ロシア軍、古いけん引砲から自走砲の「砲身」に再利用 | すずくるのお国のまもり

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◎自走砲の「砲身」が足りないロシア軍、古いけん引砲から取り外して再利用

 

 

 北朝鮮から大量の砲弾が送られてきたおかげで、ウクライナで戦うロシア軍の部隊は砲弾に余裕がある。
 余裕がないのはりゅう弾砲の砲身だ。そして、ロシア軍が使い物にならない砲を解体することによって、最も活躍している砲を維持していることが明らかになっている。
 りゅう弾砲の砲身は通常、鋼鉄がもろくなったり曲がったりするまでに数千発は発射できる。 適切な時に消耗した砲身を交換しなければ、砲弾が砲の内部で爆発して大惨事になりかねない。このような事態は、ウクライナで1年11カ月にわたって繰り広げられてきたこの戦争の両陣営で幾度となく発生している。
 ロシア軍の砲手にとって、計算は容赦のないものだ。約1000kmに及ぶ前線に沿って配備されているロシア軍のりゅう弾砲は2000門ほどだろう。これらの砲は1日に少なくとも計1万発を発射している。
 平均すると1門あたり1日にたったの5発だ。このペースであれば、りゅう弾砲の砲身は1年強もつはずだ。だが実際には、前線の最も重要な方面の砲は平均よりはるかに多く発射し、一方で戦闘が少ない方面の砲は発射回数が少ないと考えられる。
 ウクライナ東部のアウジーイウカやバフムート、南部のクリンキ周辺に展開するロシア軍の砲兵隊は、数カ月ごとに砲身を交換する必要があるだろう。
 砲身の生産には高品質の鋼鉄と精密な機械加工が求められる。ロシアがウクライナに侵攻する前、ロシアで砲身を生産できる工場はペルミのモトビリハ工場とボルゴグラードのバリカディ工場の2つだけだった。ロシアが新たな生産施設を設立したのか、代替の砲身の調達先を外国に確保したのかは不明だ。調達先は北朝鮮かもしれない。
 いずれにせよ、現在のように高頻度のペースで大砲を撃ち続けるために必要な、何千もの交換用の砲身をロシアが生産するのに苦労しているのは明らかだ。

 オープンソースのアナリスト、リチャード・ヴェレカーによると、ロシアは冷戦時代のけん引式のりゅう弾砲を長期保管庫から数千門引っ張り出しているという。だが、ウクライナに侵攻した2022年2月以降にロシア軍が失った約1100の大砲を補うために、古いがさほど使用されていないそうした砲を必ずしも前線に送っているわけではない。
 そうではなく、技術者たちは代わりに古いけん引砲の砲身を外し、最も重要な自走砲の消耗した砲身と交換しているようだ。
 ヴェレカーは、ロシア軍のけん引砲の損失が急減していることに注目し、けん引砲は「(自走砲よりも)先に保管庫から引っ張り出されるが、これは砲身を取り外して自走砲に取り付けるためではないか」との結論に達した。
 ヴェレカーの主張が正しく、ロシア軍が自走砲を稼働させるためにけん引砲を解体しているとすれば、自由なウクライナを支持する者が気になるのは、ロシアにどれだけの古い砲が残っているのか、つまり砲身を新たに生産しなくても、どれだけ予備の砲身を用意できるのかという点だ。
 この疑問は、砲身がロシア軍の大砲供給のボトルネックになっているのか、そして砲身不足がロシア軍の火力を制限する可能性はあるのかという問いにもつながる。
 たとえそうした事態になるとしても、今年ではないだろう。ヴェレカーによると、ロシアは2021年に1万2300門の古いけん引砲を保有していた。2年近い戦闘を経て、保管されているけん引砲は7500門に減った。4800門もの古いけん引砲から砲身を取り外したことになる。
 回収された砲身とロシアの産業界が生産した砲身の合計数は、2000門のりゅう弾砲を2年間稼働させるのに十分なものだった。倉庫にまだ残っている7500門の古いけん引砲のほとんどが完全に消耗していないと仮定すると、これらの砲の砲身に取り替えることで前線のりゅう弾砲をさらに2年間稼働させ続けることができる。
 もしそうなら、ロシア軍の兵器供給は2026年に危機に陥る。偶然にも、それは同軍が歩兵戦闘車と戦車を使い果たす可能性のある年でもある。