◎現代戦研究会活動報告
 6月30日(木)、現代戦研究会は石井健二賛助会員(米国空軍予備役大尉)を講師に迎え、「米朝首脳会談から読み解く:北朝鮮の核放棄の意思はあるのか」についてオンライン形式で第二回研究会を実施しました。その成果について報告します。
1 研究発表の内容
(1)要旨
 講師が実際に第三回首脳会談に直接かかわった生々しい経験から、貴重な研究会となった。まず、トランプ大統領による3回にわたる米朝首脳会談について、第一回首脳会談の前の水面下の交渉から第三回の交渉までの時系列をたどってその詳細な経緯が明らかにされた。さらに、米朝首脳会談の成果は何だったのかが解説され、今後の北朝鮮の核開発に関する政策意思に関する講師の見解が示された。
(2)発表の骨子
Ⅰ.講話概要
 史上初めての米朝会談は、2017年トランプ政権初期の北朝鮮政権との間の軍事的緊張間の高まり、2018年の南北融和ムードなど、当時の米朝首脳会談の結果によって北東アジア安全保障環境の大きな転換の始まりが予感されたが、北朝鮮の核兵器を放棄させるには至らなかった。
Ⅱ.米朝会談に至るまで(水面下の交渉)
 国交がない中で、2017年から2018年前半における水面下の交渉が行われた。まず、ポンペオCIA長官とCIA朝鮮ミッションセンター長アンドリュー・キムが極秘訪朝し、米国の北朝鮮への要求事項が伝えられた。
Ⅲ.第一回米朝首脳会談(於:2018年6月シンガポール)
 首脳会談前の懸念事項と共同声明の概要について説明し、トップ交渉の危うさについて以下の4点が解説された。
① 相手(北朝鮮)ペースへの協議の進行を許した。
② 非核化の具体的な道筋を示せないままの合意文書が取り交わされ、「非核化」など の定義があいまいだったため、じ後の協議の停滞につながった。
③ 米国側が一方的な譲歩(米韓演習の中止)を行った。
④ 首脳会談そのものが、北朝鮮と交渉可能との認識が国際社会に拡散した。
Ⅳ.第二回米朝首脳会談(於:2019年2月ベトナム)
 非核化に対する米朝の主張の隔たりは大きく、予定されていた合意文書の署名式は中止されたことが説明され、こうした結果は事前に予測された。
Ⅴ.第三回米朝首脳の会合(面会)(於:2019年6月板門店)
実務者として会談に関わり会合の様子・警備状況について説明された。
Ⅵ.今後の北朝鮮核開発の意思
 米朝交渉を通じて「北朝鮮には核兵器を放棄する意思はない」が改めて確認された。
Ⅶ.結び
 米国が米朝首脳会談から学んだことは、「北朝鮮に対して、数か月で結論を出そうとするのではなく、数年かけるつもりで交渉にあたっていくしかない」との講師の見解が説明された。

2 質疑応答
問:教訓として数年かけ交渉すべきとの指摘だが、米国は北朝鮮が本当に核を放棄すると考えたのか。実際には交渉は90年代から続いており、交渉に掛けた時間の問題ではないのではないか。
答:トップ同士の交渉なら解決できると考えていたのは間違いない。ひざ詰めで質の高い交渉を続けることが大切だと考えている。
問:ウクライナでの戦争を見て北朝鮮は核とミサイルの開発の決意を強めた可能性はあるか。
答:その通りだが、北朝鮮をかまって欲しい一方、中国から離れたいという意思もある。
問:金正恩の健康問題とポスト金正恩をどう見るか。
答:米国も注視している。長男の存在や、軍事クーデターの評価も行っている。
問:金正恩の健康状況はどうか。
答:肥満からくる生活習慣病、満身的衰えなどの肉体的問題に加え苛立ち易いとった精神的な要素もある。
問:核の管理状況とその運用についてどう考えるか。
答:現状では実験のみであり、核の管理はできているとみており、米国にとって大きな脅威ではない。北朝鮮の実務者はロシア軍で教育されており技術は保有している。
問:現代では衛星からの情報収集も充実しているのか。
答:平壌の連絡事務所からのHUMINTと衛星情報の大きく2つある。後者にはサーモグラフィなど熱を感知するものも使える。
問:北朝鮮の核の脅威は小さいと言ったが、どういう面からそうなのか。
答:米国本土に届かない核であり脅威は少ない。米国の斬首作戦はやられたくないと考えていると見ている。