英、哨戒艦をガイアナに派遣へ 同国侵攻を狙う隣国ベネズエラに対抗 | すずくるのお国のまもり

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お国の周りでは陸や海や空のみならず、宇宙やサイバー空間で軍事的動きが繰り広げられています。私たちが平和で豊かな暮らしを送るために政治や経済を知るのと同じように「軍事」について理解を深めることは大切なことです。ブログではそんな「軍事」の動きを追跡します。

◎英、哨戒艦をガイアナに派遣へ 同国侵攻を狙う隣国ベネズエラに対抗 後ろ盾の中露牽制の狙いも

 

 

【ロンドン=黒瀬悦成】英国防省は、南米ベネズエラと領土問題を巡って軍事的緊張が高まる旧英植民地のガイアナに英海軍の哨戒艦1隻を今月末までに派遣すると発表した。29日にもガイアナ沖で警戒行動を始める。ベネズエラの反米左派マドゥロ政権は、隣国ガイアナのエセキボ地域の領有権を主張して同国への軍事的威圧を強めており、哨戒艦の派遣は英政府としてガイアナ支援の立場を打ち出すと同時に、ベネズエラを通じて中南米での影響力拡大を図る中国とロシアを英米の連携で牽制(けんせい)する狙いがある。
 英国防省によると、ガイアナに派遣されるのは哨戒艦「トレント」(排水量約2千トン)。同艦は今月、別の任務でカリブ海に入っていた。
 ベネズエラのマドゥロ政権は、エセキボ地域に関し、今月3日の国民投票で「95%以上がベネズエラ編入に賛成した」と主張し、5日にはガイアナ国境に1個師団を配置すると発表した。
 一連の動きをベネズエラによる軍事侵攻の準備と見なした米南方軍は、ガイアナ軍と合同で警戒飛行を実施したほか、両国に隣接するブラジルも国境地帯に軍部隊を増派した。ブリンケン米国務長官とキャメロン英外相は、ガイアナの主権と領土保全を支持する声明をそれぞれ発表した。
 ベネズエラとガイアナは14日の首脳会談で「紛争の平和的解決」を確認したものの、緊張緩和への具体的な動きは出ていない。
 ベネズエラがここへきて領土的野心を露骨に示しているのは、中国やロシアの後ろ盾があるためだ。
 中国は、インド太平洋地域への関与強化を掲げる米英を欧州や大西洋地域にくぎ付けにする思惑を込め、ウクライナ戦争でロシアを支援する一方、米国の裏庭である中南米や、英領や英連邦加盟国の多いカリブ海で経済・軍事的影響力の拡大を図ってきた。
 中国はアルゼンチンで海軍基地の建設を目指しているとされるほか、アルゼンチンに1982年の英国との紛争で占領に失敗したフォークランド諸島の再上陸を扇動しているとの指摘もある。
 欧米の経済制裁に対抗してベネズエラと協力関係を深めるロシアもまた、エセキボをめぐる緊張が高まれば、ウクライナへの米英の関心が一層低下すると期待しているのは確実で、中露に後押しされたベネズエラが冒険的行動に打って出る恐れは否定できない。

 エセキボ ガイアナの国土の約7割を占める同国の西部地域。広さは北海道の約2倍にあたる約16万平方キロメートル。1899年の国際仲裁協定で当時英領だったガイアナの領土と認められたが、ベネズエラはエセキボの東を南北に流れるエセキボ川を国境とすべきだとして仲裁裁定は無効と主張している。国連のグテレス事務総長は2018年、ガイアナの要請を受けて紛争の解決を国際司法裁判所(ICJ)に付託したが、ICJの結論は出ていない。(ニューヨーク 平田雄介)