◎【日本一詳しい北朝鮮分析】プーチン訪朝、準同盟へと蠢く「ロ朝密約」をスッパ抜く!
平井 久志(元共同通信ソウル支局長)

 

 

 北朝鮮の崔善姫(チェ・ソンヒ)外相はロシアのセルゲイ・V・ラブロフ外相の招きで1月15日から17日までロシアを公式訪問した。崔善姫外相は、事実上、金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長(党総書記)の特使とみられた。
 北朝鮮の外相補佐室は1月20日付「公報」を同21日に発表し、ウラジーミル・プーチン大統領が崔善姫外相との会談で、「早いうちに」北朝鮮を訪問する用意があると語ったとした。これに対して、北朝鮮は「プーチン大統領の朝鮮訪問を熱烈に歓迎し、朝鮮人民の最も親しい友人を最上最大の誠意をもって迎える準備ができている」とした。
 プーチン大統領は3月に大統領選挙を控えているため、選挙後の早い時期に訪朝する可能性が指摘されている。ロシア最高指導者の訪朝は、プーチン大統領が2000年7月に訪朝し金正日(キム・ジョンイル)総書記と会談して以来、24年ぶりの訪朝になる。金正恩時代では初めての訪朝であり、ロ朝条約の改正を含め、ロ朝関係は新たな段階に入る可能性がある。崔善姫外相の訪ロとロ朝関係の現状を検証した。
◎ロ朝外相「共同行動を積極化」
 北朝鮮の朝鮮中央通信は1月14日、崔善姫外相がラブロフ外相の招きで同15日から17日までロシアを訪問すると報じた。崔善姫外相は14日に平壌を出発し、同日中にモスクワに到着した。崔善姫外相は、公式日程の前日からモスクワ入りし、意気込みを見せつけた。
 朝鮮中央通信によると、崔善姫外相を団長とする北朝鮮政府代表団は15日には無名戦士の墓を訪問し献花、黙祷を捧げ、ザリャジエ公園など数カ所を訪問した。
 崔善姫外相は16日、ラブロフ外相と外相会談を行い、これにはロシア担当の任天一(ニム・チョンイル)外務次官らが同席した。趙春龍(チョ・チュンリョン)党政治局員(党軍需工業部長)も同席したとみられた。
 ラブロフ外相は会談冒頭、北朝鮮がロシアのウクライナ侵攻を支持するとしていることを「高く評価する」と謝意を示した。朝鮮半島情勢については、米国やその同盟国が北朝鮮の安全保障を脅かしていると、日米韓側を批判した上で「北東アジアの平和と安定のため、正常化に向け前提条件なしの協議をすべきだ」と対話の必要性を強調した。自国のウクライナ侵攻という戦争状況を正当化しながらも、朝鮮半島では戦争ではなく対話が必要だという異なった立場を示したことは興味深い。
 これに対し、崔善姫外相は昨年9月の金正恩国務委員長とプーチン大統領のロ朝首脳会談を「歴史的」と高く評価し、金正恩国務委員長がプーチン大統領の訪朝を招請したことに言及した。その上で、今年がロ朝経済文化協力協定を締結して75周年の年であり、今年は経済や文化など各分野において、相互交流と協力を積極的に推進するために両国の対外政策機関間の戦略戦術的協力を強化することについて具体的な討議をしたとした。
 さらに朝鮮中央通信は、外相会談で「朝鮮半島と北東アジア地域の情勢をはじめ様々な地域、国際問題で、共同行動を積極化するための深い意見交換を行い、見解一致を見た」と報じ、朝鮮半島だけでなく様々な国際問題で共闘を深めていくことで一致したとした。

〇プーチン大統領満面の笑み、「機微な分野」を含め、関係発展目指す
 外相会談を終えたラブロフ外相と崔善姫外相は会談結果を報告するという形式で、崔善姫外相がプーチン外相を表明訪問した。
 プーチン大統領は満面の笑みをたたえて崔善姫外相を迎え入れ、10秒以上も握手をし、崔善姫外相を歓待した。
 ペスコフ大統領報道官は、崔善姫外相の表敬訪問について、「朝鮮半島状況をはじめとする両国関係、そして最も差し迫った国際問題について議論した」とし、「2国間関係の発展」が示されたと評価した。その上で、北朝鮮は「重要パートナー」であり「機微な分野を含め、あらゆる分野で関係発展を目指す」と述べた。ペスコフ報道官の言及した「最も差し迫った国際問題」とはウクライナ戦争であり、「機微な分野」とは軍事分野と見られ、ロ朝両国が軍事分野を含めた関係強化を目指すことを確認したとみられた。国連決議は、北朝鮮との武器取り引きを禁じているため、ロ朝双方はこうした暗喩的表現で軍事協力を示唆すると同時に、その具体的な内容や規模を隠し、国際社会を威嚇したと見えた。
 北朝鮮の朝鮮中央通信は、この表敬訪問で「戦略的かつ伝統的な朝ロ友好関係の新たな全盛期を開き、共同の繁栄と発展を成し遂げようとする両国人民の強烈な念願に合致するように、全般的な双務関係の躍動的な発展を促し、地域と世界の平和と安定を保障するための共同歩調と相互協同を緊密にしようとする双方の立場が再確認された」と評価し、ロ朝関係の「新たな全盛期」を開くものとした。この朝鮮中央通信報道は、プーチン大統領の訪朝問題を協議したかどうかには言及しなかった。しかし、ロシアのペスコフ報道官は表敬訪問前に、プーチン大統領が適切な時期に訪朝するとの見通しを示していた。
 この表敬訪問には、ロシア側からはラブロフ外相、外交担当のウシャコフ大統領補佐官らが、北朝鮮側は政府代表団の趙春龍党政治局員(党軍需工業部長)、申紅哲(シン・ホンチョル)駐ロシア北朝鮮大使らが同席した。
〇エネルギー担当副首相と会談
 崔善姫外相は訪問最終日の17日はアレクサンドル・ノバク副首相と会談した。ロシア側からは運輸省次官も参加した。
 朝鮮中央通信は会談について「朝ロ親善協力関係が新しい戦略的な高さに上がったことに合わせて、貿易、経済など様々な分野での双務交流と協力事業を活性化し、拡大していくための実践的な問題が討議された」とした。もちろん、ノバク副首相との会談では経済や貿易の幅広い分野での協力強化が話合われたと見られるが、ノバク副首相はエネルギー担当であり、ロシアからの石油供給が中心的に話し合われた可能性がある。
 北朝鮮はウクライナ戦争と関連し、ロシアへ砲弾などを提供しているとみられるが、その対価として最も注目されるのが石油である。北朝鮮は2017年の国連制裁で、原油は年間400万バレル又は52.5万トンを上限に、石油精製品は年間50万バレルを上限とする制限を受けている。国際社会で、国連制裁を無視して北朝鮮に石油を提供できるのは、同じく経済制裁を受けているロシアだ。最近、ロシアとの船舶の頻繁な往来が確認されており、制裁破りの石油提供が活発化しているとみられる。

〇宇宙協力や衛星技術協力でも協議か?
 崔善姫外相のプーチン大統領への表敬訪問ではちょっとしたハプニングがあった。崔善姫外相がクレムリン宮で、プーチン大統領を待っている間に崔善姫外相の随行員が持っていた書類の表紙の一部が外国メディアのカメラに捉えられてしまった。
 崔善姫外相の日程は無名戦士の墓訪問、ロ朝外相会談、プーチン大統領表敬訪問、ノバク副首相との会談が報じられただけで、その他の日程は不明だった。
 随行員が持っていた書類の上段には「宇宙技術分野参観対象目録」とあり、その下に「宇宙ロケット研究所〈プログレス〉」、「ウォロネジュ機械工場」、「宇宙光学生産センター」などと記されていた。
 これは崔善姫外相の訪問先のリストではないかとみられた。プーチン大統領は昨年9月の金正恩国務委員長との首脳会談で、北朝鮮の軍事偵察衛星打ち上げへの支援を表明し、北朝鮮は昨年11月21日に軍事偵察衛星「万里鏡1号」の打ち上げに成功した。ロシアが何らかの技術支援をしたのではないかと見られている。
 韓国メディアによると、「プログレス」はロシア連邦宇宙局の系列会社でロケット開発や宇宙発車に関連した各種サービスを提供しているという。ロシアの「ソユーズ」シリーズや無人宇宙船「プログレス」などの開発にも関与したという。
「ウォロネジュ機械工場」はモスクワ南部にある工場とみられ、ロケットエンジンや精密部品を製造する国営企業だという。
 また、北朝鮮が打ち上げた「万里鏡1号」は打ち上げには成功したが、軍事偵察衛星として意味のある1メートル以下の解像度には達していないとみられている。このため、「宇宙光学生産センター」視察は、衛星に装着するカメラの解像度を高めるためのものではないかとの見方も出ている。
 崔善姫外相の訪ロには趙春龍党軍需工業部長も同行しており、軍事偵察衛星の機能向上など軍事分野での協力が具体的に進んでいる可能性がある。プーチン大統領との表敬訪問で、軍事偵察衛星に関する協力問題が話し合われた可能性も浮上している。書類を撮られた随行員が厳しい処分を受けないか気になる。

〇「最上最大の誠意をもって迎える準備」
 崔善姫外相を団長とする北朝鮮政府代表団はロシア公式訪問を終え、1月18日にモスクワを出発、同19日に平壌へ帰国した。公式訪問期間は15日から17日までとされたが、その期間をフルに活用し、翌日の18日に出発、19日に帰国という余裕を持った日程だった。
 北朝鮮は、プーチン大統領への表敬訪問をした翌日の17日に、この表敬訪問についてすでに報道していたにもかかわらず、同21日に、「外相補佐室」の「公報」として、あらためて崔善姫外相のロシア訪問を整理し、発表した。おそらく、帰国後に金正恩国務委員長に訪問結果を報告し、ロシア側との文案整理などをした上での発表とみられた。北朝鮮外務省に「外相補佐室」という組織があることも明らかになった。
 前述したように、17日の報道ではプーチン大統領の北朝鮮訪問について具体的な言及を避けたが、この「公報」では「プーチン大統領は、金正恩国務委員長が便利な時期に平壌を訪問するよう招いたことについて改めて深い謝意を表し、早いうちに朝鮮民主主義人民共和国を訪問する用意を表明した」と発表し、プーチン大統領が「早い時期の訪朝」の意向を表明したことを明らかにした。
 その上で「朝鮮民主主義人民共和国政府は、プーチン大統領の朝鮮訪問を熱烈に歓迎し、朝鮮人民の最も親しい友人を最上最大の誠意をもって迎える準備ができている」とし、プーチン大統領を大歓迎する用意が出来ていることを確認した。中国の習近平党総書記(国家主席)が2019年6月に訪朝した時に、平壌市民25万人が出迎えたが、プーチン大統領の訪朝が実現すれば、これと同レベル以上の歓迎となるだろう。
「両国関係を新たな法的基礎に引き上げる」の意味?
 さらに「公報」は崔善姫外相の訪ロで「朝ロ経済文化協力協定締結75周年に当たる今年に全ての分野における双務交流と協力を活性化することによって、朝ロ友好の新たな開花期を開くことに関する問題」を討議したとし、ロ朝関係が「新たな開花期」を迎えると予告した。
 また「朝鮮半島と北東アジアをはじめ複数の地域および国際問題に対する深みのある戦略的意思疎通を行い、見解の一致を遂げたし、朝ロ両国の核心利益を守り、自主と正義に基づく多極化した新しい国際秩序を樹立する上で戦略的協力と戦術的協同を一層強化する強い意志を披歴した」とした。「朝ロ両国の核心利益」を守りながら「新しい国際秩序を樹立する上」で「戦略的協力と戦術的協同を一層強化する」とは、北朝鮮がロシアのウクライナ侵攻を支持し、ロシアが北朝鮮の現在の強硬路線を支持することで、米欧に対抗する「新しい国際秩序」を樹立するために共闘を深めるということであろう。
 そして、この「公報」で最も注目されるのは「朝ロ両国の関係を戦略的な発展の方向で新たな法的基礎の上に引き上げ、全方位的に拡大し、発展させるための実践的問題の討議で一致した共感と満足した合意を遂げた」としたことだ。
 この「新たな法的基礎の上に引き上げ」とは何を意味するのだろうか?
 日本の植民地支配からの解放、北朝鮮の建国は旧ソ連の支援のもとに実現した。ソ連の支援のもとで帰国した金日成(キム・イルソン)は政権内のソ連派、延安派、国内共産主義派を排除し、満州パルチザン派勢力を中心とした権力をつくって行った。1950年から1953年の朝鮮戦争は朝鮮半島の分断を決定的なものにした。韓国で1961年に朴正熙(パク・チョンヒ)が「5・16クーデター」を起こし、軍事政権をつくると、金日成は1961年に、中国と「中朝友好協力相互援助条約」、旧ソ連と「ソ朝友好協力援助条約」をそれぞれ締結した。両条約ともどちらか一方が軍事的な侵攻を受けた場合は、一方が自動的に軍事介入できる内容を含む軍事同盟条約であった。

〇冷戦崩壊後のソ連
 しかし、冷戦が崩壊し、旧ソ連は1990年9月に韓国と国交を樹立し、北朝鮮は「ドルで売り買いする外交関係」と旧ソ連を非難した。その後、ロシアは2000年2月に、自動介入条項を外した「ロ朝友好善隣協力条約」を北朝鮮と締結した。もはやロ朝関係は軍事同盟関係ではなくなった。
 ロシアではその直後の2000年5月にプーチン政権が誕生した。プーチン大統領は同年7月に北朝鮮を初めて訪問し、金正日総書記と会談し、「ロ朝共同宣言」に署名した。金正日総書記は2001年7月26日から8月18日まで特別列車でロシアを訪問し、モスクワでプーチン大統領と会談し「ロ朝モスクワ宣言」に署名した。
 しかし、2002年以降は定期的な首脳会談はストップし、ロシアから北朝鮮への武器の提供も止まった。
 その後、北朝鮮が金正恩政権下で核実験を重ね、ミサイル開発を続けると、2017年には国連の北朝鮮への経済制裁で、中国やロシアも制裁に賛成した。北朝鮮は制裁に賛成した中国やロシアを裏切り者と非難し、関係は冷却化した。
 しかし、北朝鮮は2018年に韓国の平昌(ピョンチャン)冬季五輪への参加を皮切に、国際社会との対話に乗り出し、金正恩党総書記は2018年6月にはシンガポールで初の米朝首脳会談を実現した。金正恩党総書記は対米交渉を成功させるために、中国との伝統的な友好関係復活へ大きく舵を切った。しかし、ロシアのプーチン大統領との会談は2019年2月のハノイでの米朝首脳会談の決裂後の2019年4月のウラジオストクでの会談となってしまった。北朝鮮は米国との首脳会談決裂で、中国、ロシアとの関係修復に動いたが、プーチン大統領の反応は今ひとつであった。
 しかし、ロシアと北朝鮮の関係を新たに動かせたのはウクライナ情勢であった。ロシアは2022年2月にウクライナへの軍事侵攻を強行した。ロシアによるウクライナへの軍事侵攻について同年3月に開かれた国連総会緊急特別会合では、ロシアを非難し軍の即時撤退を求めた決議案に対し、欧米や日本など141カ国が賛成したが、反対したのはロシア、ベラルーシ、シリア、北朝鮮、エリトリアのわずか5カ国で、中国やインド、イラン、キューバなど35カ国は棄権した。

〇「砲弾不足」がロ朝関係を全般的に強化
 ウクライナ戦争が長期化すると、ロシアの砲弾不足が新たな問題として浮上した。ロシアと北朝鮮は昨年夏から急速に接近を始めた。
 2023年7月の朝鮮戦争休戦協定締結70周年の記念行事にショイグ国防相を団長とするロシア軍事代表団が訪朝した。そして、金正恩国務委員長が9月12日から17日までロシアを訪問し、ロシア極東アムール州のボストーチヌイ宇宙基地でプーチン大統領と会談した。
 その後、ラブロフ外相が10月18、19両日平壌を訪問し、19日に金正恩党総書記と面会した。ラブロフ外相は、崔善姫外相との外相会談で、9月のロ朝首脳会談でロ朝関係が「質的に新たな戦略的レベルに達した」と位置づけた。崔善姫外相は、両国首脳の決断と指導でロ朝友好関係は「不敗の戦友関係、百年の大計の未来志向関係」に発展していくと強調した。
 11月15日には、ロシアと北朝鮮の「両政府間の貿易・経済・科学技術協力委員会第10回会議」が開催され、北朝鮮の尹正浩(ユン・ジョンホ)対外経済相、ロシアのコズロフ天然資源環境相らが出席した。コズロフ天然資源環境相は16日に金徳訓(キム・ドクフン)首相とも会談した。この会議は金正恩国務委員長がロシアを訪問した際に開催が決定したものであった。双方は貿易や経済、科学技術、スポーツなど各分野での協力拡大を協議した。
 さらに、オレグ・コジェミャコ沿海地方行政長官(知事)を団長とするロシア沿海地方政府代表団が12月11日から15日まで訪朝し、尹正浩対外経済相と会談したほか、14日には金徳訓首相を表敬訪問した。
 ロシアと北朝鮮の間では昨年9月の首脳会談を契機に各分野での協力や交流が進んだ。それは一般経済部門だけでなく、軍事分野でも進んだとみられる。
 ロシアが最も必要としている152ミリ砲弾と122ミリ砲弾の供給を北朝鮮が担った可能性が高い。崔善姫外相は昨年10月28日、日米韓3カ国外相が北朝鮮のロシアへの武器提供を非難する共同声明に反論する談話を発表し、日米韓3国にはロ朝間のる互恵的な親善・協力関係に干渉する権利はないと非難した。しかし、ロシアに砲弾提供をしていないという具体的な言及はなかった。
 韓国の申源 (シン・ウォンシク)国防部長官は1月10日の聯合ニュースとのインタビューで、北朝鮮の武器取引の規模はコンテナ5000個分で、152砲弾で約230万発、122ミリ砲弾では約40万発だとした。
 ウクライナのゼレンスキー大統領は訪問中のエストニアでの演説で、北朝鮮がロシアに100万発以上の砲弾を提供したと主張した。
 さらに、米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官は1月4日の記者会見で、北朝鮮が複数の短距離弾道ミサイルと発射装置をロシアに提供したとし、昨年12月30日にそのうちの少なくとも1発をウクライナ南部ザポロジエ州に、今年1月2日にも複数の北朝鮮製弾道ミサイルを発射したと主張した。米国や韓国では発射された短距離ミサイルは北朝鮮版イスカンデルといわれる「KN23」とみられるとし、射程は900キロだったとした。
 北朝鮮がロシアに提供している砲弾の規模やミサイル提供の規模や中身についてはまだ不明な点も多く、さらに検証が必要だ。だが、様々な状況からかなりな規模の砲弾を提供していることは事実とみられる。英紙ガーディアンは1月21日、北朝鮮の羅津(ラジン)港でロシア船舶が荷物を載せる衛星写真を国連に提出したと報じた。ロシアと北朝鮮の武器取り引きへの公式調査を提起するために国連専門家パネルに写真を提供したものだが、積み荷が何であるかは明らかでない。

〇平和時のロ朝関係
 ロ朝関係を考える時に、平和時の関係と、戦時の関係により大きな差があるように思われる。平和時には、ロシアにとって北朝鮮の存在はそれほど大きなものではない。ロシアと北朝鮮の国境線はわずか17キロしかない。ロ朝貿易の規模は中朝貿易に比べれば比較にならないほど小さい。
 北朝鮮の中国への輸出品目は、国連経済制裁前は石炭や鉄鋼石がトップだったが、ロシアは石炭や鉄鉱石は国内で十分に供給することができる。平和時には、ロシアが北朝鮮から輸入すべきものはあまりない。ただ、ロシアにとって唯一、魅力的なものは北朝鮮の労働力だ。安くて勤勉に働く北朝鮮の労働力はロシア極東にとっては、魅力的な「資源」だ。
 北朝鮮から見れば、ロシアの石油や小麦は欲しいが、平和時にはこれらを輸入するためにロシアへ輸出するものがない。ロシアは、中国と異なり、無償で石油や小麦をくれるような国ではない。
 一方、平和時のロ朝関係にとって重要なのは「現在」ではなく「未来」だ。これまで、ロ朝間の経済協力で注目を浴びて来たのは、南北の鉄道連結をシベリア鉄道とさらに連結することで東アジアの物資を欧州へ移送することや、ロシアの天然ガスを北朝鮮経由で韓国や日本へ運ぶガスパイプライン構想などがあった。これもロシアと北朝鮮の経済協力ではなく、ロシアと韓国、日本との経済的な連結強化のために北朝鮮を経由地として活用し、北朝鮮はその経由の対価を得るというものであった。
 こうした鉄道連結やガスパイプライン構想などはいずれも南北朝鮮間の良好な関係、東アジアの平和を前提とした構想だ。南北が敵対関係になり、東アジアが戦乱の地になれば実現は不可能だ。

〇戦時のロ朝関係
 一方、戦時になれば、状況は変わる。ロシアはウクライナと戦争をしているからこそ、北朝鮮の砲弾が必要だし、欧米などから経済制裁をかけられている同じ境遇だからこそ、北朝鮮との関係はより大きな意味を持つ。北朝鮮も、米国との対決路線を堅持し、韓国と「敵対的な2国間関係、戦争中にある交戦国関係」にあるために、核ミサイルの開発に邁進しなければならない。そして、国連でさらなる制裁がかからないためにはロシアの拒否権が必要だ。
 北朝鮮が国際社会と対立し、経済制裁を受けているからこそ、経済制裁を無視し、石油を提供してくれる同じ制裁を受けているロシアの存在が意味を持つ。
 ある意味で、ウクライナ戦争があるからこそ、ロシアは北朝鮮を必要とし、北朝鮮もロシアを必要するといえる。
 ロシアも北朝鮮も、ウクライナ戦争を背景に2000年に同盟関係を解消した二国間関係を新しい関係に変えようとし始めているように見える。近い将来にあるだろうプーチン大統領の訪朝は「新冷戦」下での新たな二国間関係の定立を目指すのではないだろうか。おそらくは、同盟関係までは行かなくても、軍事協力を含めた準同盟関係のような関係改善へ向けて、2000年に締結した「ロ朝友好善隣協力条約」を改正し「両国関係を新たな法的基礎に引き上げる」ことを目指すのではないだろうか。
 それは、金正恩党総書記が2019年2月のハノイでの米朝首脳会談の決裂で学んだ新たな生存戦略なのだろう。米国との長期対決路線を遂行するためには、伝統的な中朝関係を基盤としながらも、ロシアとの軍事面を含めた準同盟関係への引き上げが、対米、対南における対決路線を支えると信じているように見える。