◎「ビデオゲームでやった通りに」 ロシア戦車破ったM2歩兵戦闘車の砲手、内幕語る

 

 

 ウクライナ北東部アウジーイウカ郊外の集落ステポベで先日あった小競り合いで、ウクライナ軍のM2ブラッドレー歩兵戦闘車は2両でタッグを組んでロシア軍のT-90戦車に挑み、武装も装甲も勝るこの戦車を無力化する殊勲を立てた。とはいえ、乗員たちは一歩間違えれば手ひどい結果になりかねなかった。
 米国から昨年200両近く供与され、ウクライナ軍の第47独立機械化旅団に配備されたM2の1両は、ロシア軍最高の戦車であるT-90に対して至近距離から25mm機関砲で数発射撃したあと、その場を離れて走り去る。バトンタッチされた2両目のM2が猛然と駆け出し、T-90に数十mの距離まで近づいて攻撃し始める。
 2両目のM2は25mm機関砲で徹甲弾(装甲の貫通を目的とした砲弾)を連射する。惨事になりかけたのはその時だった。
 砲手のセルヒーは地元メディアTCHのインタビューに答え「全力射撃しました。最初は対装甲(弾)で。でも、途中で問題が起きたんです」と語っている。
「問題」の詳細は不明だが、徹甲弾が底をついたのかもしれない。いずれにせよ、使う弾を、徹甲弾よりも貫通力の劣る榴弾に切り替えざるを得なくなった。
 セルヒーはT-90に徹甲弾を命中させていたが、追加装備の爆発反応装甲すら貫通していなかった。当然、数百mmの厚みがあるベースの複合装甲も貫通していなかった。
 これらの装甲や125mm滑腔砲を備えるT-90と比べると、M2は装甲もはるかに薄ければ砲も小さい。重量はT-90の50tに対してM2は30tだ。すべての条件が同じなら、M2はT-90にはまず太刀打ちできない。 

 だが、ステポベでのこの戦闘では、すべての条件が同じというわけではなかった。セルヒーは数週間前にドイツでの訓練を終えたばかりだったがとっさの機転を利かせた。
「ビデオゲームをしていたので、(どうやったらいいか)全部思い出したんです」(セルヒー)
 T-90の分厚い装甲を撃ち抜けなかったセルヒーは、この戦車の脆弱な部分である光学機器に狙いを定めた。
「ヤツ(T-90)の目潰しにかかったんです。逃げられなくようにするために」
 今回の劇的な戦闘を撮影したドローン(無人機)の映像は、その様子と結果も捉えている。セルヒーはT-90に1lb(0.45kg)弾をたたき込み続け、爆発反応装甲の一部を起爆させ、光学機器も破壊している。
 制御不能に陥ったT-90は、砲塔を回転させながら木に衝突して止まる。乗員3人は脱出したものの、うち操縦士はウクライナ側の捕虜になったとされる。T-90にはFPV(1人称視点)ドローンでとどめが刺され、残骸は何日間も戦場に置き去りにされた。
 M2のようなバランスの取れた歩兵戦闘車であっても、接近戦で戦車を仕留めるのは非常に難しい。しかし、セルヒーは臨機応変の戦い方でそれをやってのけた。どんな激戦でも装備と同じくらい技能が重要になるということを、あらためて示す一戦だった。