ロシア軍防空を翻弄するウクライナ | すずくるのお国のまもり

すずくるのお国のまもり

お国の周りでは陸や海や空のみならず、宇宙やサイバー空間で軍事的動きが繰り広げられています。私たちが平和で豊かな暮らしを送るために政治や経済を知るのと同じように「軍事」について理解を深めることは大切なことです。ブログではそんな「軍事」の動きを追跡します。

◎ロシア軍防空を翻弄するウクライナ、巡航ミサイルで黒海艦隊司令部を爆破
David Axe | Forbes Staff

 

 

 ウクライナ空軍のスホーイSu-24M爆撃機から発射された英国製のストームシャドー巡航ミサイルが22日、ロシアが一方的に併合したウクライナ南部クリミア半島セバストポリにあるロシア黒海艦隊司令部を爆破した。
 同じ爆撃部隊、より詳しく言えばウクライナ西部に拠点を置く第7戦術航空旅団は9日前、セバストポリの黒海艦隊停泊地も攻撃し、ドライドック(乾ドック)に入っていた揚陸艦とディーゼル・エレクトリック潜水艦を破壊していた。
 重量1300キログラムのストームシャドーの破壊力は簡単に説明できる。ストームシャドーは2段式のタンデム弾頭を搭載していて、これがコンクリート製や鋼鉄製の目標を撃ち抜いて内側から爆発させるのに役立つのだ。1段目の弾頭は爆発によって目標の外殻に穴を空け、そこを通ってより大型の2段目が内部に到達する仕組みだ。
 とはいえ、これは第7戦術航空旅団がクリミアの防空網を通り抜けて攻撃できている説明にはなっていない。世界で最も危険な部類に入るであろう防空網をウクライナ側はどうやって突破しているのだろうか。ロシア軍に詳しいオーストリア人の作家トム・クーパーはこんな仮説を立てている。
・ロシア側のレーダーを妨害し、防空ミサイルの発射を阻んだ
・おとりを発射してロシア側に防空ミサイルを撃たせ、それによって発射機のミサイルを使い果たさせた
・やはりおとりを使ってロシア側の防空システム運用者の注意を引き付けつつ、別の方向からストームシャドーを撃ち込んだ
 あるいは、これら3つの戦術を組み合わせた。ともあれ「ウクライナ側は、ロシア側がストームシャドーを迎撃できる可能性はゼロに近いと言えるほど、その防空を圧倒している」とクーパーはニューズレターに記している。
 ロシアは2022年2月にウクライナに全面侵攻する前、2014年に侵略して違法併合したクリミアに、ロシア最高のレーダーや地対空ミサイルシステム、対空砲を多数配備していた。
 具体的には、射程約240キロメートルのS-400地対空ミサイルシステム少なくとも4基、その発射機最大40基のほか、より射程の短い対空システムであるパーンツィリ、ブーク、トーア計50基近くなどだ。これらの発射機や対空砲に合図を出すポドレットUレーダーも複数設置していた。さらに、クリミアの北に隣接するウクライナ南部ヘルソン州を占領したあとは、州の南部に射程の長いS-300地対空ミサイルシステムを配備した。このS-300は、いわば「クリミアの防空システムの防空」という役割を果たしていた。
 何重にもなった恐るべき防空システムだ。だが「結局のところ、これはうまく機能しなかった」とクーパーは指摘している。
 ウクライナ軍は8月上旬以降、ヘルソン州のS-300、クリミアのS-400を2基、付近のポドレットUレーダーを立て続けに破壊した。さらに、ロシア軍がレーダーなどを設けていた黒海西部の石油掘削施設2カ所も奪還した。

 しかし、これらの攻撃だけではまだ、最長320キロメートルを亜音速で巡航するストームシャドーと、1970年代に開発されたSu-24Mのために安全な通路をつくり出すには不十分だった。ウクライナ側は、奪還したヘルソン州北部にレーダー妨害装置を1基、よりあり得そうなのは複数設置し、電子ノイズを大量に流してロシア側のレーダー運用者を混乱させたのかもしれない。
「突然、ロシア側のレーダーと地対空ミサイルのカバー領域に大きな穴が生じた」とクーパーは書いている。「(ウクライナ側にとって)重要なのは、さまざまな兵器を組み合わせてこの穴を広げ、確保していくことだ。それはロシア側の防空システムを選別し、攻撃することによって行うことになる」
 実際、ウクライナ軍にはいろいろな選択肢がある。空軍のSu-24やスホーイSu-27戦闘機、ミコヤンMiG-29戦闘機から米国製のAGM-88対レーダーミサイルやGPS(全地球測位システム)誘導滑空弾を発射することもできるし、陸軍のロケットランチャーから同じく米国製のGPS誘導弾を撃ち込むこともできる。
 クーパーは、ロシアの防空を抜ける「回廊」によって、ストームシャドーとそのフランス版のスカルプEGが「ロシアによって占領されている地域の奥深く」まで飛行するための道が開かれていると解説している。
 ウクライナ側は、ロシア側の防空システムを混乱させて抑止しているのではなく、消耗させている可能性もある。この目的のためには、米国から供与されたADM-160空中発射デコイ(おとり)ミサイルが使えるだろう。
 ADM-160は基本的には重量135キログラムほどの巡航ミサイルだが、弾頭が付いていない。米国は今年の春までに、ADM-160をひそかにウクライナに供与していた。これは5月、ウクライナ東部でADM-160の残骸が確認されたことで明らかになった。供与数も公表されていない。
 ウクライナ空軍機はストームシャドーやスカルプEGを発射する直前に、ADM-160を発射しているのかもしれない。おとりミサイルは本物の巡航ミサイルの先を飛んでいるので、それがロシア側の対空ミサイルを引き寄せることになる。「ストームシャドーやスカルプEGが目標に迫っている時点では、ロシア側はそれを撃ち落とすためのミサイルがなくなっているだろう」(クーパー)
 クーパーが示している第3の可能性は、2つ目のバリエーションになる。おとりを、残弾を減らすためでなく、注意をそらすために使っているというものだ。おとりミサイルは北側からクリミアに近づき、そのすきに爆撃機が西側から攻撃するのかもしれない。
 ウクライナ側はおとりミサイルの在庫が乏しくなれば、ドローン(無人機)で補うこともできそうだ。「ADMと無人機を組み合わせてロシア側の防空を翻弄し、続いて本物のストームシャドウやスカルプEGを撃ち込むという手もある」とクーパーは説明する。
 ウクライナ軍は、クーパーを含むウォッチャーたちの想像を超えるような別の戦術を編み出している可能性もある。いずれにせよ、ウクライナ軍がどうやってクリミアのロシア軍の防空を押さえ込んだのかは推測の域を出ない。だが、ウクライナ側がそれを押さえ込んだことは紛れもない事実である。爆発した軍艦や司令部がその証拠だ。