のムードも改善しつつあることを示唆するものと言えそうだ。
 欧州連合(EU)は昨年3月、ウクライナに向こう1年で砲弾100万発を供与する方針を示したが、実際の供与は遅れてきた。とはいえ100万発の残り分も、近いうちに順次ウクライナに届くはずだ。また米国のジョー・バイデン政権も先週、以前に承認していたウクライナ援助向け契約を見直して3億ドル(約450億円)を捻出し、砲弾を含む小規模な対ウクライナ追加支援に充当した。他方、ウクライナは欧州の一部支援国と2国間取引で少量ながら砲弾を調達しているほか、国内の工場でも砲弾をいくらか生産している。
 すべて合わせると、ウクライナは今年、砲弾を200万発超確保できる可能性がある。これは年末まで、毎日少なくとも6000発発射できる数だ。
 かなりの数だが、ロシアが今年確保できそうな砲弾数に比べれば見劣りする。ロシアは国内の工場で砲弾を年間200万発ほど生産している。そのうえ、北朝鮮からも大量の砲弾を調達している。2023年には北朝鮮からたぶん200万発ほどの砲弾を受け取り、今年さらに100万発かそこら入手する可能性がある。

 北朝鮮製の砲弾は不発弾も多いが、その分を差し引いてもロシア軍には1日に1万発発射できるほどの砲弾の在庫がある。ウクライナ軍が今年、ピーク時に発射できると見込まれる砲弾数よりもさらに数千発多い。
 それでも、ウクライナ軍将校のグリーンは心配していない。ウクライナ軍の砲兵のほうが「より創造的で賢い」と考えるからだ。彼がどのようなことを念頭に置いて言っているのかは明らかだ。
 昨年末、ウクライナ軍の砲弾危機がいよいよ深刻になってくると、ウクライナ国内に何百とある小規模な工房のネットワークはFPV(1人称視点)ドローンの生産を拡大した。重量1kg程度のこれらのドローンは500gほどの爆発物を搭載して、最長で3kmかそこらの距離を飛行できる。
 これらの工房は現在、ドローンを月に5万機超生産している。おそらく、ロシア側の実戦で有効なドローンの生産数を大きく凌駕しているとみられる。ウクライナ政府は今年、FPVドローン100万機の生産を目標に掲げている。
 もちろんFPVドローンは、10kg超の炸薬を装填して25kmほど先まで届く重量45kgほどの砲弾の直接の代わりにはならない。それでも従来の砲弾を補うことはでき、ウクライナ軍の砲弾数での不利な状況を緩和するのに役立つ。
 ウクライナ軍のよく知られた戦術の1つは、ロシア軍の密集した突撃部隊に狙いすました集中砲撃を加え、兵士や車両を散開させるというものだ。たとえこの砲撃自体では生き残っても、ばらばらになり、ジャマー(電波妨害装置)や防空装備にも守られなくなった兵士や車両は、FPVドローンの格好の標的になる。
 ウクライナ軍の砲兵部隊は、以前はロシア軍の1個突撃部隊を撃破するのに砲弾を10発程度発射する必要があったとみられるが、現在はドローン部隊と連携して近くのFPVドローンにとどめを刺してもらうことで、わずか5発でそうできるようになっている。
 エストニア国防省は先ごろ、ロシア軍の攻勢能力をなくすには、ウクライナ軍は2024年にロシア軍の人員10万人を死亡させるか重傷を負わせる必要があると試算している。ウクライナ軍が幸運にも、主にチェコを通じて入手できることになった200万発かそこらの砲弾は、その実現に大きく寄与するに違いない。