アウジーイウカ陥落は「時間の問題」 | すずくるのお国のまもり

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お国の周りでは陸や海や空のみならず、宇宙やサイバー空間で軍事的動きが繰り広げられています。私たちが平和で豊かな暮らしを送るために政治や経済を知るのと同じように「軍事」について理解を深めることは大切なことです。ブログではそんな「軍事」の動きを追跡します。

◎アウジーイウカ陥落は「時間の問題」 分析グループ、バフムートの轍踏むなと警告

 

 

 ロシアによる最初のウクライナ侵攻以来、ウクライナ軍は10年にわたってアウジーイウカで持ちこたえてきた。アウジーイウカは、現在はロシアの占領下にある州都ドネツク市から北西へ8kmほどに位置し、ロシアによるウクライナ全面侵攻前には3万人あまりが暮らしていた都市だ。
 だが、ウクライナ軍の守備隊は撤退すべき時が来たのかもしれない。ウクライナの調査分析グループ、フロンテリジェンス・インサイトは最新のリポートで、アウジーイウカは「陥落するかどうかではなく、いつ陥落するかの問題」になりつつあると評価している。
 廃墟と化しているアウジーイウカに民間人はごく少数しか残っておらず、その人たちやペットも救助隊が市外に避難させる作業を進めている。だからといって、ウクライナ側はロシアによる2022年2月の全面侵攻後、23カ月にわたりアウジーイウカを守備してきた第110独立機械化旅団を撤収させても、失うものがないということではない。
 まず、ロシア側がアウジーイウカを攻め落とす、あるいはウクライナ側がアウジーイウカを守り抜くことには、プロパガンダ上の価値がある。ロシア側がアウジーイウカを取れば、来月に予定される見せかけの選挙での再選を前に、ウラジーミル・プーチン大統領は戦果として誇れるに違いない。
 それだけではない。アウジーイウカには軍事上の価値もある。この戦争に関するロシアの主要な目的の1つは、アウジーイウカやドネツク市があるウクライナ東部ドネツク州の全域を支配し、ウクライナ側による州の解放を恒久的に阻むことにある。だからロシア軍はアウジーイウカのような州内の抵抗拠点を除去し、陣地や兵站を固めようとしているのだ。
 ウクライナ側はアウジーイウカを保持することで、ドネツク州内を走る鉄道路線を脅かし、ロシア側にウクライナ東部各地への人員や装備の輸送で、効率の悪い別の手段の使用を強いることが可能だった。
 だが、2000人規模だった第110旅団の生き残った兵士がアウジーイウカを離れ、数km西にある強化された陣地に退却すれば、ウクライナ側がドネツク州を貫くロシア軍の補給線を脅かし続けるのは格段に難しくなる。そしてこれは、ロシア側がウクライナ東部の占領を固めることにつながる。
 それでも、時が訪れたのかもしれない。第110旅団は4カ月にわたって、休むことなく勇敢に戦い続け、4万人の兵士を投入したロシア軍に1m前進するごとに大量の血を流せてきた。増援に駆けつけた第47独立機械化旅団と第53独立機械化旅団が支援し、ドローン(無人機)や地雷、大砲、さらに第47旅団の場合はM2ブラッドレー歩兵戦闘車の傑出した働きで市の南北両翼を防衛してきた。

 ロシア軍は昨年10月にアウジーイウカに対する直近の作戦を発動して以来、数万人にのぼる死者・重傷者を出し、数百両の戦闘車両を失ったとみられる。ロシア側の損耗は一時、ウクライナ側の7倍ないし10倍に達した可能性がある。
 だが、それはウクライナ軍の補給線がロシア側に脅かされていなかった頃の話だ。ロシア側はその後、アウジーイウカの南北両翼でじわじわと前進し、1月末には両翼から市内に直接侵入するようになった。
 ロシア軍部隊は現在、市内につながる主要道路から数百mの地点に入っている。これは手持ちの兵器でウクライナ側の補給トラックを攻撃できる距離だ。
 アウジーイウカ戦役は攻防の転換点を迎えている。ただ、こうした事態はウクライナ側にとって初めての経験ではない。昨年5月まで、ドネツク州バフムートのウクライナ軍守備隊は、アウジーイウカと似たような消耗戦を続けて、廃墟化したこの都市で何カ月も持ちこたえた。ロシア側がおびただしい犠牲と引き換えに前進し、市の補給線が危機的な状況になるまでに、ウクライナ側は味方の10倍の戦死者を敵に出させた。
 しかし、弾薬が不足してくるとバフムートの守備隊は優位性を失った。フロンテリジェンス・インサイトは「ロシア軍がウクライナ側の両翼を制圧し、補給ルートを遮断すると、(ロシア側とウクライナ側の)損耗率はほぼ同じになった」と当時を振り返って警告している。
 ウクライナ軍の指揮官たちは、バフムートからの撤退を遅らせすぎた結果、ロシア側よりかなり少なく抑えていた損耗を増やし、それによってウクライナ国民からの信用を失った。
 フロンテリジェンス・インサイトによれば、指揮官たちがバフムート戦役の最終盤に兵士らの命を無駄に失わせたことは、今も国内に影を落としている。「ウクライナ軍の一部将官の評判は地に落ち、無謀な正面攻撃をさせることで悪名高いロシア軍の将官と並べられるほどだ」という。
 その結果、ウクライナが3年目、さらに4年目の戦争努力を続けるために、数十万人を動員する計画に支障が出かねなくなっている。「国民の間では自発的に軍隊に参加しようとする熱意が薄らいできている」とフロンテリジェンス・インサイトは警鐘を鳴らす。
 アウジーイウカに対するロシア側の挟撃がさらに進む前に守備隊を撤退させれば、ウクライナ軍の指揮官たちは何百人の命を救えるだろうし、自分たちへの信用も保てるだろう。

 戦術的撤退は必ずしも、より大きな戦略的損失につながるものではない。適切な武器とそれと同じくらい重要な十分な弾薬があれば、ウクライナ側はアウジーイウカから撤退して数km西の陣地を固めたあとも、ドネツク州を通るロシア側の補給線をなお攻撃できるはずだ。
「状況の悪化に歯止めが利かなくなるのを回避するためには、西側からの時宜を得た援助がきわめて重要だ」とフロンテリジェンス・インサイトは強調している。より高性能な大砲やロケットランチャー、長距離飛行弾薬、それを発射する軍用機がもっとあれば、ウクライナ軍はアウジーイウカの廃墟をロシア軍に明け渡したあとでも、遠方からロシア軍の補給線を攻撃し、東部の状況を実際に改善していくことができる。
 問題はいうまでもなく、米議会のロシア寄りの共和党議員らが4カ月にわたり、610億ドル(約9兆1000億円)規模の対ウクライナ支援予算の採決を拒んでいることだ。これには多数の長距離火力兵器に充当される資金も含まれるはずだ。
 共和党議員らはその頑なな姿勢によって第110旅団の死活的に重要な弾薬を枯渇させ、アウジーイウカの陥落を助長した。彼らは同旅団の死亡した兵士たちを生き返らせることはできない。だが、アウジーイウカの防衛者たちを裏切ったせめてもの罪滅ぼしに、遅ればせながらも支援を承認して、ウクライナ軍が今後の戦いのために形勢を立て直すのを手助けすることはできる。