バイデン政権、ギリシャなど第3国経由でウクライナ支援 | すずくるのお国のまもり

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◎ウクライナ支援でバイデンが「奥の手」 ギリシャなどから三角スキームで武器送る

 

 

「三角取引」。この言葉をよく覚えておいてほしい。米国のジョー・バイデン大統領はこの方式によってウクライナに武器を届け始めている。
 最初はエクアドル。そして今、ギリシャとそれを進めている。
 三角取引とは要するに、突き出し方式で第三国に武器を融通するスキームだ。ある国が相手国に代金を支払うか武器を供与し、それによって相手国から第三国に武器を供与できるようにする。
 ウクライナへの武器支援で、この方式のパイオニアはドイツである。ドイツ語で「Ringtausch」(「循環取引」といった意味)と呼ばれるこのスキームを通じて、ドイツはウクライナに武器を送り出してきた。主だったものを挙げれば次のようなものがある。
・チェコ:ドイツはチェコにドイツ製レオパルト2戦車(14両)と工兵車両(1両)を提供し、チェコはウクライナに旧ソ連製T-72戦車(数十両の可能性)を譲渡
・ギリシャ:ドイツはギリシャにドイツ製マルダー歩兵戦闘車(40両)を提供し、ギリシャはウクライナに旧ソ連製BMP-1歩兵戦闘車(40両)を譲渡
・スロバキア:ドイツはスロバキアにドイツ製レオパルト2A4戦車(15両)を提供し、スロバキアはウクライナにBMP-1(40両)を譲渡
・スロベニア:ドイツはスロベニアに軍用大型トラック(45台)を提供し、スロベニアはウクライナにスロベニア製M-55S戦車(28両)を譲渡
 古い武器の在庫が膨らんでいる米国は、いずれドイツを抜いて三角取引の最大のブローカーになる可能性がある。それには十分すぎるほどの理由がある。米議会でこの4カ月、極端派のマイク・ジョンソン下院議長率いるロシア寄りの一部共和党議員が、ウクライナの戦争努力を支援する米政府の610億ドル(約8兆9000億円)の新たな支援予算を妨害し続けているからだ。
 バイデンと部下のアントニー・ブリンケン国務長官は知恵を絞った。そして、おそらくドイツを手本に、議会の制約を受けない、大統領のもつ広範な軍事援助に関する権限を行使して、ウクライナ以外の国に武器を供与し、その国からウクライナに武器を譲渡してもらう取り組みに乗り出した。
 1月上旬、エクアドルのダニエル・ノボア大統領は、米国から2億ドル(約290億円)相当の新しい武器を受け取る代わりに「スクラップ」兵器を米国に譲渡するとラジオ局のインタビューで明らかにした。

 そして、この「スクラップ」は米国からウクライナに譲渡される。一部は1月下旬、アントノフAn-124大型輸送機でエクアドルから国外に運ばれたようだ。
 エクアドルがウクライナに間接的に供与した武器が何だったのか、推測することはできる。9K33オサー地対空ミサイルシステムだ。レーダーと、射程およそ10kmのミサイルの4連装発射機を組み合わせた旧ソ連製防空車両で、エクアドルは何年か前、当のウクライナから10基取得していた。
 オサーは世界最高峰の防空兵器というわけではないものの、シンプルで信頼性が高い。ウクライナ軍の第1129対空ミサイル連隊にも、近代的な英国製ストーマー装甲車と並んでオサーが配備されている。
 第1129連隊でオサーとストーマーは互いに補完する関係にあるという。同連隊の兵士は「オサーはシンプルで、目標をより早く見つけることができる」半面、アクティブレーダーを使うため「探知されるのもより早い」と語っている。つまり、応射にさらされる危険があるということだ。
 ウクライナは2022年2月にロシアが戦争を拡大した時点で、オサーを100基程度保有していた可能性があるが、OSINT(オープンソース・インテリジェンス)グループのOryx(オリックス)によると、うち少なくとも16基をロシア軍による攻撃で失っている。エクアドルからの譲渡に先立って、ウクライナはポーランドから余剰分のオサーを入手している。
 エクアドルからの返還分によって、ウクライナ軍のオサーは戦争拡大前の数に回復するかもしれない。とはいえ、ミサイルの発射機と合わせてミサイルがセットで供与されるのだとしたら、そちらのほうが発射機本体以上に重要だろう。ウクライナ軍はロシア軍のドローン(無人機)や巡航ミサイル、ヘリコプター、その他の軍用機を迎撃するために、短距離ミサイルを何千発と費やしている。
 エクアドルに続いて、ホワイトハウスはより規模の大きい三角取引をギリシャと始めた。
 ギリシャのカティメリニ紙やその他のメディアによれば、バイデン政権はギリシャに、マリンプロテクター級哨戒艇3隻やC-130H輸送機2機、P-3哨戒機用のアリソンT56ターボプロップエンジン10基、M2ブラッドレー歩兵戦闘車60両、複数の輸送用トラックを供与した。

 米政府はこれらと引き換えに、ギリシャがウクライナにさらに多くの武器を渡すことを求めている。「わが国は、ギリシャがウクライナに譲渡または売却できる防衛装備に引き続き関心をもっている」とブリンケンは表明している。ギリシャ政府はすでに、ウクライナに譲渡する古い武器を手当てしたとも伝えられる。
 エクアドルの場合と同様に、ギリシャから三角取引でウクライナに送られる武器にも防空装備が含まれる可能性がある。旧ソ連で開発されたS-300地対空ミサイルシステムや9K330トール短距離地対空ミサイル、オサー、米国製ホーク中距離地対空ミサイルシステムだ。
 三角スキームを通じた米国からの間接的な対ウクライナ支援が必要なのは、昨年10月以降、米議会共和党が、ウクライナに対する直接の追加軍事援助はおそらく決して承認しないという姿勢を明確にしたからだ。
 共和党議員は、ドナルド・トランプ前大統領がウクライナに向ける個人的な憎悪と、権威主義のロシアに寄せるやはり個人的な好感に歩調を合わせている。
 これらロシア寄りの議員たちは法案は妨害できても、米国がパートナー国向けの武器に資金を融通したり(編集注:対外軍事融資=FMF=と呼ばれるプログラムのこと)、米国の軍事ニーズを超えて余剰となったと大統領に認定された武器を譲渡したりできる、バイデンの大統領としての法的権限の行使は阻めない。
 後者の余剰防衛装備品(EDA)に関する権限はとくに強力である。法律ではEDAの枠組みで移転できる武器の上限額は年間5億ドル(約730億円)に制限されているが、大統領が余剰武器に割り当てる金銭的な価値に関する規定はない。その価値はゼロ、つまり無償供与になる場合もあるのだ。受け取る側の国にとって主な問題は、輸送費については米国が負担することが認められていない点だ。
 ウクライナ支援法案のメリットは、米国が製造できる、もしくは他国から購入できるほぼすべての武器を、ウクライナに供与できる基金を創設できる点ところにある。
 バイデンが既存の融資権限とりわけEDAの権限に頼る場合、選択肢は少なくなる。今のところバイデンは、ウクライナ軍が使い慣れている旧ソ連式の武器をもっと入手できるように、三角取引向けに資金を融通したり、余剰武器を譲渡したりすることに最も熱心に取り組んでいる。
 とはいえ、共和党が頑なな態度を崩さない限り、バイデンはさらに創意を発揮するだろう。ウクライナ、もしくは別のどこかの国が輸送費を負担すれば、バイデンはEDAをウクライナに直接譲渡することすらできるのだ。