中国DJIの「新型ドローン」がロシア・ウクライナ戦争を変える可能性 | すずくるのお国のまもり

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お国の周りでは陸や海や空のみならず、宇宙やサイバー空間で軍事的動きが繰り広げられています。私たちが平和で豊かな暮らしを送るために政治や経済を知るのと同じように「軍事」について理解を深めることは大切なことです。ブログではそんな「軍事」の動きを追跡します。

◎中国DJIの「新型ドローン」がロシア・ウクライナ戦争を変える可能性

 

 

 世界最大手のドローンメーカーとして知られる中国のDJIは先日、同社にとって初の配送用ドローン「FlyCart 30」のグローバル展開を発表した。DJIは、自社の製品の軍事利用を防ごうとしているが、このドローンが戦場で使用されることは、避けられないと考えられている。
 中国の深圳に本社を置くDJIの製品は、世界のコンシューマ向けドローン市場の70%以上を占めると推定されており、特に、小さく折りたためる手頃な価格のMavicシリーズは、空撮のための優れたプロダクトとして知られている。Mavicsは戦場での偵察機としても優れており、数キロ離れたターゲットを発見するためのオペレーションでも威力を発揮する。
 さらに、小型ドローンは爆撃機としても使われており、ロシアのVOG-17や米国のM433といった手榴弾を投下して、塹壕や車両を破壊する際に使用されている。DJIはドローンの軍事利用を非難しており、2022年4月にはウクライナとロシアの両国で製品の販売を禁止した。
 しかし、ウクライナにおいてDJIのMavicは、小型ドローンの代名詞となっており、2023年10月にウクライナのデニス・シュミハル首相は、同国がDJIが製造したMavicの60%を購入したと述べていた。
 DJIのドローンは安価で操縦がしやすいことで知られており、FlyCart 30も同様の製品だと考えられている。
〇低価格ながら重量物の運搬に対応
 FlyCart30は、Mavicがコンシューマ市場を支配したように、配達用ドローンの世界を支配することを目指している。このドローンは、最大30kgの荷物を最長16km先まで輸送することができ、あらゆる地形や全天候での飛行に対応している。また緊急時には、内蔵パラシュートを低高度で開くことで、ドローンを安全に着陸させることが可能な斬新な設計となっている。さらに、制御範囲は最大20kmとされているが、操縦者がワンクリックで他の操縦者にコントロール権限を移譲できる機能も搭載している。
 FlyCart30の最高速度は時速72kmとされている。さらに、昼夜を問わず利用できるレーダーと障害物回避機能を搭載している。このドローンのグローバルでの販売価格はまだ明かされていないが、中国では約1万7000ドル(約250万円)で販売されている。
 アルファベットやアマゾン、ウォルマートなどは、何年も前から配達用ドローンの開発に取り組んできた。しかし、この分野でトップのエンジニアリングと生産能力を誇るDJIは、それらの競合のすべての製品を打ち負かすかもしれない。

〇爆弾や地雷の投下に活用
 ウクライナ軍は以前から、長距離偵察機としても爆撃機としても、DJIのMatrice 300といった大型ドローンを広く活用している。しかし、Matrice 300の最大積載能力が約2.7kgであるのに対し、FlyCart 30は最大約30kgのペイロードを搭載できる。
 他メーカーの重量物の運搬用ドローンがはるかに高価で、操作が難しいのに対し、低価格でこの性能を実現したFlyCart 30は、画期的なプロダクトだと言える。このドローンを用いれば、軍はより多くの爆弾や地雷を、低コストで投下することが可能だ。
 DJIが、FlyCartの軍事利用を防ぐためにジオフェンシングなどの対策を取り入れることは間違いないが、Mavicsの場合と同様に巧妙な軍のオペレーターはすぐにそれを回避するだろう。
 一方、米軍用ドローンメーカーのAeroVironment(エアロビロンメント)は最近、同社のマルチコプターVapor 55からのGPS誘導シュライク弾の投下テストに成功したと発表した。しかし、Vapor 55の最大積載能力は、FlyCart 30の約5分の1の約5kgだ。FlyCart 30は装甲車を破壊するのに十分な威力を持つ武器を搭載し、1回の出撃で何十回もの精密攻撃を行うことが可能だ。
 さらに、このドローンの積載能力があれば、バドゥーガ・ライフル・システムのように、60発の弾丸を搭載した高威力のライフルを搭載して、200メートルの距離から人間大の標的を正確に撃つことも可能だ。ライフルと弾薬がセットになったバドゥーガ・ライフル・システムの重量は9kg以下とされている。
 FlyCart 30はまた、複数のFPV(1人称視点)攻撃ドローンの母艦となるドローンキャリアとしても機能する。ウクライナもロシアもこのコンセプトの実験を行っているが、手頃な価格で重量物も運搬が可能なドローンがあれば、大いに役立つことは確実だ。
 DJIが配達用ドローンの巨大な世界市場を見据えていることは疑いようがなく、特にウィンチシステムは、緊急物資の運搬やレストランのデリバリーでも役立つはずだ。しかし、ドローンによる配送サービスが法規制の壁に直面し、なかなか軌道に乗らない一方で、軍事用ドローンのオペレーターは、合法であろうとなかろうと、このテクノロジーを最大限に活用しようとしている。