橋頭堡のウクライナ部隊が抗戦 | すずくるのお国のまもり

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お国の周りでは陸や海や空のみならず、宇宙やサイバー空間で軍事的動きが繰り広げられています。私たちが平和で豊かな暮らしを送るために政治や経済を知るのと同じように「軍事」について理解を深めることは大切なことです。ブログではそんな「軍事」の動きを追跡します。

◎橋頭堡のウクライナ部隊がドローンで国旗掲揚 危険極まりない戦場で抗戦続ける

 

 

 2年わたる激しい戦いを経て、ウクライナ軍は兵力面でも火力面でもロシア軍に対して劣勢になっている。各旅団は経験のある歩兵が絶望的なまでに不足し、弾薬も枯渇している。
 それでも、ウクライナ軍は後退していない。東部ドネツク州アウジーイウカのように撤退すべきかもしれない戦域でさえ、引き下がっていない。それどころか、ひとつの戦域では、ロシアがウクライナで拡大した戦争のおよそ1000kmにおよぶ前線のなかでも、とくに困難な区域であるにもかかわらず、逆に前進を遂げている。
 もっとも、それは大きな前進ではない。また、主にドローン(無人機)による戦果なのも確かだ。
 先週、ウクライナ海兵隊第36独立海兵旅団のドローン操縦士は、南部ヘルソン州を流れるドニプロ川左岸(東岸)沿いの集落クリンキの外れに、クワッドコプター(回転翼が4つのドローン)でウクライナ国旗を立てた。第36旅団などの海兵隊部隊は、この集落に幅1.6kmほどの浅い橋頭堡(きょうとうほ)を築き、保持している。旗を立てたのは、砲弾で穴だらけになった集落東端辺りだ。
 橋頭堡の海兵隊員は1週間前、西へ数百m前進していた。これは数日前にウクライナのドローンチームが実施した作戦で、ロシア側の最も危険なドローン操縦士をクリンキの隠れ家で殺害したことで可能になった。
 国旗の掲揚にドローンを使わなくてはならなかったことは、現地の状況を物語る。クリンキの樹木の生えていない場所を移動するのは、ウクライナ側、ロシア側どちらの部隊にとっても極めて危険なのだ。実際、ロシア軍の第26自動車化狙撃連隊は先月、現在旗が翻っている場所から見える距離の場所で、戦車1両と他の戦闘車両1両、2つか3つの歩兵チームを失っている。
 また、ウクライナ側が純粋に心理的な作戦のためにドローンを飛ばし、ロシア側がそれを阻めなかったことも、現況をよく表している。ウクライナの海兵隊員は4カ月ほど前にボートで広大なドニプロ川を渡り始め、クリンキに足掛かりを得て、今もそこに踏みとどまっている。コールサイン「マジャル」で知られる有名なドローン操縦士をはじめ、熟練のドローン操縦士たちによる援護を受けながら、橋頭堡に張り付いている。

 とはいえ、橋頭堡の海兵隊員や、補給するボートの乗員らにとって、状況が危険極まりないのも事実だ。クリンキ以外、ドニプロ川左岸の全域を支配しているロシア軍は、これまでにウクライナのボートを何十隻も沈め、搭乗者を大勢死亡させてきた。ウクライナ側の陣地に対しても、爆撃機から滑空爆弾で容赦のない攻撃を加えた。爆撃は昨年12月、ロシア空軍のスホーイSu-34戦闘爆撃機3機が一気に撃墜されたことで、少なくとも一時的には鈍化している。
 クリンキにいる海兵隊員の数は200〜300人程度かもしれない。いずれにせよ、彼らははるかに大規模なロシアの軍勢を相手にしている。ロシア側の兵力は1個空挺師団、1個自動車化師団、2個海軍歩兵旅団の部隊からなる総勢数万人だ。「われわれの防衛者たちはそこ(クリンキ)で非常に大きな圧力にさらされている」と、「Kriegsforscher」というハンドルネームでソーシャルメディアに投稿しているウクライナ軍のドローン操縦士は説明している。
 それでも、海兵隊部隊ははるかに規模の大きな敵軍に対して持ちこたえているばかりか、少しずつではあるものの橋頭堡を拡大してさえいる。これは彼らの勇敢さと強靭さ、そしてウクライナ側が小型ドローンの運用と電子戦で優位にあることを証明するものである。
 クリンキ周辺の上空で活動するウクライナ側のドローンには、爆薬を積んだ重量1kgほどのFPV(一人称視点)ドローンや、より大型で、1度の任務で合計15kg弱の複数の擲弾(てきだん)を投下できる再利用可能なヘキサコプター(回転翼が6つのドローン)がある。「バーバ・ヤハ」と呼ばれる後者のドローンは夜間に徘徊(はいかい)している。
 これらのドローンによって、ロシア軍がクリンキの橋頭堡に近づくのは昼夜を問わずほぼ不可能になっている。また、ロシア側のドローンはウクライナ側のジャミング(電波妨害)を克服するのに苦戦している。
 ウクライナ軍は左岸へ補給物資を送るのにもドローンを用いている。ただし、1機のドローンに積載できる量は1kg前後と少ない。Kriegsforscherによると、クリンキに向けて飛ばしているドローンの大半は兵站(へいたん)のためだという。

 ウクライナ軍の南部作戦コマンド(統合司令部)が、クリンキで陣地を拡大し、強固にしつつあるというのは驚くべきことだ。 一方、東部作戦コマンドは、アウジーイウカがロシア側に包囲されるのを避けるため、守備隊の主力である第110独立機械化旅団に撤退を命じようとしているのかもしれない。昨年10月にアウジーイウカ方面の攻撃を開始し、多大な犠牲を出しながらじわじわと前進してきたロシアの野戦軍は、アウジーイウカ市内に侵入するようになっている。
 いずれにせよ、両コマンドは、一部の大隊では通常200人いるはずの歩兵が40人まで減っているにもかかわらず、戦闘を継続している。これもまた驚くべきことだ。しかも、各旅団は弾薬もどんどん減るという逆境にありながらなお戦い続けている。
 弾薬の枯渇は回避できる危機だった。以前はウクライナにとって最も信頼できる支援国のひとつだった米国は、ロシア寄りの共和党議員らが610億ドル(約9兆1000億円)規模の新たな対ウクライナ支援予算案の採決を拒んだために、昨年末にウクライナへの弾薬の供給を停止した。
 兵員不足も弾薬枯渇と同じくらいウクライナの戦争努力にとって深刻な問題だが、こちらはもう少し複雑だ。ウクライナの調査分析グループ、フロンテリジェンス・インサイトは「ウクライナがロシア軍に大きな人的損失を与えているのは確かだが、両国の人口動態面の格差に留意する必要がある」と指摘する。
 ロシアの人口は1億4300万人。対するウクライナは4400万人。だが、実際の格差はこれらの数字から想像される以上に悪い。まず、ウクライナでは現在、動員できる最低年齢は27歳だが、ロシアでは18歳から動員できるという違いがある。
 さらに「2014〜21年に多くの人がウクライナを離れ、(ロシアによる全面)侵攻時点で国外に住んでいたことが問題を悪化させている」とフロンテリジェンス・インサイトは説明している。「そのうえ2022年の侵攻後、数百万人が出国した」
 ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、徴兵対象者を拡大するために動員法の改正を検討している。これは不人気な措置になるかもしれない。だが、ウクライナ軍が今後、ドローンによって小さな集落の一角の解放を宣言する以上のことをしていくには必要な措置でもあるだろう。