徒歩で突撃のロシア歩兵、ウクライナは戦車で迎撃 | すずくるのお国のまもり

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お国の周りでは陸や海や空のみならず、宇宙やサイバー空間で軍事的動きが繰り広げられています。私たちが平和で豊かな暮らしを送るために政治や経済を知るのと同じように「軍事」について理解を深めることは大切なことです。ブログではそんな「軍事」の動きを追跡します。

◎徒歩で突撃のロシア歩兵、ウクライナは戦車で迎撃 東部激戦地

 

 

 ロシアがウクライナで拡大した戦争が3年目に入ろうとするなか、両国のほとんどの戦車は戦車本来の戦い方をしなくなっている。ドローン(無人機)や砲門につけ回され、地雷に取り囲まれている両軍の戦車は、前線の数km後方にとどまり、主砲の角度を上げ、乗員からは見えない目標に向けて射撃することが多くなっている。言い換えると、戦車はりゅう弾砲のような使われ方をしている。
 だが、ある重要な戦域はその例外だ。ウクライナ東部ドネツク州にあるウクライナ軍の要衝、アウジーイウカ方面である。ロシア軍はこの2カ月、占領しているドネツク市のすぐ北西にあるこの町を攻略するため、使える連隊や旅団をこぞって投入してきた。
 ウクライナ側は、進撃してくるロシア軍部隊に代償を払わせるため、戦車を配備した。そして、これらの戦車はまさしく戦車の戦い方をしている。ミサイルなどの攻撃にさらされながら、ロシア軍の突撃部隊に接近し、砲撃を加えているのだ。
「戦車のおかげで防衛線を維持できています」。あるウクライナ兵はトルコの国営アナドル通信の取材にそう語っている。
 先週、ソーシャルメディアで共有された映像は、ウクライナ軍の戦車によるこうした反撃の様子を捉えていた。ドローンから撮影されたこの動画では、アウジーイウカの北翼にある巨大なコークス工場のすぐ東で、ウクライナ軍の第116独立機械化旅団に所属する戦車が、家屋に立てこもるロシア軍の歩兵チームに迫っている。
 T-64と見受けられる戦車は、簡単にロシア軍に狙われないように、急速に前進しては後退、そしてまた前進という動きをとりながら、主砲の125mm滑空砲で数回射撃し、いくつかの建物を破壊していく。途中、ロシア側から対戦車ミサイルとみられる攻撃に見舞われるが、すんでのところで被弾を免れている。最終的にロシア軍の歩兵は負けを悟ったらしく、家屋からそそくさと徒歩で逃げ出している。
 この小競り合いは、機動性、火力、防護という戦車の強みをまざまざと示している。同時に、歩兵は塹壕(ざんごう)に身を隠せなかったり、味方の戦車による支援がなかったりした場合、戦車の攻撃にどれほど弱いかということも露わにしている。
 アウジーイウカ方面に展開している総勢4万人とされるロシア軍部隊も、戦車などの装甲車両を保有していないわけではない。事実、最近は戦車同士の一騎打ちという珍しい一幕もあった。
 しかし、ロシア側は、攻撃に際して長い車列を組むのはあまりに脆弱(ぜいじゃく)だということを、アウジーイウカ周辺で大きな犠牲を払って学んだ。攻略戦の最初の1カ月、ロシア軍はアウジーイウカに向けて次々に縦隊を送り込んでは、ウクライナ側が町の南と東、北に用意していたキルゾーンで仕留められた。
 ウクライナ側の地雷や大砲、ドローンによる攻撃で、ロシア軍の縦隊は戦車や歩兵戦闘車、その他の車両を合計で数百両失った。11月中旬、ロシア軍の指揮官は戦術を変更し、歩兵を車両から降ろして戦わせるようになる。これは、ウクライナ軍が今夏、下車した少人数の歩兵チームで成功を収めたのを参考にしたのかもしれない。

 ウクライナの分析グループ、フロンテリジェンス・インサイトは11月24日、アウジーイウカ方面の戦闘について「ロシア軍は全体的に車両の使用を減らし、使う場合も投入数を絞っている」と報告。「小規模な戦術グループの使用が顕著に増えている」とも指摘している。
 だが、ロシア軍のこれらの歩兵部隊は、支援がない場合はウクライナ軍の経験豊富な戦車乗員の餌食になる。ウクライナ軍の指揮官もその点を理解しているようだ。ウクライナ軍はアウジーイウカ方面に少なくとも5個旅団の一部あるいは全部を配置した。うち4個は機械化旅団で、それぞれ、十数ないし30両の戦車を保有する1個戦車中隊もしくは大隊が置かれている。1個は戦車旅団で、こちらは数個戦車大隊を擁する。
 ウクライナ側が実際のところ、どのくらいの数の戦車をアウジーイウカの防衛戦に投入しているのかは不明だ。数十両かもしれないし、数百両にのぼるのかもしれない。いずれにせよ、古いT-64やそれよりは新しいT-72、ドイツ製のレオパルト2など、いろいろな戦車のごたまぜなのは間違いない。ロシア軍から鹵獲(ろかく)したT-90も数両含まれるかもしれない。だが、支援のない歩兵分隊は、これらのどの戦車にもかなわない。
 もっとも、ウクライナ軍のこうした戦車戦術によって、アウジーイウカが生き延びることが保証されるとは限らない。ロシア側がアウジーイウカ戦域に動員している兵力はウクライナ側より数千人以上多い。ロシア軍はこの方面で1日に数百人損耗していると言われるが、攻撃の手を緩める気配はない。
 英国防省によると、アウジーイウカでの戦いによって、ウクライナの1000km近くにおよぶ前線全体でのロシア軍の損耗は90%増えた。
 また、米首都ワシントンにあるシンクタンク、戦争研究所(ISW)は「ロシア軍はウクライナの前線全体で、ロシアが現在、新たに生み出している兵力をすべて失うのに近いペースで損失を出している可能性がある」と分析している。
 しかし、これは裏を返せば、ロシア軍では、経験のある兵士が殺傷されるのと同じくらいの数の新兵が、毎日投入されているということでもある。ISWは、ロシアは「ウラジーミル・プーチン大統領が国内での影響を吸収する用意があり、またそうできる限り」、アウジーイウカでの作戦を続けられそうだとの見方も示している。
 半面、ロシア軍は新たに動員する兵力をすべてアウジーイウカに費やすことで、現在もしくは近い将来、ほかの場所を攻撃する機会を失っている可能性もある。しかもロシア側はこれまで、アウジーイウカ周辺でごくわずかしか前進できていない。
 ISWによると「ロシア軍が作戦を継続する間、ロシアの戦力造成の取り組みが現在のペースなら、ロシアは高い損耗率のために、ウクライナにいる既存部隊を完全に補充・再編したり、新たな作戦・戦略予備を編成したりできない可能性が高い」という。
 ロシア軍がほかの作戦のために戦力をつくり出していくには、アウジーイウカの攻略に成功するか、それを断念するしかない。だが、ウクライナ軍の戦車が立ちふさがる限り、アウジーイウカを落とすのは容易ではないだろう。