ウ軍M2歩兵戦闘車、地下のロシア兵を蹂躙 | すずくるのお国のまもり

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お国の周りでは陸や海や空のみならず、宇宙やサイバー空間で軍事的動きが繰り広げられています。私たちが平和で豊かな暮らしを送るために政治や経済を知るのと同じように「軍事」について理解を深めることは大切なことです。ブログではそんな「軍事」の動きを追跡します。

◎ウクライナのM2歩兵戦闘車、地下に隠れたロシア兵を踏みつぶす

 ロシア軍の人員訓練能力に過剰な負担をかけ、不十分な訓練による死傷者の増加という負のスパイラルを引き起こしてロシア軍を消耗させていくには、ウクライナ軍は2024年、ロシア軍に10万人の死者または重傷者を出させる必要があると、エストニア国防省は最近分析している。
 ウクライナ軍の第47独立機械化旅団は東部ドネツク州アウジーイウカの北方面で、早くもその仕事に着手している。
 第47旅団の米国製M2ブラッドレー歩兵戦闘車は、ロシア兵を何十人も殺害している。発射速度の速い25mm機関砲でロシア兵を吹き飛ばしたり、地下の隠れ場に慌てて逃げ込んだロシア兵を28tの巨体で押しつぶしたりもしている。
 今週、ソーシャルメディアで共有されたウクライナ軍のドローン映像には、アウジーイウカの北郊にあり北方面の戦闘の中心地になっている集落ステポベで、第47旅団のブラッドレーがロシア軍の歩兵突撃部隊とまみえた様子が捉えられている。
 ドローンは、廃墟と化しているステポベで、崩れ落ちた家屋の地下室の扉の奥に駆け込むロシア軍の歩兵チームの姿を発見している。ドローンの操縦士はブラッドレー側に、特徴的な緑色のその扉のほうへ向かうよう指示する。3人乗りのブラッドレーは地下室の上まで突き進んでいき、その車体で入り口をぺしゃんこにする。
 ブラッドレーはバックギアで後退していき、数発射撃し、発煙弾を放ったあと、向きを変えてウクライナ側の陣地へ戻っていく。
 これは、アウジーイウカ周辺に攻め込んでくるロシア軍に対するウクライナ軍の新たな戦い方である。目新しくはあるが効果的だ。戦闘車両での歩兵の粉砕というのは、ロシア軍の作戦が3カ月目に入るなか、アウジーイウカ攻防戦の無慈悲さと、ロシア側に偏って大きな損害が出ている現状も物語る。
 ロシア軍は10月10日、アウジーイウカに対する攻撃を開始した。疲弊した第110独立機械化旅団を含むウクライナ軍守備隊を包囲し、補給路を断ち、軍需品などを欠乏させるのが目標だ。
 攻撃は、ロシア軍が計12個前後の連隊や旅団を投入した最初の1カ月が最も強力だった。数十両の戦車や歩兵戦闘車から成る縦隊がアウジーイウカの北方面と南方面に突撃を繰り返した。
 だがロシア軍はすぐに、ウクライナ軍が今夏の機甲攻撃で学んだのと同じ教訓を学ぶはめになった。周到に準備された防御、具体的に言えば地雷やドローン、火砲によるキルゾーン(撃破区域)を、戦車などで突破しようとするのはきわめて危険だという教訓である。
 ロシア軍はウクライナ軍の攻撃で211両にのぼる車両を損失した。1個旅団分の重装備がまるまる失われたかたちだ。24時間体制で新しい戦車を生産し、冷戦時代にさかのぼる古い戦車の在庫が大量にあるロシアといえども、支えきれないほど高い損耗率だった。
 そこで、ロシア軍の指揮官は1カ月後、戦術を変更する。車両での攻撃から、下車した歩兵による攻撃に切り替えた。
 これは基本的には悪くないアイデアだった。というのも、ウクライナ軍も今夏の反転攻勢で、小規模な歩兵チームは敵の陣地を側面から攻撃したり、その後方に回り込んだりでき、装甲車では達成できないことをペースは遅いが達成できることを発見していたからだ。

 だが、ウクライナ側はロシア側の徒歩による攻撃に対する用意ができていた。ウクライナ軍の南部司令部は、第47旅団や第1独立戦車旅団をはじめ、隷下の最も装備の充実した部隊を、東部司令部に引き渡していた。これらの旅団のブラッドレーやレオパルト2戦車、T-64戦車がロシア軍の歩兵を迎え撃つことになった。
 支援のない歩兵は言うにおよばず、支援の薄い歩兵は簡単に装甲車の餌食になる。戦闘慣れした第47旅団のブラッドレーは11月、アウジーイウカの北方面で熟達ぶりを見せつけている。米国が今年初め、ウクライナの戦争努力におよそ200両の供与を表明したブラッドレーは、第47旅団がもっぱら運用している。
 ブラッドレーの主武装である25mm機関砲は、1ポンド(0.45kg)弾を毎分200発、毎秒1100mの速度で発射する。高精細で夜間にも対応した光学機器、精確な射撃統制装置と組み合わされた25mm機関砲は、残酷なまでに効果的だ。アウジーイウカ郊外でのある戦闘では、1両のブラッドレーが、ものの30秒のうちにロシア軍のMT-LB装甲牽引車3両を連続攻撃し、おそらくすべて撃破している。
 ウクライナ軍のブラッドレーについて、軍事アナリストのトム・クーパーは「歩兵への火力支援で有効であることを証明した」と解説している。いささか抽象的な言い方だが、要は攻撃してくるロシア兵をたくさん殺しているということだ。
 ロシア兵は地下に隠れても、荒ぶるブラッドレーの前では助からないかもしれない。ステポベで地下室に飛び込んだロシア兵たちはおそらく、命中すればひとたまりもない25mmりゅう弾から逃れようと考えていたのだろう。しかし、まさか地下室ごと自分たちを押しつぶしにくるとは思いもよらなかったのではないか。
 アウジーイウカに対するロシア軍の歩兵攻撃は、10月の機甲攻撃と同様に成功していない。ロシア軍はアウジーイウカの南北で1.5kmかそこら前進したものの、アウジーイウカを包囲して補給路を遮断することはできていない。一方で、少なくとも1万3000人の死傷者を出している。
 ロシア側にアウジーイウカでの勝利を望める理由があるとすれば、それは現時点でドローンと火砲の面で大きく優位に立っていることだろう。そして、米議会のロシア寄りの共和党員らがおよそ610億ドル(約8兆7000億円)の対ウクライナ支援を滞らせるなか、この優位性がさらに強まる可能性があることだろう。
 ウクライナにとって状況をさらに厳しくしているのは、隣国ポーランドのトラック運転手や農家がウクライナの同業者に仕事の一部を奪われたと抗議して、いくつかの重要な国境検問所を封鎖していることだ。
 ポーランドのドナルド・トゥスク新首相は封鎖を解くのに苦慮しており、ウクライナ軍へのドローンの運送にも数週間の遅れが生じている。ウクライナ向けの資金支出や輸送が1日遅れるごとに、アウジーイウカの防衛は弱まり、攻撃側は勢いづいている。