グルカゴンの反乱の本に対する評価は、立場によってかなり違うようです。もう一度僕の見解をまとめておきます。
1 日本においては麦飯を食べていた戦前は糖尿病はまれな疾患であった。麦飯を食べなくなった1955年から1965年の時点から、糖尿病の有病率が増加した。そして、麦飯を強制的に食べさせられる環境(刑務所)に置かれた糖尿病の人は、8割の高確率で改善がみられる。
2 大麦に豊富な水溶性食物繊維であるβグルカンをある量、ある期間(3から6g、4週間から12週間)人に食べさせる臨床実験が近年すでに数多くなされており、耐糖能の改善に有効であることが証明されている。
3 βグルカンから腸内細菌の働きによって短鎖脂肪酸がつくられ、この短鎖脂肪酸が大腸のL細胞からGLP-1の分泌刺激となることがわかったのは最近のことである。以前は小腸下部のL細胞でおこるGLP-1の放出に焦点が置かれており、これをインクレチン効果と呼んでいたが、大腸におけるL細胞に関してはその役割ははっきりしていなかった。この部分は腸内細菌やβグルカンの研究者の果たした役割が大きい。セカンドミール効果の主役は大腸のL細胞である。
4 糖尿病の治療薬としての観点からGLP-1自体の研究も進み、その多様な役割がはっきりしてきた。より少ないインスリン量で血糖をコントロールするためにGLP-1が重要となる。
ここまでが本を見る前に知りえた事実でした。
5 最後にグルカゴンの反乱の本に書かれていたことが、決定的であった。この本の著者は水溶性食物繊維に焦点を絞るべきことには気づいていない。しかし、GLP-1の分泌を増やすことによって、通常状態にグルカゴンを制御できれば、かなり進行しインスリン分泌が落ちてしまった糖尿病の患者においても血糖をコントロールできうる可能性に対し理論的な根拠を与えてくれたのは大きい。
ネズミの実験が多いとか、人のデータが少ないという反論に対しては、1、と2の視点から見ればすでに十分あるのである。
また、グルカゴン自体は悪くないのではという批判もあったがそれも的外れであり、だれもグルカゴンを過度に抑制すべきとは言っていない。異常分泌がコントロールされるべきでそれにはインスリンだけでなく、GLP-1が深くかかわっていたのだ。
6 つまりグルカゴンの反乱の本の位置づけは理論的な仮説というより、すでに確認されていることの理論的な裏付けになっているのである。そしてそのことは本の著者も気がついていないようなのだ。ここが勘違いされる点である。