4 無記名債権、金銭は動産か

 

 無記名債権というのは、入場券や商品券のように債権者を氏名によって特定せず、その証券の正当な所持人を権利者とする債権です。現在は平成29年改正民法によって、無記名債権ではなく無記名証券と呼称されます。

 この無記名債権については、平成29年改正前民法86条3項で「無記名債権は、動産とみなす。」と規定されていましたが、同改正民法によって削除され、520条の2によって、これら無記名証券については、記名式所持人払証券に関する規定が準用されることになりました。これはどういうことか。有価証券制度の発展にかんがみ、無記名証券も有価証券法理によって取り扱われるべしとしたのだと思われます。具体的には、無記名証券を売買などで譲渡する場合には証券の交付をしなければ効力が発生しない、証券の所持人は正当な権利者と推定されるなどの規定に従うことになり、改正前民法の無記名債権のように、動産として取り扱われる以上、証券の交付が対抗要件となることになるわけではないということです。

 いずれにしても、旧民法86条3項が削除された以上、現在、無記名債権は動産とはみなされないということになります。


 次に金銭ですが、金銭も動産の一種です。しかし、その物的側面ではなく価値そのものに意味があるということから特殊な扱いがされています。ここのところがスッキリ理解できなかった私です。先に進めますと、金銭の取得は、一定数額の価値の取得にすぎないため、金銭の所有権は特段の事情がないかぎり占有とともに移転し、動産の即時取得に関する192条以下の規定が適用されない(判例)と説明されます。記念品とか特殊な意味を有するものでない500円硬貨を例にします。BがAの自転車を盗んだ場合、占有者はBであっても自転車の所有権はAに残ります。これに対して、500円硬貨を盗んだ場合は500円という抽象的価値は眼に見えず、物的な硬貨自体を補助にして浮かび上がってくるものです。だから、500円硬貨を盗んだ場合というのは硬貨自体がBに移転したというよりも500円という眼に見えない抽象的価値が移転したということになるのだと思います。そうだとすると、当該500円の価値自体はAの所有権として残り、価値自体の占有をBが有するというのはおかしなことなのだと思います。ちなみに、Bが500円の所有権を有するとした場合、Aがそれを返還請求するには不当利得返還請求や損害賠償請求になるのだと思われます。

 

 

5 従物・造作・定着物の違い

 

 まず従物とは、主物の常用に供するために付属している物をいい、主物とともに2個の独立性を有する物が互いに経済的効用を補い合っている物をいう。ここで注意すべきは、従物もそれ自体では独立した存在であるが、主物と一体になることで存在意義があるということです。

・建物に対する畳・ふすま・障子・エアコン等

・宅地に対する石灯籠、取り外し可能な庭石等

・金庫に対する鍵等

 

 従物は、主物の構成部分として埋没するのではなく、主物から独立した物である必要があります。これに対して、造作とは本来の建築上の意味では建物の構成部分であって従物とは異なります。具体的には建物の内部にある部材や設備のことであり、床や鴨井、ドア、階段、水道設備等をいいます。しかし、民法上、「建物に附加された物件で、賃借人の所有に属し、かつ建物の使用に客観的便益を与えるもの」と解されています(判例)。そうだとすると、借地借家法33条1項に例示されている畳・建具に加えて、上記の定義の下で「造作」に該当し得る物としては、本来の意味でのドアや床、階段だけではなく取り外しのできるエアコンも該当することになります。

 そうすると、畳やエアコンでも分かるように民法上は従物と造作が重なり合うものもでてきますね。重なり合うといっても、両者は法律的に機能する場面が異なるのだから特に問題はないと思います。

 

 定着物は、土地に継続的かつ物理的に固着されているものをいいます。例えば建物、樹木、石垣、塀等が定着物に該当します。これらは土地にしっかりと固着しており、簡単には取り外せないものですね。ここで、従物との違いを考えると、従物は主物の価値を高めるために付属している取り外し可能な物であり、定着物は土地や建物に物理的に固定されている物ということになると思います。

 

 最後に造作と定着物の違いを考えます。両者とも取り外しないし引き離しが困難であり固着性という点では共通しますが、造作は建物の内部に取り付けられた設備や装飾であり、定着物は土地に固定されている物です。不動産実務における取り扱いや法的な位置づけに違いがあります。

 

 

6 従たる権利とは何か

 

 この従たる権利については混乱しました。例をあげると、借地上の建物所有権が譲渡されると、敷地賃借権(借地権)も譲渡されることになります(判例)。「従物は主物の処分にしたがう」という民法第87条第2項は、物と権利との関係にも類推適用されることです。

 なぜ、私が混乱したかというと上記例において、主物は建物所有権という権利になるのか、それとも建物という物(不動産)になるのか教科書等では明確に説明していなかったからです。ここは所有権ではなく建物だという理解でいいと思います。

 

 

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