ウクライナの大型機キラー「S-200」はどう復活したか | すずくるのお国のまもり

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◎ロシア早期警戒機を撃墜、ウクライナの大型機キラー「S-200」はどう復活したか

 

 

 ウクライナメディアのウクラインスカ・プラウダによれば、23日にあったロシア空軍の貴重なA-50早期警戒管制機の撃墜に使われたのは、多くの人が想定していた米国製パトリオット地対空ミサイルシステムではなかった。
 ウクライナ国防省情報総局の情報として同メディアが報じているところでは、使われたのは旧ソ連時代に開発されたS-200地対空ミサイルシステムだった。
 いまにして思えば、A-50を撃墜したのがパトリオット以外なのは明らかだった。攻撃を受けたとき、この鈍重なレーダー機はウクライナ南部の前線から200kmほど離れた辺りを飛んでいた。だが、パトリオットの射程はせいぜい145km程度しかない。これに対してS-200の射程は240km超ある。
 ソ連空軍がかつてウクライナに配備していた古い16基のS-200のうち、一部をウクライナ軍が再就役させていたことは知られていた。ウクライナ軍はロシア側の支配領域やロシア国内の地上目標に対してS-200からミサイルを発射してきたからだ。
 先週まで知られていなかったのは、ウクライナ軍が空中目標に対してもS-200からミサイルを発射していたことだ。
 これは納得できる話だ。確かにS-200は世界で最も精密な防空システムというわけではない。パトリオットより精度は劣る。しかし、S-200には精度の欠点を補えるほどの圧倒的な威力があるのだ。
 米国防総省の国防契約管理局(DCMA)の品質監査官を務めたトレント・テレンコは、ウクライナ軍がS-200用に使っているとされる重量8tの5V28ミサイルについて「とても重くて広々としたシーカー(目標探知・追尾装置)スペースを備えた、バカでかいミサイル」と評している。5V28は重量220kgほどの巨大な弾頭を搭載する。
 S-200は1960年代初めとりわけ米空軍の重爆撃機の迎撃を念頭にソ連によって開発された。ウクライナ軍は、相対的に扱いにくい(重くてかさばり、輸送が難しい)ことや改修コストもかさむことから、この“恐竜ミサイル”を10年あまり前に退役させていた。
 ただ、改修は引き続き検討されていた。ロシアによる全面侵攻を受ける前、ウクライナ政府は保管中のS-200について、より小型のS-125地対空ミサイルシステム用にウクライナの産業界が開発したシーカーに換装して、一部を再就役させることを検討していた。
 地対地攻撃用にウクライナ軍で再び使われるようになったS-200の命中精度がまずまず高いのを踏まえると、ウクライナの技術者たちが5V28にS-125用の新しいシーカーか、他のシーカーを搭載した可能性は十分ある。もっとも、これらのシーカーが地対空攻撃でもうまく機能するのかについては議論の余地がある。
 いずれにせよ今回の撃墜は、速度の遅い大型機の迎撃用にソ連で開発された代表的なミサイルが、その本領を発揮した格好になった。A-50は速度の遅い大型機という特徴がよく当てはまる機体だ。
 大きな問題は、ウクライナに5V28がどれくらい残っているかだ。S-200を2023年ごろにいったん退役させた時点では、ウクライナ空軍はS-200を数百発ないし1000発保有していたかもしれない。
 だが、化学物質が装填された大型ミサイルは永遠に使用できるものではない。ウクライナは、ポーランドやブルガリアなど、S-200を引き続き運用している支援国から新たな5V28を取得した可能性もある。